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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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四日目・昼 新宿

 それから、俺たちは消費したミコトのMPが回復するまでゆっくりと休息をとって、東中野駅を後にする。



 中央線に沿って、割れた道路を進む。倒壊した雑居ビル群を抜けて、東へと足を進めていく。

 やがて、俺たちは都内に流れる川に行き着く。


 かつては神田川と呼ばれた川だ。この川を挟んで、中野区と新宿区は分かれている。


 神田川を流れる水は見受けられず、干上がった川底には砂とビルの倒壊で流れ込んだのか瓦礫しかなかった。

 川の間を渡していた鉄筋とコンクリートで作られた橋は、やはりというべきか崩壊している。

 どこか渡れる場所はないかと辺りを探索してみたが、どの橋も崩壊し落ちていた。



「どうしますか?」


 とミコトが川底を見つめながら言った。


「一応、下に降りて昇れなくはなさそうですけど」



 川底から上までは二、三メートルほどだ。

 今の俺たちのステータスならば、確かに登れなくはない。

 だが、いちいち降りて昇っている間に、ストーリークエストが始まってしまうことが怖い。もし、モンスターに襲われてしまえばこの狭い川底で戦わなければならなくなってしまう。


 コンクリートの壁で補強された川底は、言い方を変えれば人工的に作られた小さな谷底そのものだ。

 もし俺たちの見知らぬモンスターがどこかに隠れていて、俺たちが川底に降りたあとに姿を現されたら、俺たちは地の利を生かすことも出来ずに瞬く間に不利な戦いを強いられることになる。

 それだけは、絶対に避けなければならない。



 俺はミコトの言葉に首を振った。


「いや、それはモンスターに襲われた時が怖い。別の方法で渡ろう」

「別の方法?」


 ミコトが不思議そうに首を傾げた。


「ああ、すぐに向こう側へ渡れる方法だ」


 と言って、俺は口元に笑みを浮かべた。



「ミコト、ちょっと前向いてて」

「前、ですか?」



 俺の言葉にミコトが不思議そうな顔をしながら、川を正面にして前を向いた。

 俺はミコトの後ろに回ると、おもむろにその身体をお姫様抱っこで抱え上げた。


「ひゃぁっ!? って、ちょっと、また!? 何を勝手に抱えてるんですか!」


 すぐさま顔を赤くしたミコトが、逃げるように身体をよじるがステータスの差は歴然だ。

 いくら暴れようが、俺の手からは逃れることが出来ない。


「暴れるなって、飛び辛いだろ」


 顔に飛んでくる拳を避けながら、俺は言った。

 その一言に、ミコトの顔がサッと青くなる。


「待って、今、なんと?」

「だから、飛ぶんだよ」


「どこから?」

「ここから」


「冗談、ですよね? だって、ここから向こう側まで軽く三、四メートルはありますよ? それを、私を抱えてだなんて……」



 俺はミコトの言葉に何も答えることなくニヤリと笑った。

 その表情でミコトはすぐに俺の本気を悟ったようだった。



「ちょ、やめて! それは怖い、怖いから!」

「いくぞー」


 ミコトの抗議を無視して、俺は腰を落とすと、両足に力を込める。



「待って、本当に待って!! せめて、せめて立幅じゃなくて走り幅飛びで――」



「せーのッ!」

「飛んでぇえええええええええええええええええ!!」


 地面を全力で蹴り、俺は干上がった川へと向けて跳んだ。


「いやぁああああああああああああ!!」



 片手で直槍を、反対の手で俺のシャツを掴みながら、ミコトが大きな悲鳴を上げた。

 俺はミコトが落ちないよう、小太刀とともにミコトをしっかりと抱え込んだ。


 これまでのレベルアップで上昇したSTRは、ミコトを抱えながらでも十分な高さにまで身体を持ち上げる。

 およそ、五メートル以上は飛んだんじゃないだろうか。

 世界記録をも簡単に上塗りできる距離を、俺はミコトを抱えながら飛ぶ。

 綺麗な放物線を描いで飛んだ俺たちは、ぐんぐんと川の反対側へと近づいていく。

 俺は態勢を整えて――DEXが人間を抱えていても上手に着地できる態勢へと俺を導き――俺は、神田川を飛び超えた。



「っと」


 地面に足を着いて、膝を曲げて衝撃を殺す。


「着いたぞ」


 と俺は抱えていたミコトを地面に下ろした。

 ミコトはよろよろと地面に降り立つと、その手に持っていた直槍を支えにして地面へと座り込んだ。


「こ、怖かった……」

「でも手っ取り早かっただろ?」

「だからって、このやり方は怖すぎます! せめて何をするのかぐらい、事前に言ってください!!」


 目じりに涙を浮かべながら、ミコトが抗議の声を上げた。


「いや、言ったら嫌がっただろ」



 そして、一度降りて昇るという手間を取る羽目になったはずだ。



「当たり前です! 恥ずかしいし、怖いし、なんかもう……。怖かった」


 ミコトは力のない声で言った。

 よほど怖かったのだろう。ミコトの語彙力が無くなっていた。


 それから、ミコトは顔を俯かせると、

「というか普通、私を抱えて跳びますか? この人、だんだん人間辞めてきてますよね……」

 

 ぶつぶつと小さな声でミコトは呟いた。

 次いで大きなため息を吐き出し、


「まあ、それは今さらのことですよね……。気にしても仕方ないか」


 と言って、何かを諦めるようにまた、ため息を吐き出すと目元の涙を拭い顔を上げた。


「ユウマさん、とりあえず今後このやり方をするなら事前に説明してください。せめて心の準備だけでもしたいので」

「分かった。……すまん」

「いえ、良いんです……。ユウマさんが無茶をする人なのは、もう薄々気が付いてますから」



 ミコトはそう言って呆れたように笑った。



「でもこれで――ちょっと川を超えるやり方には文句がありますけど、新宿区に足を入れることが出来ましたね。何か変わったことは……。なさそうですね」


 とミコトは周囲を見渡しながら言った。


「そう、だな。何も変わらない」


 と俺もミコトと同じように周囲を見渡して呟く。



 倒壊か、もしくは廃墟となったビルや家屋。

 草木が生えたアスファルトと、折れた電柱。

 錆が浮いて根本から折れた道路標識。

 そのどれもが、これまで見た街の光景と変わらない。やはりと言うべきかこの街も――すべてが壊れている。


 川を超えた先は住宅街だったのか、崩壊した家屋が立ち並んでいた。

 今はまだビルの数も少ないが、ここから真っすぐに南へと行けば大久保通りに出て、道なりに東へと進めば大久保駅にたどり着いたはず。

 そこまで行けば、家屋ではなく雑居ビルが広がっているだろう。



「アナウンスはない、か」



 スマホを取り出して俺は言った。

 ストーリークエスト開始のアナウンスがない以上、俺たちからはどうすることも出来ない。



「どうしましょう?」


 とミコトが言った。


「とりあえず、新宿の街を探索するしかないな」



 特定のポイントに移動すればクエストが始まるのか、はたまたモンスターと出会うことでクエストが始まるのか。



 とにかく、何も分からない以上行動してみるしかないだろう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] レベル上げなどをせずに新宿の街に入るのか・・・
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