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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 喪失世界の怪物と崩落の廃都市 後編

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夜の来訪者



 

 彼女が私の前に現れたのは、それからまた一日が経った五日目の夜のことだった。



「――――おい、起きとるか」



 頭上から降り注ぐその声に、ぼんやりと窓枠の外を見つめていた私は視線を上げる。そして、頭上に広がる穴の向こう側からこちらを覗くその顔に気が付いて、私は声をあげながらその場で立ち上がった。



「ッ、クロエ!!」

「――シッ! 声が大きいッ!!」



 クロエは小さく鋭い声を出すと、軽やかな身のこなしで穴の下へと――私の元へと降りてくる。



「お主のところに来たのは我の独断じゃ。我がここに来とることは、ミコトを含めて誰も知らん。一応、【気配感知】で周囲には気を配っとるが……。今日の『ギルド』には、【聴覚強化】を持つプレイヤーがおる。出来るだけ、会話は小声で頼む」



 言われて、私はクロエの傍にミコトが居ないことに気が付いた。



「ミコトはどうしたの?」

「ミコトは日課をこなしておる」

「日課?」

「レベリングじゃ」



 ……なるほど。東京にいる『人間』から少しでも逃れるために、彼女たちが日々行う自己成長のことを日課(レベリング)と呼んでいるのか。



 そこで、私はふと気が付く。


 確か、アイオーンが支配するこの(トワイライト・)世界(ワールド)では、モンスターごとに討伐に必要な適正レベルが設定されていたはず。ここら周囲の弱いモンスターをいくら倒したとしても、レベルの低い今の私ならいざ知らず、この世界で二週間以上も生き残った今の彼女たちならば、この辺りのモンスターをいくら倒したとしても、その経験値は全く入らないのではないだろうか。



「あの、この辺りのモンスターは、その……。私一人でも、倒せるぐらいのモンスターのはずだけど、あなた達二人はレベルが上がるの?」



 その言葉に、クロエはすぐに私の言いたいことが分かったようだ。

 小さな笑みをその口元に浮かべると、おどけるように肩をすくめて見せた。



「いいや、まったく上がらんの。じゃから、今は別の方法でレベルを上げとる」

「別の方法?」



 クロエのその言葉に、私は小首を傾げた。

 するとクロエは、一度小さく頷きニヤリと唇を歪めて言った。



「この辺りのモンスターが弱ければ、強い雑魚モンスターのところに行けばよい。強い雑魚モンスターでレベルが上がらなくなれば、それ以上に強いモンスターのところへ行けばよい。幸いにも、この世界は我ら以上に強いモンスターには困らんからの」



 その言葉に、私は彼女たちが何を相手にレベリングを行っているのかすぐさま気が付いた。



「――――まさか、あなた達。クエストとは別に、ボスモンスターを相手にしてレベル上げをしてるんじゃ……」



 それは、その方法は。この世界に足を踏み入れた、古賀ユウマ(高レベルプレイヤー)が行っていたレベリングの方法だ。事実、アイオーンが用意した効率のいい(種族変化したプレ)レベリング(イヤーを殺害する)方法を除けば、現状で一番効率がいい方法だと言えるだろう。


 しかし、野良のボスモンスターを相手にするということは、それだけ大きな危険が伴うということ。


 ボスモンスターには周囲に存在するプレイヤーのレベルに応じて、その強さには補正が掛かっている。こちらのレベルが上がれば上がるほど、そのレベルに応じてボスモンスターの強さに補正が掛かっていくそのシステムは、永遠に埋まらない力量差と言っても過言ではない。



 彼はその力量差を、持ち合わせる全てのスキルと、これまでに培った戦闘経験によって覆していた。



 けれど、彼女たちはどうだ。『人間』でもない彼女たちの種族では、スキル取得に関わるLUKの値も彼ほどではないだろう。戦闘経験に至っては、そこらのプレイヤーよりも高いのかもしれないが……。でも、それまでだ。確実に、彼ほどではない。



 どう考えても自殺行為だ。彼女たちが行っているのは、自らの命を賭けた狂った自己成長(レベル上げ)に過ぎない。



「どうして……、どうしてそんなことを」



 思わず漏らしたその言葉に、クロエは小さな息を吐き出しながら答える。



「我らだって、この方法が正しいとは思ってはおらぬ。……じゃがの、そうでもしないと我らはあの男にいずれ殺される。死にたくないのならば、ほんの少しでも生き残る可能性に賭けるのならば、我らは……文字通り死ぬ気でレベルを上げねばならぬ」



 覚悟の混じったその言葉に、私は呆然と彼女の顔を見つめることしか出来なかった。



「それじゃあ、ミコトは今……」


「さすがに、我らもソロではボスに挑まんよ。今頃、ここらでも多少マシな、それこそ横須賀か鎌倉あたりにでも行って雑魚狩りでもしとるんじゃないか? 千匹ほど狩っても我らのレベルは上がらぬじゃろうが、万匹も狩れば一つぐらいはレベルが上がるじゃろ」



 クロエはそう言って、くっくっくと喉を鳴らすようにして笑った。



「さて、これで分かったじゃろ。今の我らには時間が足りぬ。……いや、無駄にする時間は一秒たりとて無い。そんな中で、わざわざこうして、お主のところに足を運んだのは、どうしてもお主に聞いておきたいことがあったからじゃ」



 言って、クロエはその口元に浮かべていた笑みを消した。

 真剣な表情で私を見つめる彼女の瞳に、私自身も表情を改めると姿勢を正して彼女に向き合う。



「……いったい、何が聞きたいの?」



 静かに問いかけたその言葉に、クロエは小さく頷くと口を開いた。


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