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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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四日目・昼 食屍鬼




 周囲に気を配りながら歩くこと数分。

 百メートルほど先の廃墟となった家屋の陰に、俺は動く影を見つけた。



「あれは……」



 じっと、その廃墟へと目を凝らす。

 真っ先に目に入ってくる長い手足と青白い肌。

 その姿は、間違うことなく人間だった。体格から見て、成人した男だろう。

 その男は、全身を俺と同じような麻の上下服で身を包み、一心不乱に口に何かを詰め込んでいるところだった。



「人、か?」

「人ですか?」



 【視覚強化】がないミコトには、百メートル先の光景なんて詳細に目にすることが出来ない。

 俺の言葉に疑問を投げかけるようにミコトは言った。


 だが、俺はその声に答えることが出来ない。

 いや、正確に言えばその人間を見て言葉を失っており、隣から声をかけてくるミコトの言葉に反応することすらできなかった。



「っぷ!」



 胃液がせり上がってくる。

 この目で見た光景を脳が理解することを激しく拒否をする。

 けれど、いくら拒否をしたところで、目に見えるその光景は変わらない。


 ――その男は、人を食べていた。


 一心不乱に、口元を血で汚しながら、ただ黙々と人を食べていた。

 男が口を動かすたびに、口から真っ赤な血が流れ落ちる。



「一体、どうしたんですか?」


 身を乗り出して、俺が目を向けるその方向をよく見ようとしたところで、俺はミコトの腕を掴んだ。


「ユウマ、さん?」



 俺のただ事ならない雰囲気を察したのだろう。

 ミコトが何かを察したかのように、警戒を滲ませた。



「ミコト、ホラーは得意か?」

「ホラー、ですか? いえ、あまり得意じゃないですけど」


「スプラッターはどうだ?」

「それも苦手です。でも、この世界に来てからだいぶ慣れましたけど……。って、いったいどうしたんです?」

「ホラーもスプラッターも苦手なら、見ない方がいい」

「どういうことですか?」


 要領を得ない俺の言葉に、ミコトの瞳にはさらに警戒の色が濃く滲んだ。


「何を見たんですか? ホラーやスプラッターのことを聞くということは、あそこにいるのは、そういうことなんですね?」



 確認をするようにミコトは言葉を口に出す。

 俺は何も言うことなく頷いた。

 見た内容を口にするのは簡単だ。

 でもだからこそ、その内容を口にすることは憚れた。

 ミコトは考えこむように眉間に皺を寄せると、やがて口を開く。



「逃げましょう。勝てる勝てないの相手じゃない、ということですよね? そこにいるのは」

「……そう、だな。できればもう二度と目に入れたくない」


 しばらくは生肉が見れそうにない。

 そんなことを思いながら、踵を返そうとしたその時だった。


「…………」


 突如、人を食っていたその男が顔を上げた。

 俺たちとその男との距離は、百メートルは離れている。

 にもかかわらず、その男と俺の目はぶつかった。そんな気がしたのだ。



「まずい」


 全身にぶわっと鳥肌が立つ。


「見つかった」

「えっ」

「こっち、見てる」



 ミコトに状況を説明しながらも、俺は手に持つ小太刀を鞘から引き抜く。

 ミコトには見えないであろう光景だったが、それでもミコトは俺が強張らせた顔で小太刀を抜いたことで、瞬時に状況を理解したのか直槍を構えて戦闘態勢を整えた。



「ユウマさん、私にはまだ見えません。状況が変われば言ってください。一応、【遅延】の準備だけはしておきます」

「分かった」


 俺たちは短くやり取りを交わす。


 それから、俺はその男の観察に注意を向けた。

 男は、俺に向けて唇の端を持ちあげて笑うと、口を動かす。

 男が何を言ったのかはこの距離では聞こえない。

 けれど、俺はその唇の動きからはっきりと男が何を言ったのかを理解した。



『あたらしいえものだ』


 と男はそう言ったのだ。



 男は立ち上がり、ふらりと身体を揺らしながら動き出す。

 一歩、二歩と足を俺に向けて踏み出してくる。



「動き出した」


 と俺はミコトに言った。


「こっちに来てる!」

「迎え撃ちますか?」

「明らかに俺たちを襲うつもりみたいだし、迎え撃とう!」



 男は、俺たちに向けて走り出していた。

 明らかに、友好的な雰囲気はない。



「…………見えました」


 とミコトが言った。



 今やその男と俺たちの距離は数十メートルほどとなっている。

 瞬く間に距離を詰めてくるソイツの姿に、ミコトの顔が青くなっていく。



「ユウマさん、あの人の口……。あれって――」

「考えるな。あれは人じゃない」


 と俺は結論を下した。


 あれは化け物だ。見た目は同じ人間だが、その本質は全くの別。

 人間離れした青白い肌、人を食べるという行為から、もはやモンスターと呼んでも過言ではない。

 人――いや人間の死体を食べる化け物。

 食屍鬼グール、そう呼ばれる類のモンスターだ。



「獲物ダァ!」


 と食屍鬼が叫んだ。


 これまで出会ったモンスターとは違う、はっきりとした言語。

 その言葉に、俺の背筋に冷たい汗が流れる。



「ユウマさん、あの人、喋ってる!! 本当に、モンスターなんですよね!?」



 言葉を聞いたミコトが焦りを含んだ声を漏らした。

 俺はすぐさま言い返す。



「俺たちを見て、『獲物だ』なんて言う奴が人間なわけあるかよ! 気合入れろ、くるぞ!!」


 真っすぐに、食屍鬼の男は俺たちに突っ込んできた。


「獲物、獲物、獲物ォオ!」



 狂ったように言葉を張り上げながら、真っ先に俺に向けて拳を握りしめて振う。

 俺はその拳を見切り、避けるとカウンター気味に拳を打ち込んだ。



「グッ」


 と男が身体をくの字にしてよろめく。

 その隙を逃さず、俺は手に持っていた小太刀を突き出した。


「オット」


 だがその小太刀の刃を、すぐさま気を取り直した食屍鬼の男は、身を屈めて避けた。


「甘イナ」


 そして、その姿勢のまま素早く足を払って俺の態勢を崩してきた。



「くっそ!!」



 地面に手をついて、なんとか転倒を免れる。

 だが、大きな隙が出来てしまった。


 食屍鬼の男がニヤリと笑う。そしてその男は、両手を組むとハンマーのように振り上げて、態勢を崩した俺へとそれを振り下ろした――。


「私を、忘れないで!」



 その寸前、ミコトが横から直槍を男へと突き出した。

 男はすぐさまミコトの動きに気が付き、回避行動をとる。半身を捻るようにミコトの槍を避けるが、それよりも先にミコトの槍は男へと届いた。



「グオッ」



 右肩を貫かれ、男の身体から真っ黒な血が噴き出る。

 だが、その攻撃は男を戦闘不能にさせるには至らない。

 ミコトもそれが分かっているのか、舌打ちをするとすぐさま槍を引き抜いた。



「邪魔ダ」


 と食屍鬼の男はミコトを見据える。


 男は地面を蹴り、瞬く間にミコトへと距離を詰めると右足を振った。



「くっ」


 男の蹴りに合わせて、ミコトは槍の柄で身体を守った。


「あぁッ!」


 ガン、という音とともにミコトの身体が吹き飛ぶ。

 蹴りの直撃は防いだが、小さなその身体は男の蹴りの衝撃に耐えることが出来なかったのだ。



「ミコト!」


 地面を転がるミコトに、俺は声を出す。


「大丈夫、です!」


 とミコトは言った。

 ミコトはすぐさま起き上がると、槍を構え直す。


「それよりも、ユウマさん。コイツ、強いです」

「ああ……。分かってる」


 と俺は言った。



 少なくとも、グラスホッパーラビット以上。ホブゴブリンにも引けを取らない。

 本気で臨まなければいけない相手のようだ。



「ミコト、五秒だけ時間をくれ」

「分かりました。【遅延(ディレイ)】使わせていただきます」

「分かった」


 俺たちは短くやり取りを交わす。


「いきます!」


 そう声を上げると、ミコトはその時間を作るべく、すぐさま食屍鬼の男へと駆け出した。



「――【遅延】5秒(ファイブセコンド)!」



 ミコトが【遅延】を発動させて、食屍鬼の男とぶつかる。

 ミコトの作ってくれる時間を無駄にするわけにはいかない。

 俺はすぐさま目を閉じ、精神を集中させた。



「ふぅー……」


 息を吐いて、深く自分の内側へと潜る。


「すぅー……」


 息を吸って、目を見開く。



「【集中強化】」


 と俺はそのスキルの名前を呟いた。



 ――その瞬間、世界が変わる。





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― 新着の感想 ―
[一言] 天使には浄化やターンアンデッドを獲得するチャンスだな
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