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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 幻想の青年と黎明の影

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一日目・昼 コボルドキング



「「…………ッ!」」



 俺たちは、呼吸を合わせたように同時に動き出す。

 コボルドキングが腕を振り上げ、対する俺も大きく腕を引いた。

 コボルドキングの体格は大きい。

 であるならば当然、そのリーチも長いはずだ。

 【視覚強化】と【空間識強化】を駆使して、俺はその間合いを完全に把握する。



「ォオオオオオオオッ!!」

「ガァァァアアアアッ!!」



 俺とコボルドキング、気合の咆哮が重なった。

 俺たちは同じタイミング、同じ動作で拳を打ち放つ。


 ――大きさの違う拳同士がぶつかり、空気が震えた。


 足元の草木が衝撃で震えて、粉塵が舞う。



「ガァウッ」



 コボルドキングが吼えて、ぶつかった拳を即座に戻した。

 かと思えば、すぐに反対の拳を俺に向けて振り下ろしてくる。



「っ!」



 俺はその拳を見切り、半身を捻るようにして避けると、カウンターを放つようにその腕を蹴りつけた。

 ドッという衝撃がコボルドキングの腕を弾き、体勢を崩す。


「チッ!」


 思わず、舌打ちを漏らした。

 感触が浅い。

 確実に腕を潰すつもりで放ったその蹴りは、コボルドキングの骨を砕くことすらできなかった。



「グルルルルウウウウウウ」



 喉を鳴らし、威嚇の声を漏らしながらコボルドキングが体勢を整えた。

 それからコボルドキングはふいに両腕を後ろに引くと、そのビア樽状の胸郭を大きく膨らませる。



「――――ッ!?」



 【気配感知】と【直観】が、すぐに反応した。



「くっそ!」



 地面を蹴って横っ飛びにその場から離脱する。

 その直後。

 砲撃とも呼ぶべき咆哮が、コボルドキングの口から放たれた。



「アォオオオオオオオオオオオオォォォンッッッ!!」



 圧縮された空気の塊が、地面を抉る。

 その塊は地面に電車道を引きながら、俺の真横を駆け抜けて背後のビルを打ち壊した。



「……っぶねぇな」


 思わず、笑う。


 直撃すればかすり傷では済まされない。

 かつて、デスグリズリーが使用した【風爪】にも劣らない威力だ。



「――だけどッ!」



 言って、俺は両足に力を溜める。

 あの戦闘を得て、レベルもステータスも上昇した。

 新たなスキル()だって身に付けている。


 今の俺ならば、その攻撃にも対応できる自信がある。



「【雷走】、十秒!」



 呟き、俺はその言葉と共に溜めた力を解放した。

 ドンッと力強く踏み込んだ地面を凹ませて、俺は一直線にコボルドキングの元へと駆けつける。



「――ふっ!」



 瞬く間に距離を詰めた俺は、その巨体に乗っかる首を落とすべく地面を蹴って跳んだ。

 包丁を持つ右腕を大きく振りかざし、その首へと目掛けて腕を振り下ろす――。




 ――その寸前。




 コボルドキングが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「ッ!?」



 背筋を伝う悪寒。

 【直観】が告げる、回避行動の叫び。

 だが、空中へと跳んで攻撃のモーションへと移っていた俺には、回避行動を取る余裕がどこにも無かった。



「――ガァァゥウッ!!」



 また、コボルドキングが息を吐いた。

 その照準は俺へと向けられていて、圧縮された空気の塊が俺へとぶつかる。



「ぐぅッ!」



 直撃し、その衝撃で脳が揺れた。

 刃を振るっていた腕はあらぬ方向へと振られて、コボルドキングへと傷一つ負わせることが出来ない。



 ――マズい。早く、逃げないとッ!!



 追撃を恐れて、必死で身体を捻る。

 だが、重力に引かれる俺は地面に落ちるまで何もすることが出来ない。


 ヒュッという風切り音と共に、俺の頭上に影が落ちた。

 それが、コボルドキングが振り下ろす拳の影だとすぐに分かった。



「ッ、くっそ!」



 唇を噛みしめて、必死でその攻撃を受け止める態勢を作る。


 次の瞬間。

 まるで、空中に居座る俺を叩き潰すように。

 その巨体から繰り出される拳が、俺を地面へと叩きつけた。



「っ、は……!!」



 背中から地面へと叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出されて呼吸が止まる。

 叩きつけられた衝撃でひび割れたアスファルトが砕けて、大きなクレーターのような凹みが生まれた。


 以前の俺であれば、致命的な一撃。



 ――だが、今の俺はそれだけでは戦闘不能には至らない。



 それが、コボルドキングにも分かっていたのだろう。

 ダンッと地面を蹴って跳びあがると、コボルドキングは右足を大きく振りかざした。



「っ!」



 ぞわり、とした気配が膨らむ。


 ――この一撃は、さすがにマズいッ!


 俺は衝撃で痺れる身体を横に転がし、その場から必死に逃げる。

 直後、戦斧の如く振りかぶったその右足が、寸前にまで俺の身体があったその場所へと深く突き刺さった。



「――ガァウ!?」



 よもや避けられるとは思っていなかったのだろう。

 コボルドキングの顔に、驚愕の表情が浮かんだ。

 俺はハンドスプリングの要領で身体を起こすと、そのままバックステップを繰り返してコボルドキングから距離を取る。



「……死ぬかと思った」



 思わず、呟く。

 ボタボタと頭から血が垂れて、地面を赤く染める。

 素早くスマホを取り出して画面を確認すると、HPが半分を切っていた。

 ちょうど、発動し続ける【天恵】が俺の身体を癒して、HPの数値を1つ増やす。


 俺はスマホをポケットへと戻して、目に入る血を拭う。


「ふー……」


 ジッと、分析をする。

 攻撃を食らいはしたが、攻防した感覚で言えばステータスは負けていない。

 アイツが俺に致命傷を与えることが出来るように、俺もアイツへとまともな攻撃を与えることが出来れば、そのHPを大きく削ることが出来るだろう。



 一撃、もしくは二撃……。



 それが、俺がアイツへと与えなければいけない有効打だ。



「問題は、どう近づくのかだよな」



 言いながら、コボルドキングを見つめた。

 振り下ろした右足を避けられたコボルドキングは、ゆっくりと体勢を整えて俺の行動を観察している。

 コボルドキングからすれば、今の攻防で決着をつけるつもりだったのだろう。

 それが破られたがゆえに、新たな作戦を立てているようにも見える。



「…………」



 圧倒的なリーチと、咆哮による遠距離から繰り出される攻撃。

 俺の攻撃が届くよりも先に、相手の攻撃が俺へと届く。


 加えて、コボルドキングの動きが速いのも厄介なところだった。

 攻撃の回転数が異様に速い。

 一撃を繰り出してきたかと思えば、すぐに次の攻撃モーションへと移行している。

 下手な行動をすれば、先程のように攻撃を食らってしまうだろう。



「アイツの動きが一瞬でも遅くなれば」


 思わず、そう呟く。



 それさえ出来れば、俺が懐に飛び込める。

 懐に飛び込みさえすれば、この戦いもすぐに終わるだろう。



「……三秒後に、【遅延】だ」


 自然と、その言葉が口から漏れ出ていた。

 だが、すぐにその言葉にハッとする。


「……【遅延】? なんだ、それは」


 そんなスキル、知らない。

 俺は、取得していない。



 ――どうして、そんな言葉が今、この戦闘の場で漏れ出たのだろうか。



「ッ」



 ズキリ、と心が痛む。

 俺は唇をギュッと噛みしめて、包丁を持つ手に力を込めた。

 息を吐いて、戦闘から逸れそうになる気持ちを切り替える。



 今は、余計なことは考えるな。

 目の前の敵に集中しろ。

 片手間で倒せる相手じゃないはずだ。



(【集中強化】を使うか? だが、それを使うとモンスターへの意識が極度に向く。同化率がより上昇しやすくなる。反動もあることだし、ストーリークエストのボス以外じゃあまり使いたくないな)



 武器は貧弱。

 おそらく、全力で使えば全て砕け散る。



「……それでも、やるしかねぇんだよ」


 決意を込めて俺はそう言い放つ。

 包丁をベルトの間に差し込んで、代わりに鉄の棒を二本引き抜いた。

 それぞれを片手に持ち、中段と上段にそれぞれ鉄の棒を構える。



「――いくぞ。【雷走】!」



 そして俺は、そのスキルを再度発動し一気に駆けた。

 コボルドキングが目を細めて拳を構える。

 そして、照準を引き絞ったかのように、コボルドキングはその拳を打ち出してきた。



「ガァァアッ!!」


 叫びと共に打ち出されたソレは、空気を切り裂き瞬く間に俺の眼前へと迫る。


「ふっ」


 と短く息を吐きながら、俺はその拳に向けて右手の鉄の棒を横から打ち払った。



 ――ガッ、という音と共に鉄の棒がへし折れる。



 だが、鉄の棒はコボルドキングの拳を逸らすことに成功した。

 俺の真横に着弾した拳がアスファルトを割って、破片を散らす。


 コボルドキングは拳が弾かれたことが分かるとすぐに、左足を振りかぶって蹴りつけてくる。

 けれど、俺はそれを寸前のところで横っ飛びをして避けた。



「グルゥゥウウ、ガァッ!!」



 コボルドキングが吼えて、空を切った左足の勢いをそのままに無理やり踏みしめた。

 筋肉の筋を浮かび上がらせながらも、コボルドキングが左足を軸にしてぐるりと腰を回して右足で薙ぎ払ってくる。



 ――息を吐かせぬ連続攻撃。



 その連撃に、俺は微かに目を見開くとすぐに意を決した。



「ォオオオオオオオッ!!」



 叫び、俺は残った鉄の棒を両手で持って、迫るコボルドキングの右足へと一気に振り抜く。


 ――ヒュッという風切る音。


 そしてすぐに周囲へと響く、バキッという鈍い音。



 振り抜いた鉄の棒はコボルドキングの右足へと突き刺さり、その骨をヒビ割った。

 同時に、手元から鉄の棒がへし折れて宙を舞う。


 この戦闘で初めて与えた、まともなダメージだ。



 ――しかし、鉄の棒がぶつかり骨を割られながらも、コボルドキングが振り払った右足は勢いを落としながらも俺の身体を捉える。



「ぐっ!」


 衝突した右足に打ち払われて、俺は地面を無様に転がった。


「っ、てぇ……な!」


 呟き、口の中が切れて溢れる血を吐き出しながらすぐに立ち上がる。



 俺は、腰に括りつけていた最後の鉄の棒を引き抜いた。


「――――」


 片手で上段に構えて、上体を逸らす。

 自らの身体を弓の弦とするかのように。

 限界にまで身体を引き絞って、俺は攻撃と痛みで隙が生じたコボルドキングを見据えた。



 ――フッ、と。


 短く息を吐き出しながら全力で投げつけた鉄の棒が、風を切り裂きコボルドキングへと向けて飛ぶ。



「っ!? ガァ、ァアアアッ!!」


 コボルドキングは飛んでくる鉄の棒に気が付き、すぐさま横に転がるようにして鉄の棒を避ける。

 だが、骨が割れた右足がその動きを遅くする。

 鉄の棒は、逃げ遅れたコボルドキングの右ふくらはぎへと深々と突き刺さった。



「グルルゥウウウアアアアアアアアッッッ!!」



 コボルドキングの絶叫が響く。

 その声に、俺はすぐさまベルトの間に挟んであった包丁を引き抜くと、コボルドキングの元へとダッシュした。


 コボルドキングが俺に気が付き、すぐに迎撃の体勢を取ろうとする。


 だが、それよりも速く。


 俺は、コボルドキングの懐へとようやく潜り込んだ。



「……ッ!!」



 言葉なく、気合を込めて包丁を振るう。

 振るわれた包丁は【一閃】の効果を得て、空気を切り裂きながらコボルドキングの左大腿を深く斬り裂いた。



「ッ!?」


 同時に、包丁が砕ける。

 俺のステータスと【一閃】の効果に、その刃が耐えきれなかったのだ。



 ――残された武器は、跳弾用の小石のみ。



 全ての武器を失った今、有効打を与えることが出来るのは己の身体しかない。



「ふぅううううう…………」



 息を吐き出し、拳を握る。

 深く斬り裂いた左大腿を見据えて、腰を深く落として握りしめた拳を腰だめに構えた。



「フッ!!」



 そして、一気に解き放つ。

 正拳突きは真っすぐにコボルドキングの左大腿を撃ち抜いて、確かな骨を砕く感触を伝えてきた。



「グ、ガァァアアアアアッ!?」



 立つことすらもままならず、コボルドキングが左膝を付く。

 すかさず俺は、コボルドキングの右ふくらはぎに突き刺さったままの鉄の棒を引き抜き、右足を踏みしめるとぐるりと腰を回した。



「ぉおおおッ!!」



 今度は、コボルドキングの右足を刈り取るように。

 全力の回し蹴りを、コボルドキングの脛へと向けて打ち込んだ。



 ――ゴッバキッ。


 と、骨が砕ける音が周囲に響いた。



「ゥウウウウウウウウウウッッ」


 コボルドキングが吼えて、倒れ込む。

 怒りに燃える目を俺へと向けて、コボルドキングが顔だけを向けて口を開いた。


「ガ、ァァアアアアアォオオンッ!!」


 至近距離で吐き出された空気の塊が俺を襲う。



 ――だが、【直観】が発動した俺は、その攻撃が行われる寸前にはすでに回避行動へと移っていた。



 捻るように躱した身体の横を、圧縮された空気が駆け抜ける。

 飛び散る破片に目を細めて、俺は右手に持つ鉄の棒を力強く握りしめた。



「そのっ、厄介な攻撃も! これで、終わりだッ!!」


 言って、俺は地面を蹴って跳びあがる。

 上昇した勢いを落下に変えて。

 重力の力を上乗せした鉄の棒を、その倒れ込み露わになった延髄へと向けてSTR任せに一息で突き刺した。



「ガッ――、ぐ――」



 延髄を貫通して、鉄の棒が喉元へと到達する。

 延髄から串刺しにすることは出来なかったものの、喉元に到達した鉄の棒が、コボルドキングの発声を防いだ。



「――グル、ガァ」

「いい加減、死んどけ」



 言い放ち、俺はその後頭部に目掛けて足を振り上げる。

 この戦闘中に、コイツが俺へと放ったように。


 振り上げた右足を、戦斧の如く全力でその頭蓋へと叩きつけた。



 骨を砕き、脳漿を潰す感触。



 ビクリ、とコボルドキングの身体が震える。

 それが致命的な一撃であることはすぐに分かった。




 ゆっくりとコボルドキングの身体が色を失い、崩れ始めるのを確認して、俺は細く長い息を吐きだした。



「はぁー……」


 思わず、その場に仰向けで倒れ込む。


 拍動する心臓が、勝利の余韻を伝えてくれる。

 いつしか、頭から流れていた血が止まっている。

 スマホを確認すると、半分を切っていたHPが六割ほどとなっていた。



【天恵】による癒しが、時間を掛けて俺の身体を万全の状態へとしてくれる。

 あと六分弱もすれば、俺の身体は――そのHPは全回復している。



「……チートだな」


 と俺は思わず言った。



 その言葉に応える人は誰もいない。



 俺は、仰向けに倒れたまま空を見上げ続けた。

 初めてゴブリンを倒したあの日と同じ、透き通る青空とどこまでも広がるおぼろ雲。


 どこまでも、どこまでも何一つ変わらない二周目の空。

 それは、何もかもが変わらない、あの日の記憶と同じ空だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪意しかない、このシステムは...... これでソロ以外選択はありませんよね。 他のプレイヤーに手伝ってボスを攻略したら大惨事になります。
[一言] クソゲーですがなんとか勝てましたね 周回強化モンスターがこれからも出るとなると厳しいですね……
[一言] なんていうかこう…反射で遅延って言ったのに結局自力で倒せてしまったことが「彼女達なんて要らない」って言われてるようで辛いですね…
感想一覧
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