三日目・夜 -プロローグ-
第二章、開幕! よろしくお願いします!
「うーん……」
日が暮れて夜闇に包まれた世界で、俺はステータス画面を見つめながら唸り声を上げていた。
古賀 ユウマ Lv:6 SP:20
HP:30/30
MP:6/6
STR:15
DEF:10
DEX:10
AGI:12
INT:8
VIT:11
LUK:25
所持スキル:未知の開拓者 曙光
ホブゴブリンを倒したことで、二つもレベルが上がった。
それに伴って、大量のSPを手に入れた。
その割り振りをどうするか、と悩んでいたのだ。
「うーん……。どうしよ」
ホブゴブリンとの戦闘で、見えてきた課題は多い。
今までは平均的にステータスを伸ばそうと思っていたけど、それだけではやはり対処が追いつかないのだ。
全体的にステータスを伸ばせば、器用貧乏となりやすい。
かといって、何かに特化したステータスにしようにも、VITやDEFといったいわゆるHPに直結するようなステータスは疎かにできない。
STRやAGIだってそうだ。
この二つがあれば、逃げることだって攻撃で先手を打つことだってできる。
「あー、どうしよ」
「そんなに悩みますか?」
スマホの画面を見つめながら唸り声をあげる俺に、呆れた声がかかった。
柊ミコト。俺のパーティメンバーからの声だった。
「とりあえず、どれかステータスを上げてから考えればよくないです?」
そう言う彼女の背中にはぼんやりと光りを放つ小さな翼が生えている。
人間ではありえないその見た目をしているが、彼女はれっきとした人間だ。
ただし、この世界での種族は天使となっている。
光を放つその翼は、夜闇の中ではよく目立つ。
俺は毛布替わりに掛けられていたローブをミコトへと返した。
「えー」
俺が手渡してきたローブに、何が言いたいのか察したのだろう。
ミコトは小さく頬を膨らませると、いそいそとそのローブを身に着ける。
「ミコトはステータスを割り振ったのか?」
ローブを身に着けるミコトに向けて俺は言った。
「そうですね。先ほど済ませました」
とミコトはローブに首を通して答える。
男性用の――元はそのローブは俺のものだからミコトにとってはぶかぶかの――ローブを身に着けたミコトは、自分のスマホを操作して俺へと手渡してきた。
柊 ミコト Lv:5 SP:10→0
HP:22/22→26/26
MP:13/18→19/24
STR:6→8
DEF:9→10
DEX:9
AGI:9→11
INT:18→24
VIT:8→10
LUK:7
所持スキル:天の贈り物 回復
「SPの振り分けは、STR、AGI、VITに二つ、DEFに一つ、INTに三つです」
俺がミコトのステータス画面に目を落とすと、ミコトはそう言った。
俺はステータス画面から視線を上げてミコトに尋ねる。
「予備のSPは残さないのか?」
ステータスの高さがそのまま生死に結び付くこの世界において、ステータスを上昇させることが出来るSPの存在は非常に大きい。
SPはレベルアップでしか手に入れることが出来ないものだから、もしもの時のために残しておくのがセオリーだろう。
「そうですねぇー」
ミコトは考えるように言った。
「確かに、予備を残しておけばいざというときに使えますけど……」
でも、とミコトは言葉を続ける。
「予備を残してて、その結果それを使う間もなく死んでしまったら元も子もないですからね」
とミコトは笑った。
「それに、ガラじゃないんです。ゲームで、こういう成長ポイントを残しておくのって。私、貰ったお年玉とか貯金せずに使い切るタイプですし」
「でも、SPが残っていないと不安じゃないか?」
「それはそうですけど」
少しだけ困った顔をして、ミコトは俺の顔を見た。
それからにこりと笑って口を開く。
「予備を残しておくほど、私には余裕がないんですよ。私のパーティメンバーは、とびきりに強いので。ユウマさんについていくためには、私はSPを使い切るしかないんです」
その言葉に、俺は言葉が出なかった。
俺には、レベルアップの際に得るSPを二倍化するスキルである【曙光】がある。
一回のレベルアップで、手に入れることが出来るSPはたったの5。
有限であるそのSPを、俺は一回のレベルアップで10も手に入れることが出来るのだ。
言ってしまえば、俺の成長率はミコトと比べると単純に二倍。
レベルアップを繰り返せば繰り返すだけ、俺はミコトよりも早く強くなっていく。
「…………」
俺は、ミコトにはこのスキルのことを話していない。
【曙光】スキルの効果があまりにチート過ぎて、話せば疎まれるんじゃないかと思ったからだ。
もっとも、俺のステータス画面をミコトに見せたのは、ミコトと出会った最初のあの夜だけだ。自分から話さない限りは俺のステータスの高さには気が付くことがないだろう。
とは言っても、限界がある。
【曙光】スキルはレベルアップを重ねるごとに大きく影響してくる。
これから先、パーティメンバーとして一緒に過ごしていけば、ミコトはきっと俺のステータスの高さに気が付く。
……もう、いいんじゃないだろうか。
ミコトには正直に、自分のスキルのことを話すべきだ。
ホブゴブリンと戦い、命を落としかけたところを俺はミコトに命を救われた。
出会った当初はまだ信用が出来ない、とスキルの効果をはぐらかした。
でも、もういいだろう。
彼女にだけは話そう。
「ミコト」
と俺は彼女の名前を呼んだ。
「はい?」
とミコトが俺の声に反応して首を傾げる。
「実は――――」
俺はミコトに【曙光】スキルのことを話した。
手に入れた経緯、そしてその効果。今の自分のステータス。俺が隠していたことすべて。
「…………」
ミコトは黙って俺の話しを聞いていた。
「黙っていて、悪かった」
話が終わり、俺は頭を下げる。
「はぁ……」
すると、俺の頭にはミコトのため息が降ってきた。
「頭を上げてください」
ミコトの声がかかる。
俺は頭を上げてミコトの顔色を窺った。
「あの、ミコト?」
これから、何を言われるんだろうか。
確実に、このスキルのことで非難は免れないだろう。
俺の心に不安の影が落ちる。
「ユウマさん」
呆れた顔でミコトは俺の名前を呼んだ。
「どうして謝る必要があるんですか」
「え?」
予想外のその言葉に、俺は思わず呆けた声を出してしまった。
そんな俺の様子に、ミコトの口角が持ち上がる。
「なんですか? その反応。もしかして、私が嫉妬でもするかと思いました? ユウマさんのことを、非難でもするかと思いました?」
「……違うのか?」
「私を見くびらないでください。良いじゃないですか、こんな世界なんです。チートで何が悪いんですか。それに、聞けばユウマさんがそのスキルを手に入れた経緯は『種族内初討伐ボーナス』なんでしょう? ということは、これまでユウマさん以外に誰もモンスターを倒していなかった、ということじゃないですか。だったら、胸を張ってそのスキルを受け取ればいいんです。この世界で、『人間としてモンスターを倒したのは自分』なんだって。ユウマさんが後ろめたく思うことなんて、何一つありません」
ミコトはそう言うとニコリと笑った。
「……ありがとう」
「ユウマさんに、感謝されることは何一つ今の私はしてないですよ」
とミコトは苦笑した。
けれど、その顔もすぐに曇ったものとなる。
「それよりも、今の話しを聞いて気になることが出てきました」
「気になること?」
俺は首を傾げた。
ミコトは自分のステータス画面の、スキル欄を指さす。
「ユウマさんの、この世界での種族は『人間』でしょう? 私のこの世界の種族は『天使』なんです。でも、私には『種族内初討伐ボーナス』は与えられなかった」
その言葉に、俺はミコトが何を言いたいのかが分かり、大きく目を見開いた。
「つまり――」
「……はい、その通りです」
俺の言葉を察して、ミコトは真剣な顔で頷いた。
「――この世界には、私たちの他にプレイヤーが存在している。その可能性があります」
言葉が出なかった。
……いや、その可能性は考えていたことだ。
でも、いつしかその可能性を考えることをやめていた。
ミコトに出会って、立川市から吉祥寺市まで移動をして、壊れた街と多くの廃墟を目の当たりにして、この世界には自分たち以外の人間がいないといつしかそう思うようになっていた。
けれど、それは違う。
この世界は現実であり、同時に虚構なのだ。
トワイライト・ワールドのゲームを、俺たちが元いた前の世界でプレイしてしまった人はきっと他にもいる。
その人数がどれほどなのかは分からないけど、それでもこの世界にいるプレイヤーが二人だけというのはありえないだろう。
「少なくとも、私と同じ天使を選んだ人間がこの世界にいる、そういうことになりますね」
とミコトはそう言った。
「これから先、ユウマさんは私以外のプレイヤーに出会ったとしても、そのスキルのことは絶対に口にしないでください。私は気にしませんが、他のプレイヤーがユウマさんのことをどう思うのかは分かりません。なにせ、ステータスの数値一つで生きるか死ぬかが決まるような世界ですからね」
「ああ、分かってる」
俺はミコトの言葉に頷いた。
少なくとも、このスキルのことをミコト以外に話すようなことはもうないだろう。
「それと」
とミコトは言った。
「話してくれて、ありがとうございます。ユウマさんの強さの秘密が知れて、嬉しいです」
ミコトは笑う。
そこには、嫉妬も非難も何もない。
純粋なその笑顔を見て、俺はつくづく良いパーティメンバーを持ったものだ、とそう思った。




