??日目 プロローグ
世界に朝が訪れて、その日の活動を終えた男は重たい身体を引きずるようにして自らの寝床である街はずれの廃墟へと向かった。
男が歩くたびに、その背中から生えた蝙蝠を思わせる小さな翼が揺れ動いている。
男は、この世界では悪魔像の怪物という種族だった。
種族の特徴なのか、夜になれば身体能力が向上することを利用して、男は夜のみを利用してこの世界で活動していた。
男の口から大きなため息が漏れる。
それもそのはずだ。男がこの世界で目覚めてもうすぐで二週間。
この世界から抜け出せる兆しすら見えず、ゲームを思わせるこの世界は、モンスターを殺したところで簡単にはレベルが上がらないゲーム仕様。加えて、自らのレベルよりも遥かに高いボス戦に挑み勝たなくては満足に戦闘を行う武器すらも貰えないという鬼畜のようなゲームバランスだった。
だからこそ、こうしてここまで生きているのが奇跡そのものだ、と男は幾日も考え続けていた。
「もう、寝よう……。続きのレベル上げはまた明日だ」
男は呟き、廃墟の奥の一角で石像を思わせるかのように身動きもせず丸くなった。
――そして、その男が寝静まった時。
一人の男がその廃墟へと訪れた。目元にまでかかる長い黒髪と、眼鏡をかけた無精ひげを蓄えたその男は、廃墟の奥で寝静まる『悪魔像の怪物』の男を見て、邪悪な笑みをその口元に携えた。
「…………ここにも居たか」
男が呟き、寝静まる男へと近づく。
ゆっくりと腕を伸ばして、男はやがてふいにその指を鳴らした。
――その瞬間のことだった。
≫≫スキル:石化を獲得しました。
≫≫スキル:飛翔を獲得しました。
≫≫スキル:身体強化を獲得しました。
≫≫スキル:悪魔の門番を獲得しました。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在38%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在42%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在50%です。
≫≫あなたの種族同化率が50%を超えました。システム:種族同化が適応されます。あなたの身体を種族:悪魔像の怪物が操作します。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在52%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在56%です。
そのアナウンスが『悪魔像の怪物』である男のスマホから狂ったように鳴り響き始めた。
ビクリと寝ていた男の身体が痙攣したかのように揺れ動いて、まるで壊れたテープレコーダーのように、数値だけを言い換えた言葉が繰り返されるたびにそのスマホの持ち主であるその男は発狂した声を上げた。
「ぁぁぁあああああぁぁぁぁあぁぁああああああ!!」
まるで自分の中に居座る誰かと戦っているかのように、自らの頭を抱え込んで男は激しくその場で悶える。
その絶叫が周囲のモンスターを引き寄せることになろうとも。
その男はあらん限りの声を上げて、苦しみの声を上げることしか出来なかった。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在76%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在82%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在88%です。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在94%です。
そのアナウンスは止まらない。
男がどれだけ苦しもうが、どれだけ絶叫しようが、まるでそれをあざ笑うかのようにただ淡々と男のスマホはそのアナウンスを読み上げていく。
同時に、その数値が進むほどに男の身体には変化が起きていた。
背中に生えていた蝙蝠を思わせるような小さな翼が巨大化していき、額に生えていた小さな角が瞬く間に伸び始めた。皮膚は石のように硬く灰色に、爪は黒く変色しながら鋭く伸びて、尾骨からは鋭く伸びる黒い尻尾が生えた。瞳は眼球そのものが血で塗りつぶされたかのように真っ赤に染まり、光のない廃墟の暗闇の中で爛々とした光を放っていた。
「あぁ…………ぁ、ぁぁ…………。な、に……が…………」
男は残された最後の意識の中で、最後の気力を振り絞りそう呟いた。
いったい自分が何をした。
いったい自分に何が起きた。
この何もかもが崩壊したこの世界で、ただ必死に生きていただけなのに。
急に鳴り始めたスマホと共に、身体が変異し自らの中に居座っていた何かが突然暴れ始めて、唐突に意識もろとも身体を乗っ取り始めている。
「なに……が――――――」
そして、男の言葉はそこで途切れる。
同時に、数分前まで人の姿をしていた男の身体は完全なモンスターへとなり果てて。
その作業を完了したことを知らせるかのように、廃墟の床に落ちたスマホがアナウンスを鳴らした。
≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在100%です。
≫≫――――プレイヤーの種族同化率が最高値に達しました。
≫≫――――プレイヤーの種族スキルの所持数が最高数であることを確認しました。
≫≫システム:種族変化が適応されます。
≫≫ユニークモンスター:悪魔像の怪物を確認しました。
「ウゥウウォオオオオオオオオオオオオ!!」
そのアナウンスを聞いて、男は――いやそのモンスターは咆哮を上げる。
それは、この世界に新たに誕生したモンスターの産声でもあったし、かつてはプレイヤーでもあったそのモンスターの発した悲痛な叫びだった。
「さあ、喜劇の続きを始めようじゃないか。ふふ、ふふっ、ふははははははははは!!」
モンスターを作り上げた男の嗤い声が木霊する。
いつまでも、いつまでも。
この壊れた世界で、男はプレイヤーを壊しながら嗤い続けていた。
お待たせしました。
二部三章、スタートです。
今のところ前編と後編の二部構成で考えてます。
三章もよろしくお願いします!!




