三日目・夜 種族の違い
「ところで、ミコトの今のLUKはどのくらいだ?」
「私のは……」
そう言うと、ミコトはステータス画面を俺へと見せてくれる。
柊 ミコト Lv:5→8 SP:0→15
HP:26/26→32/32
MP:1/24→7/30
STR:8→11
DEF:10→13
DEX:9→12
AGI:11→14
INT:24→30
VIT:10→13
LUK:7→10
所持スキル:天の贈り物 回復
ミコトのレベルアップ回数は俺と同じだった。
MPが減っているのは、吉祥寺の街で狩りをしているときに怪我をすれば【回復】を使って怪我を治していたからだ。MPがあと1しかない、と言っていたけどミコトの今のステータス画面ではMPが10もある。
どうやら、MPは上限が増えればその上昇した数に応じて残りMPも上昇するらしい。
「ミコト。減ったMPは回復するのか?」
と俺は聞いた。
ミコトは頷いて答える。
「ええ、しっかりと身体を休めて、疲れが取れれば自然と回復するようです」
どうやらMPの回復は時間経過ではなく、疲れを取ることで回復出来るようだ。
感覚的に言えば、魔力を回復させるではなく、気力を回復させているような感じなのだろうか。
いずれにしてもMPが回復できるようになっていてよかった。
もし、これでMPが回復しないなんてことになれば一大事になるところだ。
俺はそんなことを考えて、心の中で安堵の息をつく。
それから、改めてミコトのステータスを見て言った。
「LUKが10、か」
これまで、ミコトはLUKにSPを割り振っていなかったから、その数値はレベルアップによるボーナスで加算されてきた数値だろう。
二桁になったとはいえ、それでも少ない。
LUKがスキルの獲得率に影響することを踏まえると、改めてよく【回復】スキルを手に入れることが出来たものだとつくづく思う。
やはり【天の贈り物】や【未知の開拓者】といったスキルの効果である『スキル獲得率の大幅な上昇』が大きいに違いない。
「ミコトはどれにSPを割り振るのか決めてるのか?」
と俺はミコトに問いかけた。
ミコトは難しい顔で自分のステータス画面を見つめると首を横に振る。
「いえ……。LUKの重要性も分かりましたし、すぐに決められないのでゆっくりと考えて割り振ろうと思います。ユウマさんは決まってるんですか?」
「俺は……。いや、俺もまだ決まってない」
ミコトと同じように首を横に振って、俺は自分のステータス画面を見つめた。
古賀 ユウマ Lv:9 SP:30
HP:44/44
MP:12/12
STR:22
DEF:17
DEX:16
AGI:19
INT:12
VIT:18
LUK:31
所持スキル:未知の開拓者 曙光 夜目 集中強化 視覚強化
どのステータスも正直に言って貴重だ。
これまでLUKはレベルアップボーナスでもよく上がるから、と積極的にSPを割り振ってなかったけれど、今度からはもう少し割り振ってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら自分のステータス画面を見ていると、
「……あれ?」
ふとした疑問が浮かぶ。
そう言えばどうして、俺はこんなにもLUKの伸びが大きいのだろうか。
俺は、もともと昔からほんの少しだけ他の人よりも運が良い。ミコトの言葉を借りるならば、俺にとって運が良かったと思える結果を、昔からよく引き当てていた。
今まではLUKのことを〝運〟だとばかり思っていたから、そのLUKの伸びが良くても、もともと運が良いのだから個人差なのだろうと特に気にも留めなかった。
けれど、LUKが単純な運の良さではなく、この世界におけるスキルの獲得率に影響するものだと分かれば話は別。
もともとの運が良くても、この世界におけるスキル獲得率が良いとは限らない。
同じこの世界で動くプレイヤーであるはずなのに、どうして俺はミコトと比べてLUKの伸びが良いのだろうか。
「違いはなんだ……?」
俺とミコトの違いを考える。
俺はLUKが伸びやすく、ミコトはINTが伸びやすい。
俺は初期ステータスが貧弱で、ミコトは初期ステータスがそれなりに高かった。
俺の初期スキルは【未知の開拓者】で、ミコトは【天の贈り物】。
この世界での行動、事前登録の有無、スキルの効果とその内容、そして俺たちのこの世界における種族――。
「ぁ……。そうか、種族か」
俺は忘れていた事実を思い出した。
俺はこの世界に来る前に、人間という種族を選択した。
ミコトはこの世界に来る前に、天使という種族を選択している。
その種族が違うから、俺たちの持つ初期スキルは違う。
初期のステータスや、その後のステータスの伸びに個人差が出ているのは、俺たちが選んだこの世界での種族による影響が出ているに違いない。
考えるに、俺が選択した『人間』という種族は、初期のステータスは最弱だが、この世界におけるスキル獲得率が高く設定されている可能性が高い。
さらにストーリークエストをクリアし、初期スキルに効果が付くようになれば、満遍なくより多くのスキルを取得できるようになる。
簡単に言ってしまえば、元のステータスは低いがその分LUKが伸びやすくスキルを取得しやすい種族。それが人間というところだろう。
反対に、ミコトが選択した『天使』という種族は、初期ステータスは『人間』よりも高く、この世界ではINTが伸びる傾向にある。
また、初期スキルの効果を考えるに、回復系スキルを取得できるのは天使種族だけである可能性が高い。
まとめると、ミコトの選んだ『天使』という種族は、ステータスも高く、MPの上限も増えやすいことからスキルの使用回数も多くなりやすい。さらに言えば、唯一ともいえる回復スキルを使える種族、ということだ。
そのことを、俺はミコトに話してみた。
「なるほど、種族によって差が出ている、ですか」
そう呟くと、ミコトは自分の背中へと手を伸ばした。
ローブに覆われて隠されているが、そこにはミコトが天使だと示す光を放つ翼がある。
ミコトは小さくその場所を撫でると、深々と息を吐いた。
「……やっぱり、私も人間と答えれば良かったです。そうすれば、スキルももっと手に入ったかもしれないのに」
「人間も楽じゃない。なんたって、初期ステータスはLUK以外オール1だからな。今になって考えれば、俺はこの世界に来てすぐに死んでいた可能性だってある」
と、俺はミコトに言い返した。
俺が最初にゴブリンを倒せたのは、本当に運というギャンブルに勝ったからだ。あの結果次第では、俺はあの時に死んでいてもおかしくはなかった。
今でこそ、ミコトのステータスよりも高いステータスだが、これは種族内初討伐ボーナスとしてゲームシステムに貰った【曙光】スキルの効果によるところが大きい。
もし、俺の他に人間という種族が居たとして。この【曙光】スキルが俺以外の誰かが持っていたとしたら、俺はストーリークエストをクリアすることなんて出来なかった。
ストーリークエストがクリアできないということはすなわち、初期スキルの効果も与えられないということだ。
いくらLUKが伸びやすいとは言っても、初期スキルの効果がなければスキルを取得することは難しいだろう。
結局のところ、ただの『人間』が生き抜くには厳しい世界、だということだ。
本当にクソゲーだな。
俺は心の中で唾を吐き出した。
「俺からすれば、ミコトの『天使』の方が羨ましいけどな。回復スキルだって使えるだろ?」
と俺は言った。
ミコトには回復スキルという絶対的アドバンテージがある。
その条件が『天使』という種族に限定しているのであれば、人間である俺にはおそらくきっと、回復系のスキルを使うことは出来ないだろう。
命の危険がすぐそばにあるこの世界で、任意でHPを回復させることが出来るのは非常に大きい。
「まあ、そうですけど」
とミコトは俺の言葉に微妙な表情で頬を膨らませた。
「【曙光】がなければ、『人間』なんてステータス最弱の種族だよ。この世界で生き残ることだけを考えるなら、『人間』以外の種族の方がいい」
と俺は言う。
「私、もとは人間なんですけど」
とミコトが言い返してくる。
「知ってるよ」
と俺は笑った。
「でも、今は『天使』なんだろ? 『天使』の初期スキルの効果で、回復スキルを覚えやすいってメリットがあるじゃないか。レベルを上げるにも、クエストを進めるにもモンスターと戦うことが必要となってくる世界だ。病院もないこの世界で、回復スキルの需要は大きいと俺は思うけどな」
「それは……。うん、そうですね。確かにユウマさんの言う通りです。最初は、どうして『天使』なんて選んじゃったんだろうって思ってましたけど、回復スキルが使えるって考えると悪くないですね」
ミコトは自分の置かれた状況を理解したようだ。
曇らせていた顔を晴らすと、小さく笑った。
それから、ミコトは自分のスマホ画面を見つめると小さく決意を込めたように頷いた。
「ユウマさん。私、今の会話でSPの割り振り決めました」
「ほう? どうするんだ?」
「それは――」
と言って、ミコトはスマホ画面を操作する。
時間が掛かるかと思われたその操作も、ものの数十秒で終わった。
迷いのないSPの割り振りに驚いていると、ミコトがニッと笑ってスマホを差し出してくる。
「これです!」
柊 ミコト Lv:8 SP:15→0
HP:32/32
MP:7/30
STR:11
DEF:13
DEX:12
AGI:15
INT:30
VIT:13
LUK:10→25
所持スキル:天の贈り物 回復
ミコト、まさかの極振り……!!




