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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 幻想の青年と黎明の影

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一日目・朝 希望と絶望を知らせる音

 


「……そろそろ、だな」



 しばらくして。

 崩壊した街をあらかた探索し、数本の錆び付いた鉄の棒を手に入れた俺は、スマホで時間を確認してから〝ユウマ〟が来るであろう場所へと向かった。


 あの時よりもステータスが上昇し、スキルを手に入れた影響からか探索も早かった。


 【気配感知】でモンスターとの遭遇を避けて、上昇したステータスで崩壊寸前の廃墟に忍び込み、【直観】で武器がありそうな場所を手あたり次第に探す。

 勘が外れることもあったが、それでも遥かに効率の良い探索が出来た。

 探索の成果だけで見ればしょっぱいが、それでも一周目に比べれば断然マシだ。



 俺は、手に入れた鉄の棒の一本を片手に持ち、残りの棒をズボンのベルトの間に挟み、引きちぎった蔦で軽く固定する。

 そこで、はたと気が付く。



(……そう言えば、この服もスーツのズボンも、借りてたものだっけ)



 ――だが、誰に借りたものなのかが思い出せない。


 まるで、ずっと昔に仕舞い込んだ記憶を引っ張り出したかのような曖昧さ。

 以前に借りたことは覚えているが、記憶の中のその人物の顔はぼやけて、声も名前も思い出すことが出来ない。


 唯一、この服を借りていたという事実だけが俺の中に残っている。


 至る所が擦り切れ、斬り刻まれ、血に塗れたシャツはもはや返せる状態ではないが、結果的に借り泥棒のようになってしまった。



 誰に借りたものなのか思い出すことが出来れば、この世界で何かしらの形で謝罪しよう。



 そんなことを考えていると、見覚えのある場所に辿り着いた。



 家屋が倒壊して潰れたそこは、これから〝ユウマ〟が来るであろう場所。

 俺が、この世界で初めてモンスターを殺す場所だ。

 周囲を見渡して、姿を隠せる場所を探す。


 近すぎれば〝ユウマ〟に姿を見られる可能性があるし、かといって遠くから【視覚強化】を使い監視しようにも、アナウンスによって知らされる【曙光】スキル獲得の有無が分からない。


 出来るだけ近くて、〝ユウマ〟が絶対に目を向けない場所がベストだ。



「……と、なると。あそこか」



 そう言って俺は、はす向かいにある倒壊した住宅の瓦礫へと目を向けた。

 その瓦礫は、草木と苔に覆われ、至る所に蔦が絡まり緑の山のようになっている。

 記憶を遡っても、この時の俺はゴブリンを倒すことに意識が向いていて周囲のことなんて気にかけてなかったはずだ。

 瓦礫の陰に息を潜めていれば、気付かれることもないだろう。


 出来るだけ俺がそこに居ることを知らせないよう、ほうぼうに伸びる草木を折らないように瓦礫へと近づき、〝ユウマ〟からは見えない位置に腰を下ろした。



 しばらくの間、ジッと息を潜めていると【気配感知】によって見える光球が近づいてきたのが分かった。



「お邪魔します」


 と呟く声に続いて、


「よいっ、しょっと」


 と、作業を始める声が聞こえた。



 間違いない、〝ユウマ〟だ。



 俺は、ジッと聞こえてくる音に神経を尖らせる。

 だが、さすがに距離があるのか聞こえる音もやや小さい。

 あの〝ユウマ〟の声さえもギリギリ聞こえるか聞こえないかなのだ。

 これでは、アナウンスを聞き逃すかもしれない。



 ……マズいな。どうしようか。



 そう考えて、一つの妙案が浮かんだ。



「――【集中強化】」



 呟き、俺はそのスキルを発動させる。

 瞬時に集中の極致へと達し、時間の流れが遅く感じるようになる。


 俺は、その世界の中で瞼を閉じて、視覚からの情報を遮断した。

 そして、細く息を吐き出して全ての神経を聴覚に集中させる。



 ――ゆっくりと、だが確実に。



 耳に届く音がだんだんとはっきりとしてくる。



 〝ユウマ〟の呟く声、作業の音、一歩を踏み出す足音に、緊張で荒くなる息遣いに至るその全て。

 まるで、俺の目の前で作業をしているかのように、はっきりとした音が俺の耳に届く。



(……うん。これなら、絶対に聞き逃すことはないな)



 俺は、この結果に満足して小さな笑みを浮かべる。

 【集中強化】を持続させながら、耳を澄ましてその時を待つ。

 ……やがて。全ての作業を終えた〝ユウマ〟が合図の大声を出した。



「こっちだぞ化け物!!」



 その声に、すぐさま傍にあった気配が反応する。

 ガラガラと瓦礫を崩す音を立てながら、ソイツはその声の元へとバタバタと走り寄ってきた。


「げひっ」


 かつて、何度も聞いたその声。

 ゴブリンが、〝ユウマ〟の声に釣られてやってきた。


 ゴブリンが〝ユウマ〟の作った罠に反応して、近寄るのが分かる。

 それを見守る〝ユウマ〟の息が緊張で荒くなり、彼の鼓動が速くなるのを耳で感じ取った。


 その緊張に当てられたかのように、俺も固唾を飲んでジッと息を凝らす。



 これからの結果で、俺の今後が決まる。



 〝ユウマ〟が【曙光】を獲得するA世界か、獲得しなかったIFのB世界か。

 〝ユウマ〟以外の『人間』が三日で全滅する世界なのか、はたまた別の世界なのか。



 仮説と、考察と、矛盾。



 その全てが、この戦闘の行方にかかっている。



 〝ユウマ〟が呼吸を落ち着かせるように深呼吸をするのが聞こえる。


 ――そして。


 彼の雄たけびによって、その戦闘は始まった。



「おおおおおおッ!」



 その声と共に〝ユウマ〟が駆けて、ゴブリンへとぶつかったのが聞こえた。



 ――ぶちゅり、と。



 何かが何かを貫く音が耳に届く。

 それから、〝ユウマ〟の雄たけびとゴブリンの声が何度か聞こえ、バタバタと暴れるような音が断続的に廃墟の街に響いた。


 その声と音に、俺は思わず【気配感知】を発動させる。

 ……だが、周囲のモンスターがこちらに近づく様子はない。

 どうやら、そのモンスターの位置まではこの戦闘音が届いていないようだ。



 しばらくすると、その音も消えて。

 戦闘を終えた〝ユウマ〟の激しい呼吸だけが、その場に取り残されていた。



 勝利の余韻と生の実感。



 その二つに、〝ユウマ〟が安堵の声を漏らした。

 カラン、と何かが地面に転がる音が聞こえる。

 それが何か、なんて考えるまでもない。

 あの、最初に殺したゴブリンが手に持っていた包丁だろう。



(……ということは今、この瞬間。モンスターは完全に消えて、〝ユウマ〟がこの世界に来て初めてのモンスター討伐を果たした)



 ――ドクン、と。


 俺の心臓が大きく動く。



 ……ここからだ。

 問題は、ここからなのだ。




 ≫≫チュートリアルクエストが完了しました。




 あのアナウンスが耳に届く。




 ≫≫チュートリアルクエストの報酬を支払います。

 ≫≫サバイバルセットを獲得しました。




 〝ユウマ〟のスマホから、そのアナウンスが鳴り響く。



 もう一度、大きく心臓が動いた。



 そして、その言葉は紡がれる。




 ≫≫種族:人間の中で初めてモンスターの討伐を確認しました。種族内における初討伐ボーナスが与えられます。

 ≫≫スキル:曙光を獲得しました。




「……………」



 言葉を失い、すぐに気を取り戻してゆっくりと息を吐いた。



 それは、そのスキルは。

 かつての俺が、この世界(クソゲー)で生きる上で、希望とも言えるほど重要視していたスキルだ。


 ――そして、そのスキルが今。


 俺という二周目のユウマの未来を示す、絶望にほど近いスキルとなってしまった。



「……移動、するか」



 まだ未来は確定していない。


 四日目で死ぬことが確定したわけじゃない。


 そう、自らの仮説を自分自身で否定をしながら。



 俺は、〝ユウマ〟に気付かれることなくこの街を出るべく移動を始める。

 ここが一周目の世界ならば。

 かつての俺が進むべき道も分かっている。

 アイツは今から、東に向けて移動を始めるだろう。


 だったら、二周目の俺は東に向かうべきじゃない。


 一周目が二周目に出会っていない以上、俺とアイツが出会うことは許されない。

 もし出会えば、俺の存在そのものが揺らいでしまう。


 俺が行くべき道は、西か、北か、南か……。



「……まずは、北だな」



 俺は、行先を決める。

 理由はなかった。

 ただ、俺の()()がそう決めた。


「残り三日、か」


 と俺は呟く。


 そこが、二周目のターニングポイント。

 この世界が一周目の結果に収束するのか、しないのか。

 そればかりは、今の俺にも分からない。


 まずは三日。

 その三日を、全力で生き延びてクソゲーの攻略を進める。



「それじゃあ、始めよう。二周目のスタートだ」


 俺は、そう呟いてこの街の北へと足を向けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一週目と違う方角、初日時点で高いレベル、ああ……
[気になる点] 今までのユウマは毎回ミコトとクロエにあってアイオーンのところに向かっていたらしいから実は東以外に向かうのは初めてだったりするのかな?
[気になる点] だ、段々2週目の状況で混乱してきた・・・。 とりあえず作中1周目に時間遡行したわけではないと。 [一言] ・毎回ユウマの辿る軌跡は違う(≠単純な時間遡行ではない) ・ここはアイオーンの…
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