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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 有翼の少女と黄昏の光

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二日目・夜 ~ 三日目・昼 吉祥寺

 ――彼女の顔が次第に赤みを増していく。



「くッ!」



 耳まで赤く染まったその顔を隠すように、ミコトはぶかぶかのローブの大きなフードを頭に被るとその場に手で顔を覆って俯いた。

 それらしいポーズを決めていただけに、この結果が尚更恥ずかしいのだろう。

 俺は気まずさで頬を掻くとおずおずと口を開く。



「あー、その。ごめんな?」


 俺の言葉に、顔を伏せたままミコトは答えた。


「……謝らないでください。私だって、本当に魔法が使えるかも? なんて思っていたんですから」



 あ、ミコトも思ってたんだ。魔法が使えるかもって。



「そりゃ、思いますよ。こんな世界で、MPなんてものがあれば魔法が使えるかも? って思うじゃないですか!」


 俺の心を読んだかのようにミコトが言葉を続けた。



 ……この子、INTが上がってから俺の考えを察するのが早くなってない?

 INTによって影響してくるのは知力――つまりは頭の良さだ。それはつまり、ひらめきや頭の回転が早くなるということなのかもしれない。



「…………とにかく。魔法は、今の私たちには使えそうにないですね」


 俯かせていた顔を上げて、ミコトは俺の顔を見る。



 まだ恥ずかしさが残っているのか、彼女の顔はほんのりと赤かった。


「みたいだな」


 と俺は彼女の言葉に同意を示して、スマホのステータス画面へと目を向ける。



 魔法と言えばファンタジーの王道だ。

 モンスターがいる世界なのだから、魔法だって存在しているはず。

 それなのに、発動しないのはまだMPが不足しているからなのか、そもそも先ほど言った魔法自体がこの世界にないから発動しなかったからなのか……。




 とにかく、発動しない原因は分からない。

 パーティシステムだって、ミコトと握手をしなければ分からなかったぐらいだ。

 魔法が使えるようになるのにも、何かしらのゲームシステムが作用している可能性もある。



「……何か、きっかけが必要なのかもな」

「きっかけ、ですか?」


「うん。MPがあって、それを増やす手段があるんだから何かしらそれを消費する手段だってあるはずだ。パーティを組む時だって、握手をして初めてパーティ申請が出来ただろ? だったらMPを消費させる手段も、何かしらのアクションが必要なのかな、って」


「……私、その手段を探す実験なんてしませんよ?」



 恥ずかしい目に合ったばかりだろうか、ミコトが俺の言葉を聞いて先手を打ってきた。

 俺は苦笑を浮かべて、頷いた。



「分かったよ。さっきは付き合わせて悪かった」

「まったくです! 一応、これでも私、女子高生なんですよ!」


 わざとらしくミコトが頬を膨らませた。けれど、その表情をすぐさま引っ込めると、ミコトは口元を緩める。



「まあ、でも他でもない、ユウマさんのお願いでしたし。ケーキ一つで許してあげます」



 ミコトはそう言って小さく舌を出すと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 何もかもが崩壊しているこの世界に、ケーキ屋なんてものは存在しない。

 ミコトも、それが分かってて言っているのだ。



「ああ、分かったよ」


 と俺も笑う。


 ミコトを実験に使った代償は、とてつもなく高い代償となった。

 今すぐにケーキを食べさせてあげることはできないが、いつか必ずこの約束は果たすことにしよう。



「ふぁああ……」



 欠伸が漏れる。

 スマホで時間を確認すると、午後九時になろうとしていた。

 この世界に来る前ならば、絶対にこの時間に寝ることはないが、今は日が昇れば行動を開始している。

 必然的に、眠気が来るのだっていつもより早い。



「……そろそろ寝るか。明日も、日が昇ったら行動しよう」

「分かりました」


「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい、ユウマさん」


 彼女の言葉を聞いて、俺は焚火に石を被せて火を消す。

 暗闇となった瓦礫の中で、俺は静かに目を閉じた。






 顔に差す太陽の光で目が覚めた。

 見上げた先には天井がなくて、朝焼けの空が広がっている。

 一瞬、ここがどこだか分からずに混乱する。

 けれどすぐに、自分の現状と昨日の夜のことを思い出して、俺は息を吐いた。


 のそりと身体を起こすと、瓦礫を椅子にしてぼんやりと空を眺めていたミコトの姿が目に入る。


「おはよう」


 声をかけると、ミコトの視線が向いた。


「おはようございます」



 そう、声をかけてくる彼女の姿に違和感を覚える。

 昨日だって、彼女は俺よりも先に起きていた。


 ――まさか、この子は今日も寝ていないのか?



「寝たのか?」


 俺の言葉に、ミコトは小さく笑うと首を横に振った。


「いえ、眠れませんでした」

「ミコト、あのな――」



 思わずため息を吐き出す。

 この世界に来て、種族が天使となった彼女は食事も睡眠もあまり必要ではないらしい。

 けれど、睡眠が必要ないからと言って眠る努力をしないのは間違えている。



「分かっています。眠たくなくても寝ろ、でしょ? でも、こんな場所で二人で寝るのは違うと思いますよ? 誰かが見張りに立たないと」


「そ、それは……。確かに、その通りだけど」


 ミコトの言った正論に、俺はそれ以上のことは言えなかった。



 ここは元の平和な世界ではない。

 酔っ払って公園のベンチで寝ていても襲われないし、路上で寝ていれば誰かが助けてくれる、そんな世界ではないのだ。


 モンスターに寝込みを襲われる危険性だってある。

 それを防ぐためにも、本当だったら交代で見張りに立つべきだった。

 それなのに、俺としたことが何も考えずに寝てしまうなんて……!



「……見張りをしてくれて、助かった。ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして」


 頭を下げた俺に、ミコトは笑みを浮かべた。


「ちなみに、夜の間は何もなかったですよ。モンスターも、近くには寄ってこなかったです」

「そうか」



 ひとまず、安全だったことに俺は胸を撫でおろした。



 それから、俺たちは朝食を食べて――さすがに三日目ともなると飽きてきた――行動を開始する。

 昨日の夜にステータスを上げたおかげか、俺たちの歩みは昨日よりも速い。

 ときおり瓦礫や廃墟の中からモンスターが襲ってきたが、さほど苦戦することなく蹴散らした。



 というのも、出てくるモンスターがゴブリンばかり――いやゴブリンしかいなかったからだ。

 何度目になるか分からないゴブリンの襲撃を蹴散らした後、俺はその違和感を口に出した。



「モンスターの出現がだよ。今までゴブリン、スライム、ロックリザード、コボルドそしてブラックドッグ……。いろいろなモンスターと戦ってきたけど、ここまで偏ったことはなかった」


 俺の言葉にミコトが不思議そうな顔で首を傾げる。


「ロックリザード、というモンスターは私は出会ったことがないですけど……」



 ああ、そう言えばミコトと一緒に行動するようになってからは出会ってないな。

 最後に見たのは立川市に入る前だったか。


 俺は、ミコトにロックリザードのことを説明する。

 ミコトはそのモンスターのことを聞くと、



「へー、そんな蜥蜴もいるんですねぇ」


 と呑気な感想を口にした。



「それで? そのモンスターが出てこないことが何か問題でも?」


「さっきからゴブリンとしか出会っていないことが不思議なんだよ。――まるで、ゴブリンの縄張りに足を踏み入れたみたいに、さっきから俺たちの前にはゴブリンしか出てきていない」


「そうですか? 確かにゴブリンばかりだなーとは思いましたけど。今までだってゴブリン多めじゃなかったですか?」



 確かに、ミコトの言う通りこれまでに俺たちが出会うモンスターはやたらとゴブリンが多かった。

 それでも割合で言うなら、ゴブリンが5、他モンスターが4というぐらいだ。

 けれど吉祥寺駅に進むにつれて、出会うゴブリンの数は多くなり、今では出会うモンスターすべてがゴブリンだという現状だ。


(なんだろう、嫌な予感がする……)


 言い知れない不安が胸の中に広がる。


「ユウマさん? どうされました? 顔が怖いです」


 心配そうにミコトが俺の顔を覗き込んできた。


「……いや、なんでもない」



 俺は首を横に振って誤魔化した。

 違和感はあるが、今は確証がない。

 余計な心配をさせるべきではないだろう。

 それに、ゴブリンが相手ならば何か起きても今の俺のステータスなら対応できるはず。



 草葉の陰や廃墟、瓦礫の陰から飛び出してくるゴブリン達を黙々と狩りながら、俺たちは歩みを進めていく。

 歩みを進めるにつれて、俺たちの前を塞ぐかのように割れたアスファルトから生い茂っていた草木の数が減り始め、立ち並ぶ樹木の数も少なくなってきた。



「あっ」



 と小さく声を出したのはミコトだった。

 目の前に立ちふさがるかのように、俺たちの前にそびえ立つ廃墟ビル。

 アスファルトはひび割れ、草木が茂り、苔で緑に覆われている。

 見覚えのあるそれは、間違いなく駅のロータリーだ。



「やっと着いたな」



 吉祥寺駅。

 サブカルチャー発信の地や、学生の街、住んでみたい街としても知られ、アトレが併設されたその駅ビルは、かつては多くの人で賑わっていた。


 だがその記憶も、この世界の吉祥寺駅ではまやかしのようにありえない記憶だ。

 駅ビルには蔦が巻き付き、苔が生えて緑に覆われ、ヒビと崩壊によって鉄筋をのぞかせたコンクリート壁はもはやそこに建っているのが不思議なほど。

 少しでも地震が来れば、このビルもあっという間に瓦礫の山となってしまうんじゃないかと思ってしまう。

 一応は駅ビルとしての外見を保っているけれど、その機能はもはやない。

 ただただ、廃墟となった駅ビルがそこにはあった。



「さて、吉祥寺駅に着いたわけだけど」



 言って、例の声が聞こえるんじゃないかとポケットから取り出したスマホに視線を向けたその時だった。


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