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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 幻想の青年と黎明の影

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四周目 一日目・夜 誰が為のルナティックモード



「あっち、だな」



 【直観】で行先を決める。

 精度にムラがあるが、【直観】の効果は第六感の強化だ。スキルの効果説明では優れた第六感は未来予知にも等しいと表示されている。

 未来予知となるには俺の第六感を鍛え続けるしかないのだろうが、現状でもわりと【直観】は仕事をしてくれている。


 俺は素直に自分の勘を信じて、都道59号線を北上することにした。


 【気配感知】を常時発動させて、強大な気配がないか周囲を探りながら滅びた街を駆ける。



 夜の帳が下りた街は、どこまでも静かだ。

 人が消えた街を走れば、俺の足音がどこまでも広く、遠く響くような錯覚に襲われる。

 『無音動作』という一周目で身に付けたステータスによるスキル紛いのその動きも、この時ばかりは行わなかった。


 それをすれば足音は消える。

 だが、全力で駆けることは出来ない。

 紛い物は所詮、紛い物だ。

 効率を重視するのであれば、それさえも邪魔になる。



「――――――」



 どこまでも無駄を省いて。

 ただ全力でこのクソゲーを終わらせるために。

 一歩、一歩を力強く踏み出す度に、心が研ぎ澄まされていく。



「――――――――――」



 走りながら、俺は叫び声を上げた。

 心の底から言葉に出来ない、溢れ出る感情を留めておくことが出来なかった。



「――――――――――」



 何度も、何度も叫び声を上げて俺は夜の街を駆ける。

 本来ならば褒められる行為ではないのは重々分かっている。

 モンスターが俺の叫びに気が付き、寄ってくるだろう。


 けれど、それが何だ。

 寄ってくるのならば、全て殺せばいい。

 全てを殺して、俺のレベルに変えればいい。



 ――この叫びはきっと。



 この世界を――幻想を否定するために生まれた化け物の産声だ。

 周回を繰り返すごとに大きくなる執念が生んだ怪物の咆哮だ。



 この世界と、この世界を作り出したアイオーンという存在への憎悪が、激しく燃えて身体の内側で荒れ狂う。



 アイオーンはきっと。

 俺を絶望の底に叩き落として、心を屈するためにルナティックモードというシステムを追加したのだろう。


 だが、そのシステムの存在が……。

 クソゲーを無理ゲーに作り変えるその存在が。

 俺の心に燻る炎を大きくしていく。



 絶望には屈しない。

 俺は、その絶望すらも否定する。

 この世界に存在する全てを否定する!


 踏み出す足はどこまでも強く、一瞬たりとも止まらない。



「ぐげげ」

「ごぎゃぎゃ」



 俺の叫びに反応したのか、眼前の倒壊した家屋からゴブリンが顔を出した。

 俺はソイツらの顔を一薙ぎで蹴り飛ばして、さらに足を力強く踏み出す。



「雑魚に用はねぇんだよ」


 俺が求めるのはどこまでも強大で、経験値を蓄えているモンスターだ。

 限られた時間で、俺はアイツを――天狗の存在を否定するほどの力を身に付けねばならない。




 やがて、俺は立川市から武蔵村山市へと足を踏み入れたことを、傾き植物の蔓と錆に塗れた道路標識が教えてくれた。

 すると、【気配感知】の中にコボルドやゴブリンの気配の中に、俺の見知らぬ気配が混じり出す。



「――っ」



 足を止めてその気配の方向を探り、足を向ける。

 ヒビと草木に覆われた道路を進み、そこで俺はようやく見つけた。


 豚を思わせる顔と、イノシシのような牙。

 人間を思わせる体躯だが、肌は暗褐色ででっぷりとした腹が腰蓑の上に乗っている。上半身は裸で、肩口にはイノシシの毛のようなものが生えていた。


 特徴からして、あのモンスターはオークで間違いないだろう。


 俺は遠目からオークの姿を観察して、手を握り開く。



「……体長は二メートルぐらい、か? 手に持ってるのは包丁……にしてはデカいな。肉斬り包丁ってやつか?」



 アイツを倒せば、あの武器を手に入れることが出来るだろうか。

 あの武器がコボルドナイトのように、アイツ自身の一部であればアイツを殺したその瞬間に武器は消える。

 そればかりは、オークを倒してみないことには分からない。



「すー……、ふー……」


 大きく、深呼吸をする。

 身体を落として、身を屈める。


 ファンタジーで言えば、コボルドやゴブリンに比べればオークは格上のモンスターとして扱われることが多い。

 このクソゲーに置いてそれが同じかどうかは分からないが、格上ならばルナティックモードが適用されるモンスターだろう。


 であれば、余計なことはしない。

 全力を出して、このモンスターを仕留める。



「ふー…………」



 ゆっくりと息を吐いて、止めた。

 オークと俺の距離は400メートルほど。

 オークはまだ俺に気付いていない。


 新しいスキルを使用するチャンスだ。


 アイツが体勢を整える前に頭を攻撃することさえ出来れば、【急所突き】によって一撃で倒すことが出来るかもしれない。



「【雷走】、二秒」



 呟くと同時に俺は駆け出した。

 瞬きの間にオークとの距離をゼロにして、オークへと肉薄した俺はその頭を狙って拳を握り締めた。



「――ッ!?」



 オークの目が、突然眼前へと現れた俺の姿を捉えて驚愕で見開かれた。

 すぐにその手に持つ肉斬り包丁を振るおうと、腕が動くがそれよりも早く、俺の拳がオークのこめかみを穿った。


 ――ガッという鈍い音。


 拳はオークの脳漿を揺らして、その目が一瞬ぐるりと反転する。

 だが、オークの頭は潰れていない。

 その硬さとHPの高さから、俺はすぐにオークがルナティックモードが適用されているモンスターであることに気が付く。



「ッ!」


 一撃で倒せなかったことに目を見開く。

 俺はすぐに拳を引いて、その手を開いた。



「オオオ……」



 オークが唸り、その手に持つ肉斬り包丁を俺の首に目掛けて振るう。

 俺はその軌跡を【直観】によって予知して、身体を逸らしてすぐさま回避した。

 オークの太い腕が目の前を横切った瞬間に、拳を開いておいた手をかち上げる。

 掌底はオークの腕に当たって、腕を振るった勢いと共に上に跳ね上がった腕によってオークの右わき腹がガラ空きとなった。



「ふぅッ!」



 息を吐いて、その脇に向けて蹴りを叩きこむ。

 肋骨を数本折った感触と共に、俺は素早く後退してオークを睨み付けた。



「……【急所突き】が発動しないのは、どうしてだ?」



 頭は間違いなく急所だろう。

 そこに拳を叩きこめば、スキルの効果で頭を潰せたと思ったが、どういうわけか肝心のスキルが発動しない。


「何か、条件が違ったか?」


 言って、もう一度【急所突き】の効果を思い浮かべる。



「相手の、急所を突く……」


 呟き、ハッとする。



「――まさか」



 俺は、鋭くオークを見据えながらゆっくりと息を吐いた。



 ゆっくりと開いた指を合わせて、親指だけを折る。


 いわゆる、手刀の形。


 右の手は手刀にして、左は開いて腰だめに掌底を構える。

 腰を落とし、俺は叫ぶ。



「【雷走】、一秒!」



 そして、俺はそのオークの懐に飛び込む。

 素早く左の掌底でオークの顎を狙ってかち上げて、その無防備な太い首を夜闇の中に曝け出した。



「――――っ!!」



 手刀の形となった右腕を、真っすぐにその首元へと向けて突き刺す。

 それは、武道で言うところの貫手。

 拳や掌ではなく、指の先で突く打撃技。

 拳よりも遥かに狭い面積で放つ、指の先による一点の圧は強大なダメージを発揮する。


 俺の四本貫手は、STRに後押しされてその柔らかな喉元に突き刺さった。

 同時に発動した【急所突き】がその威力を押し上げて、オークの皮膚を破り俺の腕を喉から延髄にかけて貫通させる。



「ぉ……オ……」



 喉から血を吹き流し、風穴の空いたオークが断末魔のような声を漏らした。

 だが、それ以上の言葉は吐かれることがなく、オーク身体がゆっくりと色を失っていく。


 俺は腕を引き抜き、血に塗れたその腕を振るって血を払った。



「……なるほど。急所〝突き〟ってことか」



 急所を叩くのではなく、突き穿つ。

 突き技専用の威力向上スキルというわけだ。

 俺は空気に溶けたオークから視線を外して、周囲の地面を見やる。



「……包丁も、消えたか」



 やはり、あの武器はオークの一部というわけだ。

 その事実に俺は嘆息しながらも、【気配感知】を発動させて次なる獲物を探す。


 オークならば、ホブゴブリンや角鹿、サルとも変わらない経験値が期待できるだろう。

 この街に潜むオークを殲滅すれば、目標のレベルまでは上がっているに違いない。


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