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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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四日目・昼 アンデッドモンスター

再びユウマ視点から。今回も途中で視点が切り替わります。

 それから一通り住宅街を探索して、何もないことを確認した俺たちは、大久保通りへと足を向ける。



 大久保通りを進むこと数分。俺たちは食屍鬼とはまた別の、一匹のモンスターに遭遇した。

 ふらふらと歩くそいつは、食屍鬼かと思ったがどうやら様子が違う。

 そいつの皮膚はぐずぐずに溶けだし、腕や足なんかは骨が露出していた。あたりには強く腐臭が漂い、ソイツの身体が腐っていることを教えてくれる。



「今度はゾンビですか」


 とミコトが顔を引きつらせながら言った。

 その声が聞こえたのか、ゾンビがぐるりと俺たちに振り向く。


「ぐぐぁ」


 溶けだし、ぐずぐずになった皮膚が地面へと垂れ落ちる。

 そいつは、声にならない声を出して、眼球の落ちたその目を――真っ黒で中身には何も詰まっていないその目を俺たちへと向けた。



「ひぃっ!」


 とミコトが悲鳴を上げた。


「ダメです、ユウマさん。私、コイツは無理です。生理的に受け付けません!」


 ミコトは甲高い悲鳴に近い声を出す。



 俺は、そんなミコトの前に出ると小太刀を抜いた。


「ユウマさん、戦うんですか!? ダメですよ、逃げましょう。あいつ、腐ってるんですよ!? 近づいたらどんな菌を貰うか分からないです。逃げましょう!」



 捲し立てるようにミコトは言った。

 俺はそんなミコトに目を向けると、


「いや、アイツはここで倒す。経験値にさせてもらおう」

「どうしてですか! 別に、あのモンスターじゃなくても経験値にできますよ!」


 すぐさまミコトが反論を言った。



 俺はその言葉に首を横にふる。


「初見のモンスターだ。一度、その強さを知っておかないと後々出会ったときに対処が遅れる可能性がある」



 このゾンビと格の違いがある、という感覚はない。

 だとすれば、どのような攻撃をしてくるのか、どのくらいの強さなのかは相手が一匹であるうちに知っておくべきだろう。



 ミコトは俺の言葉に「うー」という唸り声を上げると、


「――――じゃあ、私は援護だけします。近づきませんよ、いいですか!?」


 と言った。



「もちろん」


 と俺は笑って、ゾンビと向き合う。



「それじゃあ、行くぞ!」


 掛け声を吐き出すと同時に、俺はゾンビに向けてダッシュした。



 距離を詰めた俺に、ゾンビがゆっくりとした動作で腕を振り下ろす。

 その腕を俺は半身を捻って避けると、小太刀を振ってゾンビの腹を横薙ぎに斬りつけた。



「アアアアア」


 切り裂いた腹からぼたぼたと腐った体液を垂らし、ゾンビが俺に抱きつこうとしてくる。



 どうやら、こいつに痛覚はないらしい。

 俺はゾンビの抱きつきから、ステップを踏んで簡単に避けると、手に持っていた小太刀でゾンビの首を斬り飛ばした。


 ぼたり、と首が落ちてゾンビの身体が空気に溶けて消えていく。



「終わり、なのか?」



 拍子抜けして俺は言った。

 あまりにも一瞬で片が付いたおかげで、ミコトが援護をする間もなかったぐらいだ。

 食屍鬼が強敵だったから身構えていたが、ゾンビはあまりにも弱すぎる。

 ゾンビの動きも、その攻撃の速度も遅い。ゾンビの攻撃に当たる方が難しいぐらいだろう。


 さらに言えば耐久力もないに等しい。振るった小太刀にさほど力を入れなくてもゾンビの首はあっけなく落ちていた。耐久力で言えば、ゴブリンやコボルドよりもちょっとだけ高いぐらいか。



「終わったぞ」


 と戦いを見守っていたミコトに向けて俺は言った。



「弱いモンスターだった。これならミコト一人でも十分に倒せる――」

「無理です。絶対に、無理です」


 俺が言い終わるよりも先に、ミコトが激しく首を横に振った。


「見た目が嫌なのか?」

「見た目というか、存在というか……。ホラーが苦手、ってさきほど言いましたけど、正確に言えば昔からゾンビ映画が苦手なんですよね。何というか、人の姿をしてて腐ってるその姿がどうも苦手で」


「食屍鬼は平気なのに?」

「食屍鬼は腐ってないから大丈夫です」


 ミコトは即答した。

 どうやら、ミコトにとって重要なのは腐ってるか腐っていないかという点だけらしい。


「――というか、そもそもですね。この街、どうしてアンデッド系のモンスターばかりなんですか!」


 とミコトが声を荒げた。



「確かにな。今のところ、出会うモンスターは食屍鬼とゾンビだし」



 あれだけ居たゴブリンやグラスホッパーラビットなどのモンスターを新宿に入ってからは全く見かけない。

 まるで、神田川を境に出現するモンスターの傾向が変わったかのようだった。



「この調子でいけば、次に出会うアンデッド系のモンスターはスケルトンか?」


 と俺が冗談混じりで言ったその時だった。



 カタカタと、何か固いものがぶつかる音が俺たちの間に割って入った。

 思わず、俺たちはお互いに顔を見合わせる。



「この音って」

「はい、ユウマさんの想像通りだと思いますよ」


 とミコトは言った。



 俺はため息を吐き出して、小太刀を再び構える。


「極夜の街って、そういうことなのか?」

「極夜がアンデッド系のモンスターを指しているということですか?」

「可能性はあるだろ。……じゃないと、ここまで統一してモンスターが現れるはずがない」

「まあ、確かにそうですね」



 そんな会話をしていると、カタカタと響く音が徐々に大きくなってくる。

 その音の方向へと目を向けると、想像通りというべきか――人の形をした骨が俺たちに向けて歩いてくるところだった。



 そいつらの姿を例えて言うなら、理科室なんかに置いてある人体骨格標本といったところだろうか。

 全身の骨が歩くたびにぶつかり、音を立てる。

 どうやら、聞こえてきたカタカタという音はコイツの骨と骨がぶつかり合う音だったらしい。



 俺たちに向けて歩いてくる骨――いや、スケルトンの数は二匹。その手にはそれぞれ、棍棒が握り締められていた。


「スケルトンとは戦えるの?」


 と俺はミコトに聞いた。


「骨なら大丈夫です」


 とミコトは力強く頷いた。



「それじゃあ、一匹ずつだな」

「分かりました」


 と俺たちは会話を交わし、お互いに武器を手に持ってスケルトンへと接近した。



 スケルトンは接近してくる俺たちに足を止めると、手に持っている棍棒を構えて迎え撃つ態勢を取った。

 俺は振り下ろされる棍棒を叩いて軌道を逸らすと、素早く懐に潜り込む。



「ふっ」


 と気合を入れて小太刀を振う。

 振るわれた小太刀は真っすぐにスケルトンの首を捉え、あっけなく首を飛ばした。



「あれ?」


 あまりにもあっけないその手ごたえに、俺は首を傾げる。



「ミコト、こっちは終わった――」


 そう言って、ミコトへと目を向けたその時だった。


 ――ゴッ。


 と頭を殴られて、俺は勢いよく前に倒れ掛かる。



 慌てて後ろを振りむくと、そこには頭のないスケルトンの身体が、その手に持った棍棒を振り下ろした態勢となっていた。



「――ッ!」


 こいつ、死んでなかったのか!?



 上昇したDEFの影響からか、スケルトンに棍棒で殴られたからといって戦闘不能になることはない。

 身体の感覚的には、俺が今コイツに殴られて負ったダメージはほとんどない。

 それは、コイツのステータスが――恐らくだが、今の俺よりも弱かったからだ。

 これが格上のモンスター相手だったら、今のは確実に危なかった。



 俺は、スケルトンの棍棒を握りしめていた手を斬り飛ばすと、すぐさま距離を取った。



「ミコト! こいつら、すぐには死なないぞ!」

「分かって、ますよ!」


 声をかけると、息が途切れた言葉が返ってくる。



 目を向けると、ミコトが相対したスケルトンの額には槍が突き刺さっており、それなのにも関わらずスケルトンは、ミコトへと手に持つ棍棒を振り回しているところだった。

 小さなその身体を駆使して、振り回される棍棒から身を守り避けながらミコトが言葉を続ける。



「きっと、どこかに弱点があるはずです! 今までのモンスターとは違う、弱点が! 倒せないモンスターだなんて、説明が付きません! きっと、何かあるはずです!!」

「弱点……」



 ミコトの言葉に、俺は自分が相対していたスケルトンを見つめた。

 これまで、確実にモンスターの息の根を止めてきた頭はもうない。だとすれば、スケルトンの弱点はもっと別の何か、ということになる。



【視覚強化】を使い、スケルトンの全身をくまなく観察する。

 スケルトンの身体に残された箇所は首、両肩、両腕、右手。背骨と骨盤、それに連なる大腿骨……。スケルトンの身体には肋骨に包まれた拳ぐらいの赤い石があって――。



「赤い、石?」



 待てよ。それはおかしい。

 どうして、スケルトンに赤い石なんかが付いている?

 スケルトンは骨のモンスターだ。それなのに、どうして骨以外のものがその身体にあるんだ?

 それにあの赤い石の、あの位置は……。



「……試してみるか」



 俺は唇を湿らせて、小太刀を構えた。

 カタカタと音を立てるスケルトンに素早く接近して、スケルトンが腕を振り上げるよりも早く小太刀を肋骨の間へと突き刺す。


 ――パキン。


 突き刺した小太刀の先端が、赤い石の表面へと突き刺さった。



 途端に、赤い石全体にその箇所を中心として蜘蛛の巣状にヒビが広がる。

 同時に、今までカタカタと動いていたスケルトンの身体が止まった。

 赤い石を中心としたヒビはスケルトンの身体全体にまで広がり、やがてその身体は空気に溶けるように消えていく。


 ……やっぱりだ。思った通りだった。


 俺はすぐさまミコトに声をかけた。



「ミコト!」

「なんですか!」

「胸の石! あれを砕け!!」

「石? それが弱点ですか!?」


 スケルトンに向けて槍を突き出し、牽制をしながらミコトが言った。


「そうだ! あれは俺たちで言うところの心臓だ! アレを砕けばこいつらは死ぬ!!」

「――なるほど。分かりました!」



 ミコトは俺の言葉に頷くと、槍を構えて身を低くした。

 その態勢のまま、地面を舐めるように駆けると一気にスケルトンの懐へと接近する。



「はぁッ!」



 気合の声と共に、ミコトは直槍を突き出した。

 突き出された直槍は真っすぐに胸骨を貫き、その奥にある赤い石へと到達して、砕く。


 その瞬間、ミコトに向けて棍棒を振り回していたスケルトンの動きが止まった。

 全身の骨にヒビが伝わり、やがてスケルトンが空気に溶けていく。

 スケルトンが完全に空気に溶けたことを確認して、俺たちはようやく息をついた。



「はぁー……。どうなるかと思いました」


 とミコトは言った。


「まさか、頭を突いても動くとは思いませんでした」

「まったくだ。こっちなんて、頭を斬り飛ばしても動いてたぞ」

「それは……。結構怖い光景ですね」

「ああ、普通にホラーだった」


 と俺は小さく笑った。


「おかげで、一撃食らってしまった」

「えっ! 大丈夫ですか!?」



 ミコトが目を見開いた。

 俺はミコトに向けて、無事を示すように笑う。



「大丈夫、なんともないよ」



 そう言って、殴られた箇所を手で触れると、そこには瘤ができていた。

 だが、皮膚が切れている様子もない。

 念のために、俺はスマホを取り出しステータス画面を開く。




 古賀 ユウマ  Lv:9 SP:1

 HP:50/52

 MP:15/15

 STR:27

 DEF:20

 DEX:21

 AGI:23

 INT:15

 VIT:22

 LUK:42

 所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化




 減ったHPはたったの2。

 以前だったら確実に、もっとHPは減っていただけに、やはりDEFの影響で怪我をしにくい身体になってるんだなと実感する。



「大丈夫ですか? 【回復】しますか?」


 とミコトが心配そうに言った。


 俺は首を振って答える。



「いや、大丈夫。HPもほとんど減っていない。このままでいいよ」

「気分が悪くなったら、すぐに言ってください」

「ああ、ありがとう」



 俺はミコトに笑いかけて、スマホをポケットに仕舞い込んだ。



「それじゃ、進むか」


 と言って俺たちはアンデッド系のモンスターが蠢く新宿の街をまた歩き出す。



 ストーリークエストはまだ、始まってすらない。



                  ▽ ▽ ▽


「……ふむ」



 ユウマ達がスケルトンとの戦いを終えたのを見て、離れたビルの瓦礫の陰からその様子を見ていた少女が声を上げた。



「やはり強いの」



 スケルトンは食屍鬼に比べれば格段に弱いモンスターだが、それでも決して油断は出来ないモンスターだ。

 他のモンスターならば頭を潰せば息の根は止まる。

 だが、スケルトンに関して言えばいくら頭を潰そうが仕留めることは出来ないのだ。

 唯一、倒せる手段は胸の赤い石を砕くこと。

 その弱点に、あの青年はいち早く気が付いていた。



「本当に、何者じゃ?」



 疑問を呈したその言葉に、誰も答えるものはいない。

 だが、その疑問もすぐに解決されることとなる。

 スケルトンに勝利をした彼らは、何事かを話すと青年はポケットからそれを――スマホを取り出したのだ。



「――――」



 取り出したスマホを見て、その少女は言葉を失った。

 だが、それも束の間のことで、少女はくくっと喉を鳴らすように笑うと口を開く。



「――ようやく、見つけたのじゃ」



 ユウマ達が歩きはじめ、その少女はまた笑う。



「逃がさぬぞ」



 そう呟くと、その少女はユウマ達の後ろを追いかけた。

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