三日目・夜 条件と確率
「まだSPの割り振りに悩みますか?」
ミコトに【曙光】スキルのことを話してから、しばらくが経った。
未だにスマホの画面を見つめて頭を捻っている俺に向けて、ミコトがそんなことを言ってくる。
「そうだなぁー……。ホブゴブリンを倒して結構な数のSPが手に入ったからな。流石に悩むよ」
「へー、そんなにSPを貰えるんですか」
言って、ミコトは俺の傍に近寄ってくると俺の手元を覗き込んだ。
「うわっ」
とミコトが驚きで声を出す。
「SP20!? それにINT以外のステータスは二桁!? はぇー……。本当にすごいですね」
「まあ、ホブゴブリンを倒してレベルアップしたからな。倒す前は二桁のステータスはSTRとLUKぐらいだったよ」
「それでも十分に高いんですけどね」
とミコトは苦笑した。
「何に悩んでるんですか?」
「いや、平均的に全体を伸ばすか、それともどれか方向性を絞って伸ばすかどうかを悩んでて」
「あー、なるほど」
ミコトは頷いた。
「ユウマさんは、どんな風に戦いたいとかあるんですか?」
「どんな風に?」
「はい。例えば、私は【回復】スキルを取得したので今後はINT中心に伸ばそうかと思ってます。でもそれだけだとモンスターを倒せませんし、程よく他も伸ばせればーって感じですね」
なるほど。言ってしまえばゲーム用語で言うところのビルドの方向性ということだろう。
ミコトの言葉から察するに、ミコトはバリバリの前衛ではなく中衛で回復と攻撃の両立を目指している、というところだろうか。
「俺は……。そうだな。今後もできれば前に出て戦ったほうが良いだろうな」
「そうなると、防御力のDEFとVITが中心ですか?」
「いや、それだと俺たちには決定力が欠けてしまう。できれば俺は、前で動きながらモンスターには決定打を叩き込んだほうが良いと思う。そのうえで、攻撃を受けたとしてもミコトの【回復】が受けられるぐらいにはHPが残っていたほうがいい」
「そうですね。【回復】はHP30を回復できますから。現状でもユウマさんのHPは全快は出来ますけど、出来ればもう少しHPがあると安心できるかもしれません」
「そうだな」
と俺はミコトの言葉に同意する。
ミコトと話して俺自身のステータスビルドの方向性は見えてきた。
俺はステータスにSPを割り振っていく。
古賀 ユウマ Lv:6 SP:20→0
HP:30/30→38/38
MP:6/6→9/9
STR:15→19
DEF:10→14
DEX:10→13
AGI:12→16
INT:8→9
VIT:11→15
LUK:25
所持スキル:未知の開拓者 曙光
STRとDEF、AGI、VITに四つ、DEXに三つ割り振った。ついでに、残ったSPがちょうど一つだけだったので、INTに一つ割り振ってMPの上限を増やしておく。
「……うん」
悪くない。
筋力を多めにして一撃の重さを重視しつつ、それなりに動けて守れる。そんなステータスだ。
これで、ステータスの数値で一桁なのはINTだけとなる。
LUK以外オール1だったあの時に比べて、随分とこのステータスも伸びたものだ。
今なら、あのホブゴブリンと戦っても、もう少しまともな戦闘が出来そうな気がする。
「はぁ……」
と俺はホブゴブリンとの戦闘を思い出して息を吐き出す。
俺は、本当に文字通り命懸けでホブゴブリンを倒し、ストーリークエストの完了条件であるホブゴブリン討伐を果たした。
ストーリークエストを終えたことで、俺たちが得たものは多い。
まず、初期スキル――これはいわゆる種族スキルとでも呼ぶべきか、まったく何の意味もなかったスキルに効果がついた。
これまで、明確に効果が示された使えるスキルと言えば、俺の持つ【曙光】スキルのみだったから、これは単純に嬉しい。
そう言った意味でも、ミコトが獲得した【回復】スキルもこれからの俺たちにとっては大きな武器となる。
この世界がゲームであり、同時に現実だとして、ストーリークエストは一つだけじゃないはずだ。
これから先、ホブゴブリン以上のモンスターも出てくるだろう。
そうなったときに、また死に目に合うかもしれない。
ゲームオーバー=死であるこの世界で、回復スキルほど重要なものはないだろう。
「それにしても……」
俺は自分のスキルをタップし、その説明文を見つめて呟いた。
そこには【未知の開拓者】のスキル説明文が表示されている。
≫【未知の開拓者】
≫未来を切り拓く人間だけが持つ可能性。この世界におけるすべての未来は未知であり、あなたが切り拓いた未来が既知となる。
≫未知を切り拓き、手に入れた未来は大きい。このスキルの所持者はスキル獲得率が大幅に上がる。
「うーん……」
何度読んでも意味が分からない。
スキル獲得率ってなんだ?
そもそも、スキルはクエストの報酬で貰えるもののはず。それなのに、獲得率が大幅に上がるとはどういうことなのか。
スキルは絶対に習得できるようなものではないのか?
「ミコト」
「なんですか?」
名前を呼びかけると、すぐに返事があった。
俺がステータスにSPを割り振っている間は暇だったのか――崩壊したこの世界では特にこれといって他に見るものもないからか――星空を眺めていた。
少女の黒い瞳が、星空から俺へと向けられる。
「スキル獲得率ってなんだ?」
「……そんなの、私が知るはずありませんよ」
呆れた顔でミコトは言った。
「でも、ミコトは【天の贈り物】の効果で【回復】スキルを手に入れたんだろ?」
そう言って俺は目を覚ました直後のことを思い出す。
ホブゴブリンとの戦闘を終えて、俺は気を失ったのだが、目を覚ました時には身体の傷がすべてなくなっていた。
その理由の説明を求めた時に、ミコトは【天の贈り物】の効果があって【回復】スキルを手に入れたのだと説明をしていたのだ。
「いえ、あれは……。状況的に、そうだろうと思っただけで確証があるわけでは……」
俺の言葉に、ミコトは困ったように眉を寄せた。
「それでも、状況を整理するためにミコトの考えが聞きたいんだ」
俺がそう言うと、ミコトはジッと俺の顔を見つめた。
それから小さく息を吐くと、
「分かりました。でも、本当に確証はないですよ?」
と言ってミコトはロングスカートのポケットに仕舞い込んでいた自分のスマホを再び取り出すと、その画面を操作する。
「まず、これが私の最初のスキルです」
そう言って、向けられた画面にはミコトの初期スキルの説明文が表示されていた。
≫【天の贈り物】
≫神より送られた天からの贈り物。この世界で待ち受けるあらゆる困難を乗り越えられるよう、天の御使いである子供たちに神は贈り物を与えてくれた。
≫神に与えられた祝福の贈り物。回復系スキルの獲得率が大幅に上がる。
説明文を読んで、俺は頷きを返す。
スキル説明文の内容は俺と違うが、そこに書かれていた最後の文章は、俺のスキル説明文と似通っている。
「ミコトにもあるよな、スキル獲得率ってやつ」
「ええ、そうです」
ミコトは頷いた。
「でも、見てほしいのはそこじゃなくて、その前の文章なんです」
「その前?」
言って、俺は再びミコトのスマホ画面へと目を向ける。
「回復系スキルの、ってところか?」
「はい、そうです。それを踏まえて、コレをみてください」
ミコトはスマホの画面を操作すると再び俺へと見せてきた。
≫【回復】
≫神に祈りが届いた子供だけが使える奇跡の御業。
≫MPを5消費する代わりに、対象の傷を癒してHPを30回復する。
ミコトが獲得した【回復】スキルの説明文だった。
このスキルのおかげで、ホブゴブリンとの戦いで瀕死となっていた俺は、一命をとりとめたのだ。
俺は【回復】スキルの説明文を読んで、それからミコトの顔をへと視線を向けた。
「これが?」
ミコトの言いたいことが分からず、首を傾げる。
「気づきませんか?」
「……いや、分からん」
「これ、神様に祈りが通じたことで使えるようになった、回復スキルなんです」
「…………?」
俺は黙ってさらに首を傾げた。
ミコトの言いたいことが何一つ分からなかった。
ミコトは考え込むように声を上げると、ゆっくりとさらに言葉を続ける。
「ええっと、最初から説明しますね。まず、【天の贈り物】の前半。ここには、明らかに神様の存在と天使――つまり私のこの世界での種族との関係が示唆されています。天使は神様の子供であり、神様は天使に贈り物を与えた、と。その内容が、後半に続く『回復系スキルの獲得率が大幅に上がる』ことだと思います」
「なるほど」
と俺は頷いた。
「同じ様に、【回復】スキルの前半をみてください。そこには『神に祈りが通じた子供だけが使える奇跡の御業』とあります。ここの文章を読む限り、このスキルは天使である『神様の子供』が『神様へお祈りする』という行為があって、結果として『奇跡の御業』すなわち【回復】スキルが使えるようになった、ということが読み取れるんです。つまり――」
とミコトは一度言葉を区切った。
「このゲーム――トワイライト・ワールドでのスキル獲得には、条件が存在している可能性がある、ということです。さらに言えば、その条件を満たしていたとしても、簡単には獲得出来ず、ある一定の確率で獲得することが出来る――そう、考えられるわけです」




