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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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四日目・昼 新しいスキル

 たびたび出会う、グラスホッパーラビットをはじめとするコボルドやブラックドッグなどのモンスターを、経験値に変えながら歩くこと数時間。

 空に昇る太陽が真ん中から少し西に傾き始めた頃、俺たちは崩れた東中野駅で昼食をとっていた。



 東中野駅は中野区にある、新宿の目と鼻の先にある駅だ。

 ここから、どんなに足が遅くても一時間もしないうちに俺たちは新宿区に足を踏み入れる。

 その前に、腹ごしらえと装備の確認、最終ステータスを確認しておこう、という話になったのだ。



「あ」


 とペットボトルの水を飲みながら、スマホを弄っていたミコトが声を出す。


「ん?」


 俺は乾パンをぼりぼりと噛みながら声を出したミコトへと目を向けた。



「新しいスキルが増えてます!」


「マジで?」

「マジです」


 ミコトはこくりと頷く。


「えっと……。ちえん? …………どうやら対象の動きを遅くする魔法みたいですね」


 スキルの説明文を読んだのか、ミコトが言った。


「ちえん? ……ああ、『遅延』か」


 と俺はミコトの言葉に得心がいく。



 スキルの効果を聞く限り、動きを遅くするというスキルはなかなかに使い勝手がいい。

 素早い相手にはその動きを遅くして攻撃を当てることが出来るし、強敵相手に使えば動きを遅くすることで攻撃を避けやすくも逃げやすくもなるだろう。


 けれど、ミコトはそのスキルのことが気に入らないのか、スキルの効果を読むと途端に微妙な表情となって眉根を寄せた。



「どうかしたのか?」

「あ、いえ。スキルの効果自体は良いんですけど、スキル説明文――まあ、いわゆる取得条件が書かれているところが気になって」


「どれだ?」

「これです」


 ミコトのスマホを覗き込むと、ミコトがスマホを見やすいように傾けてくれた。




 ≫【遅延】

 ≫置いて行かれたくない、という強いその思いが昇華され形になった。

 ≫スキル発動の際に、毎秒MPを1消費する代わりに、対象の動きを30%阻害する。




 遅延。その言葉通りの効果がそこには表示されていた。

 毎秒MPを消費する代わりに、相手の動きを30%も阻害する、か。なかなかスキルの効果は大きいな。



「読み方は遅延(ちえん)じゃなくて、どちらかというと遅延(ディレイ)じゃないかな」


 と言って、俺はスキル取得条件が書かれたスキルの説明文へと目を向ける。



「置いて行かれたくない」


 俺はミコトを見つめた。


「誰に?」

「私がそう思う相手なんて、一人しかいないでしょ」


 とミコトが息をつく。



「前から言ってるように、私はユウマさんに一人で戦ってほしくないんです。だから、ユウマさんがモンスターに向かって飛び出したあの時、私を置いて行くな! ってすごい思いました」


「あー……」



 グラスホッパーラビットに俺が一人で飛び出したあの時か。

 原因に心当たりがあるだけに、俺も何とも言えない表情となる。



「この説明通りだと、私、かなり重たいヤンデレ気質の女の子みたいで嫌なんですけど」



 純粋に俺の身を案じていただけに、ミコトの心境は複雑なようだった。

 置いて行かれたくない、だから追いつくように自分を速くしよう。ではなくて、置いて行かれたくないから相手を遅くしてやろう、ということなのだから。



「でも、その分効果はすごいぞ」


 と俺はフォローを入れる。


 ミコトは、俺のフォローに微妙な表情を崩さないまま、


「まあ、そうですけど」


 とその取得条件に納得いかないようだが、その効果については認めているのか頷いていた。



「ステータスが高くない私にとっては、結構貴重なスキルですね」

「割と使い勝手も良さそうだしな。ミコト、今のMPはいくつだ?」

「えっと……。まったくスキルを使ってないのでMPは満タンです。24ですね」

「ちょっと使ってみないか? どんな効果なのか俺も見て見たい」

「良いですよ。って言っても、どうやって効果を試すんですか? 走ってるユウマさんにスキルを使うとか?」

「それでもいいけど、もっと分かりやすいものがある」


 俺はそう言うと、傍に落ちていた小石を拾い上げた。


「今からこの小石を上に投げるから、落ちてくる小石に向かって【遅延】を使ってくれ」

「ああ、なるほど。分かりました」


 こくりとミコトが頷く。


 俺はミコトに頷きを返すと、


「それじゃあ、投げるぞ」


 と空に向けて放り投げた。



 空高く上がった小石は、やがてその勢いを失くすと俺たちの間に落ちてくる。

 ミコトは、落ちてくる小石の動きに合わせてスキルの名前を呟いた。


「――【遅延(ディレイ)】」



 その瞬間だった。

 落ちてくる小石が、まるで何かにぶつかったかのように急にその動きを遅くしたのだ。

 例えるなら、空中にある見えない粘性の液体に小石が沈み込むような感じ、とでも言えばいいだろうか。

 ゆっくりと、だが確実に落ちてくる小石に、俺たちは呆気に取られて見つめた。



「っ! ミコト、そろそろ【遅延】をやめないと!」



 ゆっくりと落ちてくる小石に目を奪われていたが、ハッとしてミコトに注意を促す。

 毎秒MPを消費するスキルなのだ。スキルをやめない限り、MPが枯渇するまでその効果は持続してしまう。



「あ、そうでした! えっと、どうすれば……。【遅延】解除!」


 その言葉と同時に、小石は本来の速さを思い出したかのように速くなり、ぽとりと地面に落ちた。


「今ので消費したMPは?」

「えっと……。8です」


 とミコトはスマホを見て答えた。


「効果は大きいけど、やっぱり消費が激しいな」



 俺は口元に手を当てて考える。

 数秒という時間は思いのほか短い。

 激しく戦況が変わるモンスターとの戦闘中に、効果的に使えるのかと言われれば難しいかもしれない。



 ミコトの最大MPは24だから、今現在で最大24秒は【遅延】を使うことが出来る。

 しかし、ミコトは【回復】も取得しているから、全部のMPを【遅延】で使い果たすことなんて出来ない。

 せいぜい、一回の戦闘で使える【遅延】は5秒が限界だろう。

 せめて、【遅延】の時間をこちらで決めることが出来れば使いやすいのかもしれないが……。



「――待てよ」


 ふと思い当たる。



 【遅延】スキルはMPが続く限りずっと発動し続けるスキルだ。

 MPという制限があるため、持続して発動することは出来ず、MPが枯渇をしてスキル自体の発動できなくなるか――もしくは、俺たちプレイヤーが任意でスキルの発動を止める必要がある。


 それは、持続発動型と似ているようで少し違う。

 スキルのタイプ分けを行うとすれば任意解除型のスキル、とでも呼べば良いだろうか。

 その任意解除型のスキルに対して、事前に発動する時間を決めて、スキルを発動してみたらどうなるのだろうか。



「ミコト」


 彼女を呼んで、俺はその考えを話してみた。


「なるほど。事前に時間を決めて発動してみる、ですか」

「ああ、どうだろ。これが出来るなら【遅延】は結構化けるぞ」



 一瞬の攻防で使用するなら短く、確実な逃走をするなら長く、といった具合に使い分けが出来るようになる。

 さらに言えば、スキル発動の際に決めた秒数がそのままMP消費につながる効果から、自分の残りMPも管理がしやすくなるだろう。


 ミコトは真剣な表情で言った。


「やってみましょう」


 俺は足元の小石を拾い上げて、ミコトへと目を向ける。



「投げるぞ」

「ええ、いつでも大丈夫です」


 ミコトがこくり、と頷く。



 俺はその頷きを確認して、空へともう一度小石を放り投げた。

 空高く上がった小石は、さきほどと同じように重力に引かれて落ちてくる。

 小石がミコトの正面に来た瞬間、ミコトは口を開いた。



「――【遅延】、1秒(ワンセコンド)



 その言葉を吐き出すと同時に、小石は粘性の液体に沈んだかのようにゆっくりとした動きになった。

 だが、その動きも束の間のこと。小石はすぐさま元の落下速度を思い出して、地面へと落ちた。



「出来た、な」

「出来ましたね」



 お互いに、顔を見合わせる。

 思いつきで試してみたことだが、案外うまくいくものだ。

 時間にして、小石の動きがゆっくりとなっていたのは、ミコトが言った通り一秒ほどだろうか。



「MPは?」

「……1です」


 スマホの画面を確認して、ミコトは言った。


「これ、他のスキル――【回復】なんかも同じように出来るんでしょうか?」


 とミコトが首を傾げた。



 その言葉に、俺は難しい顔で唸る。


「いや、どうだろう……。【遅延】は使用している間は毎秒MPの消費っていう持続発動型のスキルだから出来たけど、【回復】は無理じゃないかな。一度使えばMPの消費量も、回復量も決まってるみたいだし」



 俺の【視覚強化】なら話は別だろうが、【視覚強化】の時間を決めて発動したところで何の意味もない。

 この時間を決めて発動する、というやり方は発動している限りMPを消費するいわば任意解除型のスキルにだけ使えるやり方だろう。



「良いスキルだな」


 と俺は言った。



 使い勝手もよく、効果も破格。切り札ともなりうるものだ。



「そう、ですね。取得条件さえ考えなければいいスキルだと思います」


 とミコトが微妙な表情で同意してくる。

 ミコトは、取得条件のことがやはり気にかかるようだった。


 俺は、そんなミコトに苦笑を浮かべて、


「まあ、そこは気にするな。そもそも、そんなことをミコトに思わせたのは俺が約束を破って一人でモンスターに突撃したからだし」


 と口にした。



 ミコトはしばらくの間、眉根に皺を寄せてスマホの画面を見つめていたが、やがてため息を吐き出すとスマホをポケットの中へと仕舞い込んだ。



「……まあ、効果はすごいですからね。気にしても仕方ないですし、せっかく取得したものを使わないわけにはいきませんね」


 と自分に言い聞かせるように言ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 置いて行かれたくない、で自分の素早さアップみたいなバフかと思いきや対象を遅くすればいいじゃないっていう逆転の発想に笑った
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