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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 幻想の青年と黎明の影

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四周目 二日目・深夜 エンドルフィン



 「――さあ、ナイトハンティングだ」


 呟き、俺は街を駆ける。



 ヒビと穴の空いたアスファルト舗装の道路。生い茂る草木の中、廃墟の家屋や倒壊した瓦礫の陰。


 その全てに潜む幻想を――オークを狩り殺す。

 時には自ら叫びをあげて、モンスターをおびき寄せる。


 狩って、狩って、狩って……。


 狩り続けるごとに放出される脳内麻薬が、俺をスポーツで言うところのゾーンの状態へと導いていく。

 使用していないはずなのに、【集中強化】を用いた時のように時間の感覚が長くなる。


 自分がここに居るはずなのに、ここに居ないような感覚。

 心は激しく燃えているはずなのに、頭はどこまでも冷静で。

 身体の感覚がいつも以上に研ぎ澄まされていくのを感じた。



 その目に映る月明りと、どこまでも静止した廃墟の街並みも。

 ドクドクと動く自らの鼓動の音も。

 無機質の中に紛れるモンスターの匂いも。

 肌に触れる空気の流れも。


 その、全ての感覚が拡張される。



 ――これは、おそらく。



 【集中強化】とはまた違う、もう一つの意識の極地。

 いわゆる覚醒と呼ばれる意識の状態。


 【集中強化】が意識の没入、その内側へと自らの意識を落とし自らの感覚その全てを極限にまで研ぎ澄ませるものだとすれば。

 この覚醒状態は意識を拡張、自らの外側へと向けて極限にまで意識を広げるものだ。


 没入した意識で自らの感覚を研ぎ澄ませるのか。

 覚醒した意識で自らの感覚を拡張――いや、過敏にするのか。



 似ているようで、どこか違う。



「ははっ」



 思わず、笑いが漏れる。

 無限に広がる全能感。

 どこまでも広がる感覚が楽しい。

 世界がこの手の中にあるような、そんな感覚に陥ってくる。



「はははははははははははっ!」



 笑いながら、俺はモンスターを狩る。

 狩って、狩って、狩りまくる。




 ≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在47%です。




 ふいに鳴り響いたそのアナウンスに、俺は絶え間なく行っていた狩りの手を止めた。

 いや、実際にはそのアナウンスはずっと鳴り響いていたのだが、その音に気が付かなかったのだ。



「ふー……」



 息を吐いて、スマホの時計を見る。


 ――気が付けば、スマホの示す時間は二日目を迎えたことを知らせていた。


 ステータス画面を確認すると、レベルが二つ上昇していることに今さら気が付く。

 獲得したSPを割り振るべく画面に視線を落としていると、その気配に気が付いた。



「――っ!」



 顔を上げて、目を向ける。

 遠くから迫る五匹のモンスター。

 俺はすぐにスマホを仕舞い、なるべく広い場所で戦おうと場所を移動する。

 桜が咲く廃校に目を付けて、その門を超える。

 門を越えて、腰にまで伸びた雑草が生い茂るそのグラウンドで俺はそのモンスターを待ち構える。

 モンスターは俺の居場所が分かっているようで、真っすぐに俺の元へと近づいてきた。



「ブォオオオオ」

「……ォオオ」

「オオオオオオッ」



 出現したのは、オークだ。

 数は五匹とまあまあ多いが、何のことはない。



「ブモォオオ!」



 最も手近にいたオークが俺に向けて駆け寄りながら、肉斬り包丁を上段から真っすぐに振り下ろしてくる。

 俺は、反射的に身体を捻って鼻先を掠めていく刃から目を逸らすと、刃と共に振るわれた腕へと目を向けた。



「ッ、らァ!」



 オークの腕に拳をぶつけて、その骨を砕いた。

 腕に走る激痛に、オークがたまらずその手に持っていた肉斬り包丁を落とす。



「ッ!」



 すかさず、俺はその落ちた肉斬り包丁へと飛びついた。


 オークとの戦闘を繰り返して、分かったことがある。

 それは、コイツらの武器はその持ち主のモンスターが死ぬことがなければ、俺でも使用することが出来るということ。

 持ち主が死ねば持ち主と同じように空気に溶けて消えるが、逆を言えば持ち主が生きてさえいればその武器は消えず使い続けることが出来る。



 つまりは今、この瞬間のコイツが落とし俺が拾った肉斬り包丁は、コイツが死ぬまで俺の武器となった。



「……ォオオ!」



 肉斬り包丁を取り返そうと、オークが拳を握って振り回してくる。

 だが俺は、その拳を見切り最小限の動きでそれを避けると、カウンターを放つように右足の蹴りをオークのどてっ腹に叩きこんだ。



「ォ――」



 息が詰まり、オークの身体がくの字に折れる。

 必然的に頭が下がったその首に目掛けて、俺はその手に持った肉斬り包丁を振り落とした。


 ――分厚い筋肉を断ち、骨を切断するその感覚。


 【一閃】が発動した肉斬り包丁は、その持ち主の首を豆腐のように呆気なく切り落とす。

 ボトリと首が落ちて、その身体が地面に沈んだ。



「一匹」



 呟き、空気に溶け始めるオークの死体と手元の肉斬り包丁を投げ捨てて、俺は次なる獲物へと目を向ける。

 すると、俺に向けて肉斬り包丁を振り上げたオークの姿が目に入る。


「……っ」


 息を吐いてその懐に飛び込み、腰に溜めた貫手をオークの心臓に向けて突き出す。

 【急所突き】が発動した俺の貫手は、オークの心臓を正面から貫いた。

 だが、そのオークはまだ死んでいない。

 心臓が潰れながらもなお、その手に持った肉斬り包丁を俺へと向けて振り下ろした。



「【雷走】、二秒」



 呟き、加速する。

 眼前に迫る肉斬り包丁を、身体を捻りギリギリで回避する。

 肩口の肉が削がれて血が噴き出た。

 俺はすぐに【痛覚遮断】を発動させて、【天恵】が身体を癒すまでの間の痛覚を失くす。


 俺はオークの手元へと拳をぶつけて、その肉斬り包丁を地面に落とすと、オークの身体を蹴って地面に押し倒し、地面に落ちた肉斬り包丁を素早く拾い上げた。



「フッ!」



 息を吐きながら、その包丁を離れた場所にいたオークに向けて投げる。

【空間識強化】によって強化された空間識と、二周目の時と比べると上昇したDEXが、狙い違わず肉斬り包丁をオークの首へと届ける。

 STRに裏打ちされた速度で飛んだ肉斬り包丁が、その首を半ば切り落とした。



「二匹」



 言って、心臓が潰れながらもなお生きているオークへ目を向ける。

 虫の息となったそのオークは、地面に倒れたまま動かない。

 だが、色が残りその身体をまだこの現実に存在させている。



「これで、三匹」


 言いながら、オークの頭蓋を踏みつぶす。

 ビクリと痙攣して空気に溶けたソイツから目を離して、残った二匹へと目を向ける。



「ゥ、……ォオオオオッ!」



 その内の一匹が、俺に向けて肉斬り包丁を振り回しながら突っ込んできた。

 横薙ぎに振るわれた刃をしゃがんで避けて、地面を蹴って間合いの内側に近づく。



「っはぁ!」


 掛け声と共に掌底を顎先へとぶちかます。

 その勢いで微かに身体が浮いたオークへと向けて回し蹴りをして吹き飛ばし、俺はゆっくりと息を吐く。



「【雷走】、三秒」



 呟き、無傷で残されたオークへと向けて駆ける。

 十メートルの距離を瞬きの間にゼロにして、そのオークの眼前に迫った俺は握りしめた拳でオークの身体を打ち抜いた。



「――――ォ」



 声を上げる間すらなく、衝撃がオークの身体を揺らしてオークの意識が飛んだのが分かった。

 俺は崩れ落ちるオークの身体から肉斬り包丁を奪うと、直前に蹴り飛ばしたオークへと目を向ける。



「ブォオオオオッ」



 蹴り飛ばしたオークが体勢を整えて、俺へと向けて駆けてくる。

 俺は肉斬り包丁を構えて、迎撃の体勢をとった。



「ォォオオオッ!」


 オークが叫び、肉斬り包丁を振るう。



「はっ!」


 息を吐いて、俺はその包丁へと向けて自らの包丁をぶつけた。



 ――ガキィンッ。


 という甲高い音が、雑草が覆い尽くす朽ち果てたグラウンドに響き、闇夜を照らすように刹那の火花が舞った。



 俺はすかさず手元を返して、オークの肉斬り包丁を打ち払った。

 包丁を力強く握り締めていたオークはその場でたたらを踏んで、体勢が崩れる。

 その隙を、俺は見逃さない。



「――――」



 言葉なく包丁を振り上げて、オークの腕を斬りおとす。

 噴き上げる血を避けて、痛みに悶えるオークの背後に回った俺は、その手に持つ包丁で首を断ち切った。



「これで、四」



 包丁に付いた血脂を振るって払い、未だ意識の戻らないオークへと目を向ける。

 雑草を踏みしめてオークの傍に立ち、俺はオーク頭を押さえてその喉元に包丁をピタリと添えた。


「最後」


 呟き、包丁を持つ手に力を込める。


 吹き上がる血と共に首がゴロリと落ちて、俺は顔に飛んだ血を拭いながら立ち上がった。




 ≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在50%です。




 アナウンスが鳴った。


 けれどその後のアナウンスは流れない。

 どうやら、同化率50%はまだ俺の操作権らしい。



 俺はゆっくりと息を吐いて、気配を探る。


 次のモンスターを相手にすれば、『人間』に俺の身体の操作権を渡すことになる。

 クエストまで残すところ数時間だ。

 今のうちに『人間』へとコントローラーを渡して、同化率を下げておくことにしよう。



「次に意識が戻れば、武器を手に取ってクエストの元へと向かうか」



 モンスターが手に持つ武器は、そのモンスターが生きてさえいれば消えない。

 この大きな情報は、四周目で得た確実な成果と言っても良い。



「包丁を奪った後、オークをどうしておくかな」


 死なないよう、どこかに隠しておくか。

 蔦か何かで縛っておくか。



 そんなことを考えながら、俺は【気配感知】で引っかかった新たな獲物の元へと足を向けたのだった。


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