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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 円環の黄昏と幻想の始まり

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九周目~ 探索の果て


 ――九周目。


 目覚めと同時に、俺はボロアパートを飛び出た。

 頭の中では、ぐるぐるとこの周回での出来事が回っている。



(……あの女の言う通り、浦野は確かに二日目に東京へとやってきた。だが、浦野に会うことを俺は許されていなかった。もし、あの女がアイオーンの手先で、俺が浦野と会うことを禁じられていることを知っていたのだとしたら、アイツは俺を罠にかけて無駄な周回を増やしてきたってことだ)



 クゼに――アイオーンに最も近いと思われたプレイヤーとの接触禁止。


 この世界を、このクソゲーをあのクソ野郎が作り出しているからこそ仕掛けてきた、クソゲーにすらなっていない詰み要素。



「早い話が、このクソゲーを終わらせるには自分の足であのクソ野郎を見つけるしかないってことか」



 アイツの居場所は、江東区というヒントだけ。しかも、その江東区は水に沈んでいるのだ。

 この世界で、俺に残された時間は少ない。

 そう考えた俺は、九周目が始まると同時に全力で駆け出していた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ」



 休むことなく江東区へと向けて足を動かして。

 全力で崩壊した東京の街中を駆け抜けて、まだ日が高く昇り始める前に銀座へと辿り着いた俺は、水底に沈んだビルを見つめて荒い息を吐き出していた。



「江東区は、この、先……だな」



 ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。

 ここから先に道はない。

 水に沈んだこの先を探す方法は、そこら中に生えている樹木を切ってイカダを作るか、もしくは泳ぐしかない。


 息を整えながら、周囲を見渡す。



「木は、ある……。それを結ぶ蔦も、強度は心配だけどある」



 ただ、イカダなんて代物を俺に作ることが出来るのか?

 作り方なんて、そもそも知らない。浮力代わりになる発泡スチロールなんてない世界だ。樹木を適当に縛って水に浮くイカダを作ることが出来るのなんて、ゲームの世界だけの話だろう。



「まあ、試しにやってみるか」



 適当に手身近な木へ蹴りを放ち、その幹をへし折る。

 何本かの樹木を集めて、邪魔な枝をへし折って丸太を作り出すと、それを蔦で縛って見た目はソレっぽいイカダを作り上げた。



「……よし」


 作ったイカダを水辺へ引っ張り、そのまま浮かべてみる。



「……………………」



 水に押し込んだイカダは、そのまま浮くことなく――いやむしろ浮く気配すら見せず、水の底に沈んでしまった。



「……まあ、分かってたけど」



 分かってはいた。けれど、微かな希望も無かったのかと聞かれれば嘘になる。

 俺は、小さなため息を吐き出して気持ちを切り替える。



「――泳ぐか」



 シャツを脱いで、瓦礫の陰にそれを隠す。

 春先の水は冷たく、長い間水の中にいれば低体温症となってしまうだろう。

 【地図】を見ながら範囲を決めて、小まめに休憩を入れながら探索をしていくしかない。



「……よし」



 準備運動を終えた俺は、【地図】を発動させたスマホを片手に水の中へと飛び込んだ。

 途端に身体を襲う水の冷たさに、悲鳴が上がりそうになる。


 だが、それも最初だけで徐々に慣れ始めたその冷たさに息を吐き出すと、【地図】画面で目的の方向を確認した。


 まずは江東区の南西側。


 豊洲と呼ばれたその場所を中心に、探してみることにしよう。





 夜闇を照らす炎の光が、疲労と寒さで震える身体を優しく癒してくれていた。


 江東区の探索を始めて三日目の夜。

 残り数分で四日目が始まるその時間に、俺はこの周回で最後の探索を終えて、岩陰で暖を取っていた。



「…………寒い」



 手の平を炎へと向けながら、芯まで冷えた身体を温める。


 歩くのとは違って、泳ぎでの探索は思っていたよりも難航している。

 常に泳ぎ続ける体力の消耗に加えて、水の冷たさが遠慮なく体力を奪いに来るからだ。時間の消費を焦るあまり体力の限界を迎えてもなお探索を続け、水底に沈んだビル群同様に沈みそうになったのも一度や二度ではない。


 まさに、命懸けとも言える探索を俺はしていた。



「一日目で豊洲周辺、二日目で有明の国際展示場周辺。三日目の今日で、二日目に確認できなかった場所を探して…………成果はゼロ、か」



 抱えた疲労と、身体の底からくるような震えに思わず大きな息が漏れる。

【気配感知】という探索スキルを発動しているが、アイオーンの気配が掛かることはない。そもそも、アイツが居るのはセーフティゾーンと呼ばれる場所だ。【気配感知】のスキル効果が働くのか分からないが、もし働かないのであれば目で見つけるしかない。


 アイツを探そうと思うのなら、ただひたすらに泳ぎ探すしかないのだ。


 揺れる焚火の炎を見つめながら、俺はさらに言葉を漏らした。



「火打ち石が手に入って良かった」



 一日目での探索は豊洲周辺の確認に終わり、二日目が始まる直前に秋葉原へと出向きストーリークエストでオーガを殺した俺は、サバイバルセットを選択して火打石を手に入れていた。


 三日目の日付が変わると同時に受けたクエストでは、新橋の駅前に居たオークの上位種――ハイ・オークを討伐している。


 三日目の報酬選択で武器を選択して、手槍という短い槍を手に入れたが……。これも、使う機会のないまま役目を終えようとしている。



 三日という時間を最大限に使ってもなお、江東区の探索が終わらなかった。



 この周回で終えた探索の範囲は、江東区の十分の一にも満たしていない。

 また、次の周回でも同じようにこの場所を探すしかないだろう。



「次は、江東区の南側――お台場の方を探すか」



 お台場と言えば、テレビ局のあった場所だ。


 実物大の機動戦士立像が置いてある場所としても有名なところだ。きっと、おそらく。その立像も、この世界では水底に沈み水草が生えていることだろう。



「ふぅー…………」



 深い、深いため息を吐き出す。

 目を閉じて、少しでも身体を休めることに専念する。

 そして、その時間はやってくる。




 ≫≫対象コードを確認。検索します。

 ≫≫……ERROR。貴方の存在が、見つかりません。

 ≫≫貴方は、この先の黄昏世界での存在が許されていません。

 ≫≫特殊システム:強化周回を確認しました。

 ≫≫特殊システム:強化周回が発動します。




 九周目は眠るように。

 俺は、この世界での活動を静かに終えた。




 ――十周目。


 九周目で考えていた通り、お台場周辺を探る。


 二日を掛けて探索をしたが何の成果もなく、最後の三日目に辰巳と呼ばれる江東区の南部に位置する場所を探索し、この周回を終えた。




 ――十一周目。


 江東区の南部を探索し終える決めた俺は、新木場駅を中心に探索を進めた。


 この周回で俺は新しいスキル、【疲労回復】というスキルを取得した。効果はいわゆる、身体疲労の回復が速くなるというもの。疲労の回復によってMPが回復する仕様であるこのクソゲーにおいて、戦闘でも探索でも使えるスキルだった。


 【疲労回復】によって探索の速度が僅かに上がったが、それでも三日を掛けて終わらせることが出来たのは、新木場駅の周囲と岩洲と呼ばれる東京湾を埋め立てて造られた人工の土地周辺のみだった。




 ――十二周目。

 ――十三周目。

 ――十四周目。


 合計で、九日を費やして江東区の西部の探索を終えた。



 だが、成果は相変わらずない。アイオーンの姿どころか、建物の全てが水の底に沈んでいて、人の姿そのものさえも見かけることはない。


 どの周回かは忘れたが、探索中に【不食】と【不渇】という二つのスキルを手に入れた。


 【不食】の効果は、食事を必要としなくても身体を動かすことが出来るようになることと、【不渇】の効果は水分の摂取をしなくても、身体を動かすことが出来るようになるというもの。


 どちらもこの世界で生きるにはチート級のスキルで、このスキルによって俺は飲まず食わず、さらには眠ることなく身体を動かすことが出来るようになった。




 ――十五周目。


 この辺りで、俺は泳ぎ出しのスタート位置を変更することにした。


 今までは銀座からスタートして、数キロほど探索済みエリアを突っ切り未探索エリアをくまなく泳ぎ確認していた。


 これから探すのは江東区の中央と東側だ。


 だから、銀座から泳ぎだしでは無駄が多い。

 どうしようかと思い悩んで、水の底に沈んでいるのは銀座から先ということは、他の場所も水の底に沈んでいるのではないか、そう考えた俺はより江東区に近い場所を求めて北上した。


 結果、茅場町と呼ばれる東京駅から東に位置したその場所から泳ぎ出した方が、より江東区には近いことを発見した俺は、茅場町から探索をスタートした。




 ――十六周目


 十五周目から引き継ぎ探索していた、江東区の中央部に何もないことが分かった。


 十六周目の三日目、ストーリークエストボスを倒し終えた時に、【適温】という身体の体温を一定に保つスキルを身に付けた。




 ――十七周目。


【不眠】、【不食】、【不渇】、【疲労回復】、【適温】というスキルを手に入れた俺は、小まめに休憩をとる必要が無くなり、二日目のストーリークエストでサバイバルセットを選択する必要さえも無くなった。


 二日目の報酬で武器を選択して、短弓を入手するが、これまでに使ったことのない武器で上手に使えず挫折する。


 三日という時間を必要最低限の休憩でフルに活用し、一気に江東区の東部の探索を終了させた。



 結果は、やはりと言うべきか何もない。



 強いて言えば江東区の先にある、江戸川区も水の底だということが判明したぐらいだろうか。


 これで、江東区の全てを探索したことになる。

 ……結果は、言うまでもないだろう。

 俺は、多くの周回を費やしながらも何も見つけることが出来なかった。



「――――ッ」



 強く、強く唇を噛みしめる。


 アイオーンはこの場所に居ないのか。もっと探索の範囲を広げなければならないのか。

 そんなことを考えながら、焦りにも似た感情に憑りつかれながらも俺は血眼になって【地図】で探索漏れは無いかと必死に探す。



「――――――ぁ」



 そして、見つけた。

 江東区の南、東京湾のただなかに位置するその場所を。



「……次は、ここだ」


 そう言って、俺は次の俺にこの希望を託した。




 ――そして、十八周目。


 いつものように目覚めたボロアパートで、俺はゆっくりと息を吐き出した。


 江東区の探索を始めて、いったいどれほどの時間が経過しただろうか。

 手がかり一つ逃すものか、と血眼になって水底の街を含めて探索してみたが、いずれも何の手がかりもない。


 スキルの効果によって疲れにくい身体になったとはいえ、これだけ何の成果もない繰り返しをしていると心が疲弊してくるものだ。



「…………もう、あの世界のことが思い出せない」



 ボロアパートで目覚める度に、思い返していた過去の記憶。


 十周目を超えたあたりから記憶の全てに靄が掛かり始めて、そして今日、最後の記憶が全て消えた。

 自らの名前も、年齢も、自己客観で見ていた自らの性格さえも。

 全てが消えて、この世界で過ごした記憶と事実の結果だけが俺の中に残っている。



「このまま、クリア出来たとして……。仮に前の世界に戻れたとして……。俺は、その世界で生きていけるのか?」



 いわゆる、記憶喪失として扱われるのだろうか。


 かつて、そこに自分が居たという結果だけが残されたその場所で、俺は本当にまた生活することが出来るのだろうか。



 …………もう、あの世界の俺はいない。



 俺の中にある記憶は全てこの世界のもので、この世界で生きてきたという結果しか残されちゃいない。


 乱暴な言い方かもしれないが、この目覚めの朝で以前の俺は完全に死んだ。

 そして、種族:人間として生きる俺が、今日この日に本当の意味で生まれたのだ。



 それでも、俺は……。以前の、その世界に戻ることが出来るようこのクソゲーを攻略する必要があるのか?



「……それでも、やらなきゃいけねぇんだよ」



 自問自答を一蹴する。

 心に燻る想いが、それでもなお諦めちゃいけないと叫んでいる。



「……今回で、江東区の探索が終わる」



 残された場所は、江東区の最南端。十七周目で【地図】を見ていて気が付いた、九、十、十一周目で気が付かなかった探索漏れの場所。


 中央防波堤外側処分場。

 東京湾の中に位置する、埋め立て地。

 そこが、最後の探索場所だ。



「……行く、か」



 度重なる繰り返しのなかで、摩耗し始めた心に喝を入れて。

 俺は、その場所へと向けてボロアパートを後にした。




 空の青を映し出したような青。

 水底に沈んだかつての大都会。

 その廃棄物を一身に請け負っていたその場所は、揺蕩う水の流れが緩やかなクソゲーの東京湾において、ただ一つぽっかりと存在する浮島だった。



「ここ、は……」



 思わず、その光景に愕然とする。

 何もかもが沈んだその場所で、唯一沈まずに存在しているなんて、ここがゴールだと言っているようなものだ。


 どうして、こんな場所を見落としていたのだろうか。

 もし早めに気が付いていれば、こんなにも周回を重ねる必要なんてなかったはずなのに。



「……後悔は、後回しだ。今はとにかく、ここにあのクソ野郎が居るのかどうかを確かめないと」


 言って、俺はその浮島に上陸するべく傍へと近づく。



 俺のスマホがアナウンスを響かせたのは、その時だった。




 ≫≫特殊システム:強化周回の禁止事項への抵触を確認しました。

 ≫≫この中へ入るには、【座標転移】というスキルが必要です。

 ≫≫特殊システム:強化周回を確認しました。

 ≫≫特殊システム:強化周回が発動します。




「――なんだよ、それ。何だよ、それェエエエエエエッッ!!」


 聞こえたその言葉に、俺は発狂にも近い絶叫をする。



 【座標転移】――。そのスキルを持つその人物は、俺の知る限り二人しか存在していない。



「そのプレイヤーに、近づくことすら禁じてるじゃねぇかッ!! こんなの――。こんなの、もう。クソゲーですら何でもねぇッ!!」


 叫ぶその声に、また俺のスマホが鳴った。




 ≫≫ふふっ、ふふふっ、ふはははははははははッ!




 女性の機械音声でもなく、男の嗤い声。


 それが誰の嗤い声かだなんて、すぐに理解した。



「アイオォオオオオオオオンッ!!」




 ≫≫ふはははははははははははははは!!




 ゲラゲラと、俺の叫びを馬鹿にするかのようにスマホが嗤い続ける。


 心の中で湧き起こる憎悪が、視界を赤く燃え尽くす。



「クソォオオッ、クソがァアアアアアアアア!!」



 怒りに任せて叫ぶ俺の視界は赤から黒へと変わっていく。

 それが、意識を落としてこの周回を終える合図だとすぐに気が付いた。




 ≫≫さあ、もう一度踊れ。喜劇は、すぐに始まるぞ




 スマホからその声が聞こえたと同時に。

 俺は、この世界での十八周目を終えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒドいを通り越して何も言えない この先に希望はあるのか?!
[良い点] このゲスさがくせになる…! [気になる点] なにやら(運営視点で)追加良イベが始まる模様。
[一言] …………スキルを消すスキルってないんですかね、必死にその技術を忘れようとすれば行けそうな気がする、現状強化周回君が邪魔なんですよね
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