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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 喪失世界の怪物と崩落の廃都市 後編

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パワーレベリングの結果



 空が真っ赤に燃えている。

 そう、錯覚してしまうほど鮮やかな夕焼けがそこにはあった。


 亡霊のように佇む瓦礫になり損ねた廃ビル群がうんと背伸びをするように影を伸ばし、役目を終えたとばかりに沈みゆく太陽と入れ替わるように、西の空では金星の輝きが増していく。



 夜が来る。

 六日目の夜だ。



 朝からミコトに連れまわされてパワーレベリングを行っていた私は、無事にノルマを達成して廃ビルへと戻った。

 すると、その入り口には小さな人影が佇んでいて。その人影によくよく目を凝らしてみると、それは日が沈みようやくまともに動けるようになったクロエだった。



「戻ったか。……その様子じゃと、どうやら無事にレベルは上がったようじゃの」



 へとへとになって戻る私を見て、クロエがそう言って声を掛けてくる。

 対してさほど疲れた様子のないミコトは、クロエのその言葉に小さく頷くと言葉を返した。



「ええ、とりあえずレベルは4つ上がりました。この辺りのモンスターにしては上々の成果かと」

「うむ、そうじゃの。それだけレベルが上がれば十分じゃ」



 クロエはミコトの言葉にこくりと頷いた。

 それから、ちらりと私へと目を向けるとまた口を開く。



「……して、どうしてそ奴はそんなに疲れておるのじゃ。ミコトよ、【活力回復(バイタルヒール)】は使っておったのじゃろ? じゃったらそこまで疲れるはずがないのじゃが」



 【活力回復】は身体疲労とHPを回復する。

 そのスキルを使ってさえいれば、確かにクロエの言う通り疲れもなく動くことが出来るだろう。

 ……けど、身体疲労と精神的な疲労はまた別だ。



「ええ、使ってましたよ。使ってましたが……、その……。どうやら、私の狩りのスピードに耐え切れなかったようで。身体の方はさほど疲れていないと思うのですが、精神的な疲労が大きいようです」


 そう言って、ミコトは私へと目を向ける。



 私は二人から注がれる二つの視線を受け止めると、ゆるゆると胸の奥底に溜まる疲労を押し出すように、ゆっくりとした口調で口を開いた。



「……当たり前です。ミコトにとっては苦でもない相手でしょうが、私にとっては一戦一戦が命懸けなんです。それを、延々と十時間……。身体が疲れればスキルで無理やりに癒され、一度の休憩もなく動き続けて…………。身体はそりゃ楽ですよ。疲労もありません。ですが、もう……、今日はもう、限界です。ゆっくり休みたいです」


「……はぁ、仕方ないの。まあ、(『吸血鬼』)ミコト(『天使』)と違って『獣人』は食事も、睡眠も必要じゃからな。スキルで無理をするのも限界がある、か…………。これからまた我も参戦して三人で、と思っておったが、それは難しそうじゃの」


「ええ、今日はもう止めておいたほうがいいかと」



 クロエの言葉に、ミコトが頷きながら言った。

 クロエは、その言葉に小さく頷きを返すと、何かを考えるかのような仕草を見せて、それからまた私へと目を向ける。



「それじゃあ、一度ゆっくりと休むがよい。その間に、我らは今日の『クエスト』を終わらせよう――――と、そう思ったのじゃが。お主、そう言えば『クエスト』はどうなっておる? 届いておるのか?」



 おそらく、私が数日の間、軟禁されていたからクロエは疑問に思ったのだろう。

 私は、彼女の言葉に小さく頷いて答えた。



「ええ、一応は。とは言っても、一度もボスと戦ったことはありませんが」



 軟禁されている間、クエストは毎日のように届いていた。

 一度受けたクエストが終わらないかぎり次のクエストが届かないことを考えると、私が受けたクエストを、同じように受けていた誰かが終わらせていたのは考えるまでもないだろう。


 その誰かは、おそらくきっと。

 クエスト以外でもボスを狩って、レベルを上げている目の前の二人に違いない。



「ちなみに、今受けておるクエスト名はなんじゃったか?」

「確か……。『首のない騎士』と言っていたはずです」



 そう言って、私は今朝方届いたばかりのクエスト名を告げる。

 これが『人間』だったならば無視できなかったのだろうが、私は『獣人』だ。クエストに対する意識もさほどないし、今のところは無理してまで受けようとは思っていない。



「『首のない騎士』か……。我らが受けたものと同じクエストじゃの。おそらく、クエストボスはデュラハンのことじゃと思っておるが……。ミコトよ、確か〝チガサキ〟とか言う場所でデュラハンの目撃情報があったよな?」

「ええ。昨日、話題になってましたね。どこかからか流れてきたんじゃないかって」



 クロエの言葉にミコトが頷きながら言った。



「間違いなく、ボスはソイツじゃな。おおよそ、どこかで縄張り争いをして負けて、流れてきたのじゃろう。居場所が割れているのはちょうど良い。さっと行って、さくっと終わらせることにしよう」

「……まさか、二人で行くんですか?」



 問いかける私の言葉に、クロエは喉をくっくっと鳴らして笑った。



「当たり前じゃ。下手に実力差がある者同士でボスに挑めば、それだけで互いの足を引っ張ることになるからの。今の我らについて来れるプレイヤーなんぞ、この『ギルド』の中にはおらん」

「大丈夫ですよ。マキナは休んでいてください。明け方までには戻ると思います」

「休んでいる間、暇ならばステータスでも割り振っておくのじゃ。…………それじゃ、行ってくる」



 二人は、私に向けてそう答えると一気に駆け出して、あっという間に夜の帳の中に消えてしまった。




「……本当に、二人だけで行っちゃった」


 二人が消えた方向を見つめて、私は呟く。




 心配ではある。

 けれど、彼女たちならばたった二人でも大丈夫なんじゃないかと、そう思ってしまう。

 だから私はm一度だけ深いため息を吐き出すと意識を切り替えて。まずは自分の精神的な疲労を癒そうと、ゆっくりとした足取りで彼女たちの『ギルド』がある廃ビルの中へと足を踏み入れたのだった。






          ◇ ◇ ◇






 入口付近のエントランスロビーは、『ギルド』のメンバー数人が守りを固めていた。

 おそらく、侵入するモンスターから拠点を守るためだろう。

 廃ビルへと足を踏み入れる私に、彼らはジロリとした視線を向けてきたがクロエやミコトの知り合いだと分かっているのか、特に何も言わず私を通してくれた。



 私はエントランスロビーの端へと移動して、ひび割れた壁を背にして座り込む。

 それから、しばらくの間ぼんやりと警備をする彼らの様子を眺めてから、私はポケットからスマホを取り出してステータス画面を出した。






 荻野 マキナ  Lv:7 SP:5

 HP:25/25

 MP:6/6

 STR:26

 DEF:9

 DEX:13

 AGI:42

 INT:6

 VIT:8

 LUK:7

 所持スキル:幻想の獣 鷹の目 夜目






 上昇したレベル。ステータス。

 獲得したSPの一部は、パワーレベリング中にSTRとDEX、そしてAGIに5つずつ割り振っている。


 今回割り振るのは、レベル7になった際に獲得したSPだ。


 現状のステータスで複数のレッドウルフ相手にも勝てるようにはなっているが、それでもまだ辛勝だ。油断は出来ない。



「……さて。どれに割り振りましょうか」



 呟き、画面に並ぶステータスを見る。

 ステータスを割り振る中で気が付いたことだが、古賀ユウマのようにLUKの成長に補正がある『人間』とは違って、STRとAGIに成長補正がある『獣人』は『人間』よりも戦闘向きだと言えるだろう。


 手っ取り早く強くなるのならば、補正があるSTRとAGIに集中してSPを割り振ればいい。


 だが、ただそれだけでは戦闘のバランスが崩れるのは事実。

 実際に、私の攻撃は自分の速度に合わせた目測を見誤った空振りがやたらと多くて、それを防ぐため、パワーレベリング中にDEXへとSPを割り振ったほどだ。


 長所を伸ばしつつ、短所を補う。


 それが、現状では一番のステータス割り振りだろう。



「そう言えば、これって何だろう」



 パワーレベリング中に出現していたスキル。

 【夜目】はあの軟禁中にいつの間にか獲得したものだったが、【鷹の目】は気が付けばそこに出現していた。

 ミコトに引きずられるようにパワーレベリングを行っていた時はSPを割り振るのが精一杯でスキルを確認する余裕が無かったが、今ならばじっくりと読むことが出来る。



「……【鷹の目】、か」



 トワイライト・ワールドは私が設計したものだが、そのスキルを組み込んだ覚えが私にはない。

 となれば、これはアイオーンが組み込んだものだろうか。

 私は若干の警戒を滲ませながらもスキルの説明を読むため、その名前を一度タップした。




 ≫【鷹の目】

 ≫獲物を見定め、確実に息の根を止める狩人の瞳。

 ≫MPを3消費する代わりに、対象の弱点が目で見えるようになる。




「――――これは」



 思わず、言葉が漏れる。

 説明文を読む限り、戦闘向けのスキルであることは確かだ。

 だが、その説明があまりにも抽象的過ぎる。


 対象の弱点? それが目で見える?


 いったい、どういうことだろうか。



「…………一度、使ってみるしかないようね」



 アイオーンが組み込んだものならばロクでもないものに違いないが、それでも使ってみなければ分からない。

 私は、ため息を吐きながらスキル説明文をタップして消すと、改めてステータスの割り振りに意識を向ける。



「……やっぱり、AGIかな」



 呟き、私はSPの割り振り先を決めた。

 これで、私のAGIは50を超える。

 他のステータスと比べて突出しているが、これでまた問題があれば次に獲得したSPで補完していけばいいだろう。



 ――それに。私の戦闘スタイルは、古賀ユウマの模倣だ。



 それ以外の戦闘方法が分からない以上、他のVITやDEFなどに割り振って中途半端に耐久を上げても意味がないだろう。



「なんだっけ、こういうの……。〝当たらなければどうということはない〟だっけ?」



 ココではないどこかの世界軸で、人の子達が作り出したキャラクターが言っていた言葉。




 AGIさえ高ければ、VITやDEFが低くても回避で補うことが出来る。

 素早く動き、確実な一撃を叩き込む。

 いわゆる古賀ユウマが言っていた、ヒット&アウェイという戦闘方法だ。



「ふ、ぁぁあふ……。もう、寝よう」



 残されたSPを割り振り終えて、気が抜けたからか急激な眠気に襲われる。

 私はスマホ画面を閉じると、膝を立てるようにして座り直すとその膝の間に顔を埋めた。



「――――――」



 ゆっくり、ゆっくりと瞼が落ちていく。

 そして、私はその日の心の疲れを癒すため。束の間の休息へと身体を委ねたのだった。

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