閑話:二人の約束
短めです。
闇に閉ざされ新緑に覆われたかつての舗装路を、発光する翼を持つ少女とそれに追随する二つの影が駆けていく。
彼女の持つ発光する翼は、夜の世界ではひと際よく輝き、目を惹いた。
それに釣られて集まるモンスターは、十や二十では済まない。
何十という数のモンスターに常に囲まれ、数メートルも進めばモンスターに行く手を遮られ、戦闘が生じた。
翼を持つ少女と、それに追随していた影のうちの一人である栗色の髪を持つ幼い少女は、一撃のもとにモンスターを葬っていたのだが、戦闘に慣れていないのであろうもう一人の猫人の少年は、頻繁にモンスターを相手に苦戦をしては、少女たちに助けられていた。
それでも、猫人の少年もただ苦戦をしていたわけではなかった。
苦戦をしながらも、少年は一匹、一匹と確実にモンスターの息の根を止めていく。
そうして、幾度とない戦闘を重ねて、夜がさらに深まった時だ。
何度目になるか分からない、人と狼を掛け合わせた魔物――人狼の襲撃を受けて、対処していた時だ。
ふと、発光する翼を持つ少女が呟いた。
「やはり、気になりますか?」
その言葉は誰にともなく呟かれた、独り言のような言葉だった。
しかし栗色の髪を持つ幼い少女は、すぐにその言葉の意味に気が付いたようだった。
大きなため息を吐き出すと同時に、ゆっくりとした口調で口を開く。
「当たり前じゃ。お主もじゃろ? ミコト」
問いかけられた言葉に、翼の少女――ミコトは頷いた。
「…………ええ、まあ。気にならないといえば、嘘になりますね。何せ、マキナの語ったあの方法が上手くいく保証なんてないんですから」
少女たちは、襲い来る人狼の攻撃をいなし、時には回避をして、かと思えば地面を蹴って前に飛び出し一撃の元に人狼を下してその数を減らしていく。
そうした余裕のある戦闘を繰り広げながらも、少女たちは眉間に皺を寄せたまま、険しい顔で会話を続けていた。
「そうじゃの。まさか、正面から戦いながらも声を掛け続けて時間を稼ぐ……なんて言われるとは思わなかったからの」
「私たちが全力で戦い、声を掛けることで種族変化し奥底に眠っているであろう主人格を表出させる…………。まあ、確かに、種族変化自体が私たちの中に植え付けられた、別の人格の表出だとするなら、言ってしまえばこれは二重人格のようなものですし、時間を稼ぎ、声を掛けることで種族変化が解けるかもしれないって考えは…………まあ、一応は理解が出来ます」
「じゃが、それを行う危険が大きすぎる。そもそも、それで解ける保証がない。解けなければどうするのかと言えば、そのプレイヤーの意識を奪えと言うではないか。一度意識が無くなれば、次に目を覚ました時に元に戻っているかもしれない、と」
「それが一番の問題ですね。まともに相手をして、私達が勝てるのかどうかですが……。マキナが言うには、私達よりも強いんでしょう? そんな人に、勝てますか?」
「…………分からぬ。じゃが、我らとてそう簡単には負けぬはずじゃ。もっとも、我からすれば、声を掛け続けて目を覚ますのを待つよりも、一度気を失わせるぐらい全力でぶつかった方がやりやすいがの」
少女は、そう口にするとくっくっくっと喉を鳴らして笑った。
それから、少女は笑みを引っ込めると大きく息を吐く。
「とにかく。やるしかあるまい。問題は、我らの同化率が持つのかどうかじゃが…………」
「そこですね。全力で戦えば戦うほど、同化する危険性は高まるので……。クロエが同化した際には、迷わず助けますよ?」
ミコトの言葉に、クロエと呼ばれた少女は笑った。
「すまぬな。お主が同化した際には、我がお主を助けよう。何、お主を死なせはせぬよ」
「ありがとうございます」
ミコトは小さく笑う。
そして、ふと視線を向けると、クロエに向けて目配せをした。
「さてと、そろそろお喋りは止めましょうか。マキナが限界です」
「そうじゃの。さすがに、手を貸してやるか」
二人はそう呟くと、地面を蹴って猫人の少年の元へと駆け寄った。
必死に戦っていた猫人の少年は、少女たちの会話を知らない。
この会話は、たった二人だけの間に交わされた約束だった。




