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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第二部】 幻想の青年と黎明の影

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一日目・朝 仮説と考察

第二部スタートです。

 


 植物に支配された世界に、大きな崩壊の音が響き渡る。

 その音から少しして、男の悲鳴が静かな街に轟いた。


 それが、誰の声かなんて考えるまでもない。


 この世界でのクソゲーを始めた、俺自身のものだ。



 遠ざかっていく悲鳴と気配を感じながら、俺はその現場から離れた廃墟で、じっと息を潜めていた。



「……始まった、か」



 ずるずると壁に預けた背中を下にずらしながら、俺はゆっくりとその場に座り込む。

 ぼんやりと、ゆっくりと記憶を辿る。


 久瀬――いや、自らをアイオーンと名乗ったあの男との取引によって、俺はこの世界での二周目を始めた。


 引き継いだものは、レベルとスキル、ステータス。……そして、身に付けた衣服のみ。

 武器も、バックパックも、それ以外の全てを失くした、強くてニューゲーム。

 必要最低限のものだけを持ち込んだ、二周目のクソゲー攻略だ。



 ――どうして、俺がこんなことをしているのか。



 いくら考えても、その理由が分からない。


 確実に分かることは、俺はこの世界を終わらせるためにココにいるということ。

 アイオーンと名乗るあの男を、確実に殺さねばならないということ。

 名前も知らない誰かを、この理不尽が溢れる世界から救わねばならないということ。



 それこそ、俺の全てを賭けて。



 アイオーンというクソ野郎と取引をしてでも、成し遂げねばならない絶対の覚悟を持って。

 俺という人間は今、ココにいる。



(二周目を始めた理由は覚えている。一周目に、俺が辿った行動もあらかた覚えてる。……けど、何かが足りない。何か大切なものを忘れているような、そんな気がする)



 心に空いた、ぽっかりとした空洞。

 その空洞に浮かぶ、俺自身の――ユウマという魂に刻まれたかのような、誰かが言った『負けるな』と『生きることを、諦めないで』という言葉。


 その、言葉を……。いったい、誰が口にしたのだろうか。



 ――何か。大切な何かが足りない。



 確実にそう感じるはずなのに。

 心に空いた空洞は、その答えを返さない。



「はぁ……」



 吐き出すため息が重たかった。

 けれど、いつまでも考え込んではいられない。

 今の俺がするべきことは、現状の把握と今後を考えることだ。

 食料も水もない今、悠長なことはしていられない。



「……とりあえず、現状の把握だよな」



 呟き、悲鳴が聞こえたその方向へと目を向ける。

 この世界には今、〝ユウマ〟という存在が二人いる。


 無限にこの世界を繰り返す〝ユウマ〟と。

 アイオーンとの取引によって生まれた、周回を許された俺という〝ユウマ〟だ。


 違いがあるとすれば、一周目のユウマは全てを失くしてゼロからのスタートを切っているが、周回する俺は直前の力を引き継いでいるということ。

 分かりやすく言えば、今の俺はこの世界が始まった〝一日目〟へと、時間遡航したような存在だ。



「……問題は、この世界の行方が俺の知っている一周目と同じ結果を辿るのかどうか、だな」



 言って、この世界のことを考える。

 強化周回――つまりは、この世界の〝一日目〟へのタイムトラベル。

 単純に考えれば、同じ時間軸上の同じ世界へとタイムトラベルした、と考えるべきだ。



「……とりあえず、あの俺と出会わないように隠れてみたけど。やっぱり、出会っちゃいけないよな?」



 記憶を辿っても、一周目の俺は二周目のユウマと出会っちゃいない。



 もし、ここが一周目の世界であるならば。


 二周目の俺が、一周目のユウマと出会うことは絶対に許されない。

 なぜなら、二周目の俺が知る一周目では、二周目のユウマと出会ってはいないからだ。

 だから、俺が一周目のユウマと顔を合わせると、その時点でこの世界は一周目ではなくなる。



 ユウマとユウマが出会った、というまた一周目とは違う別の世界へとなってしまう。



「……もし、そうなってしまえば」



 呟き、俺は二周目という自分の存在を振り返る。

 極論を言えば、今の俺は二周目のユウマが行き着く先の存在だ。

 何も知らないユウマが旅をして、戦い、成長して、やがてアイオーンへと辿り着き、絶望をした上で、今の俺がここにいる。



 ――二周目の俺という存在が、一周目のユウマが行き着く先の存在であるならば。



 今の俺と、一周目のユウマが顔を見合わせるというその行為そのものが、一周目とは違うというパラドックスが生じてしまう。


 それが、その結果が。


 アイオーンが支配するこの箱庭で、それがどんな影響を及ぼすのか分からない。

 一周目と違うその行動そのものが、下手をすれば俺という存在そのものが揺らぐ原因となってしまうのは確かだろう。



 ……そう考えた俺は、アパートを出てすぐに一周目と出会わないよう姿を隠した。



 ここが本当に一周目の世界であるならば、悲鳴を上げて逃げ出したあのユウマは、いずれチュートリアルクエストを受けて戻ってくるはずだ。

 だったら、今すぐにでもこの場を動いた方がいいんだろうが……。



「……あれ?」


 ふと、違和感。



「ちょっと待てよ……。仮に、ここが単純に一周目の世界そのものだとしたら……。ボーナススキルはどうなるんだ?」



 ボーナススキルの取得条件は、種族内における〝初めて〟と、〝特定行為〟だ。

 ファーストキルのボーナスは、俺が手を下さない限り一周目が獲得することは可能だろう。


 …………いや、実際には今の俺が【曙光】を獲得している時点で、一周目が【曙光】を獲得出来るのかどうかも分からない。


 そのあたりは、一周目がモンスターを討伐するのを見て判断するしかないのだろうが、問題はもう一つのほうだ。



 今の俺は、種族内の生き残りボーナスを獲得しているということ。



 そのスキルを獲得したのは、四日目の深夜だった。

 もし、ここが一周目の世界だというならば。

 ()()()()()俺を含めた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。



「……………………」



 その仮説に、俺は眉間に深い皺を刻む。

 俺は、この世界を終わらせるためにココにいる。


 死ぬつもりなんて毛頭ない。

 何が何でも、この世界に食らいつく。

 四日目に死ぬことが確定しているなんて冗談じゃない!



「……死ぬわけにはいかない」



 固く、固く拳を握り締める。

 俺は、必ずあの男を殺さねばならない。

 このクソゲーをクリアして、無限に繰り返す絶望の悲劇を終わらせねばならない。


 ――もし。


 もしも仮に、四日目に一周目以外のユウマを除く『人間』が全員死ぬことが確定しているのだとすれば。

 その時は、俺が…………。



「――何を馬鹿なことを」



 ハッとして、俺は自らの考えに首を振った。

 一周目を殺して、二周目の俺が生き残ったところで。

 その時に、今の俺がそのまま生き永らえることが出来るのかも分からない。


 今の俺は一周目の上で成り立つ存在だ。


 だとすれば。

 一周目の俺を、二周目の俺が殺したその瞬間に、俺という存在そのものが矛盾してしまう。



 ――親殺しのパラドックス。



 この俺に、それが適用されるのか分からないが、用心するに越したことはないだろう。



「ふー……」



 息を吐いて、ゆっくりと考えを纏める。

 この世界にとっての俺は、確実にイレギュラーなはずだ。

 一周目と二周目が同時に存在する以上、この世界はすでに矛盾が生じている。

 俺は、考え得る仮説と矛盾を最初からもう一度、頭に思い浮かべていく。




 ――まず、考えるべきことは、この世界の行方が俺の知る一周目という結末を辿る世界であるのか、どうか。



 これは、現時点では分からない。それを確かめる単純な方法として、俺が今すぐ一周目のユウマと顔を合わせる、という方法があるが、俺自身の存在が成り立つ過程を考えると、迂闊な行動を取ることが出来ない。



 俺という二周目が成り立つ過程。

 俺が知る一周目の記憶。


 その二つを合わせた考察から、この世界が俺の知る一周目だとするならば、この世界で起きる一周目への影響は俺の存在そのものに影響を与える、という仮説。



 ここは、アイオーンによって未来の地球を切り取り作られた箱庭だ。

 箱庭という閉じられた世界の中で、今の俺に与えられるその影響が、今後どうなるのか分からない。



『以前の君と、今回の君が出会うことは許されない。いや、そもそも君たちは元から出会ってもいなかっただろ?』



 なんてことをあのクソ野郎は言って、強化周回そのものを無かったことにされる可能性がある。



「……下手をすれば、一周目に影響が出た時点で、二周目をやり直しさせられる可能性すらあるな」



 一周目の無限ループを抜けた先で、二周目のやり直しによる無限ループ。

 ……ありえない話じゃない。

 何よりも、アイオーンが最後に追加した条件が気になる。


「〝君がそのやり方をするたびに、君は君という存在を失くしてもらおう〟、か」


 そのやり方、という言い方が、このやり直しのことであるならば。

 俺はやり直しをするごとに、何かしらのペナルティーを背負うことになる。



 同時に、この世界が一周目だとするならば。


 俺は、一周目のユウマが種族内の生き残りボーナスを獲得する四日目に、死ぬ未来が確定していることになる。



 つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()だということ。




 ――そして、次に。この世界が単純な一周目ではないという可能性。



 それはつまり、二周目の俺がこの世界に存在している時点で、この世界は一周目とは違う世界ということになる。


 分かりやすくするならば、俺が経験した世界はAという世界であり、ここはBというまた別の世界。



 Aという世界のユウマ――つまり俺が、アイオーンによってBという別の可能性が存在する無限ループの世界にやってきたという仮説。



 その仮説は、この世界の一周目のユウマは、俺の記憶とは異なる過程を辿る可能性を秘めている。



 だとすれば、今の俺が一周目のユウマと出会ったとしても、俺自身には何の影響もないかもしれない。

 A世界での俺は、二周目に出会っちゃいない。

 だが、B世界での『俺』は、まだ二周目の俺に出会うという未来がまだ確定していない。


 簡単に言ってしまえば、ただ俺の知らないだけで、この世界のどこかには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ――IFによって生じる多世界解釈。



 それが起こりうるのならば、この世界は一周目とは違うまた別の世界であり、俺が四日目に死ぬことがまだ確定していない世界ということになる。



 ――そして、三つ目の仮説は……。



「もしかすれば俺が、もはやプレイヤーとは違う存在になっている」


 小さく、呟く。



 アイオーンにあの提案を――強化周回の提案をしたあの瞬間から、アイツが俺をプレイヤー認定から外した。

 プレイヤーとしてではなく、また別の存在として俺は一周目の――A世界に存在している。


 これが正しければ、この世界にはユウマが二人いるにも関わらず、一周目のユウマだけが『人間』という扱いを受けていることになる。



 それはつまり、A世界であるにも関わらず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仮説だ。



 俺が一周目のユウマに何かしらの影響を与えても、もしかすれば〝この繰り返しではそういうことが起こった〟として処理がされて、今の俺には何の影響もない可能性がある。



「……一番嬉しいのは、三つ目だな。死ぬことがまだ分かっていないって理由なら、二つ目でもいいけど」


 呟き、笑う。



 ……だが、あの男のことだ。

 そんな都合のいいことを、やってくれるはずがない。

 十中八九、可能性が高い仮説としては、一つ目の仮説だろう。



「……そう言えば、ステータスに追加されてた項目があったな」



 二周目になって、ステータス画面に追加された新たな項目。

 アイオーンの手によって加えられたその項目を確認するため、俺はステータス画面を開いた。




 ユウマ  Lv:30 SP:0

 HP:46/160

 MP:31/72

 STR:90(+9)

 DEF:70(+7)

 DEX:65(+7)

 AGI:100(+10)

 INT:66(+7)

 VIT:65(+7)

 LUK:104(+10)

 所持スキル:未知の開拓者 曙光 星辰の英雄 種の創造主 天恵 夜目 地図 気配感知 直観 雷走 集中強化 瞬間筋力増大 視覚強化 空間識強化 刀剣術 / 一閃 

 特殊:強化周回

 種族同化率:23%




 強化周回。

 それが、スキルと同じ扱いであるなら、この項目にも説明文があるはずだ。



(その説明文が、何かしらの手がかりになると良いけど……)



 そう思って、俺は〝強化周回〟と書かれた項目をタップする。


 ……だが、いくらタップしたところでその説明文が出てくることはない。


 予想はしていたが、分かりきった結果でもあった。



「っ、チッ」


 と舌打ちをして、俺はスマホをポケットへと仕舞う。



 このゲームが不親切なのは今に始まったことじゃない。

 強化周回の権利は与えるが、その後のシステムやこの世界での俺の立ち位置は自分で探れ、とそう言っているかのようだった。



 俺はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。



「ひとまずは、四日目が鬼門だな」


 呟き、覚悟を決める。



 生き残りボーナスが手に入ったのは四日目の深夜だ。

 ここが俺の知るA世界なのか、それともまた別の可能性があるB世界なのか。

 俺自身がプレイヤーであるならば、それがはっきりするのは四日目だろう。


 であれば、今の俺に残された時間は実際のところ三日。

 そう考えて行動していくしかない。



「……いや、待てよ。それよりも先に、まだ確認できる方法がある」


 ふと、思いつく。



 それは、この世界の一周目であるユウマが【曙光】を獲得することが出来るのか、どうかだ。



 この世界がA世界であるならば、一周目のユウマはこの後、ゴブリンと戦い勝利して、必ず【曙光】を手に入れる。



 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()



 もし、ここで獲得出来なければ、この世界はユウマが【曙光】を獲得出来なかったB世界だということが、この時点ではっきりとする。



「……まあ、獲得したとしても。A世界かB世界なのかは、四日目じゃないと分からないけどな」


 思わず、呟く。



 ここがB世界であったとしても。

 ユウマが【曙光】を獲得する、という事実だけは同じかもしれないのだ。


 強化周回というタイムトラベルが。

 同じ時間軸の、同じ世界の〝一日目〟へと戻ったのかどうかを確かめる術は、結局のところ、ユウマが生き残りボーナスを獲得する四日目で判断していく他にない。



「……四日目まで、残り三日か。時間がない、けど。この世界がどんな世界なのかは、どっちにしろ見極める必要があるな」



 俺はそう言って、ようやく立ち上がる。

 ユウマが戻るまで時間がある。

 今の内に、何か武器になるものでも探しておこう。




仮説と、考察と、矛盾。

強くてニューゲームが、どんな影響を与えているのか。

一週目とは違う楽しみ方になればいいな、と思ってます。


また、にゃーちん様よりレビューいただきました。

本当にありがとうございます。


皆様の応援に応えることができるよう、10月20日から、またほぼ毎日更新していきますので、よろしくお願いします!!



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― 新着の感想 ―
[一言] ベータテスターと名乗ったのは何周目かの主人公なのではと思った。
[一言] 盛り上がってきましたねー! 今後の展開から目が離せません! あと、わざわざありがとうございますビックリしました笑
[一言] うーん、神様的存在のアイオーンの主観では、時間が巻き戻り世界が繰り返していても時系列的に世界を観測できていて、前回のユウヤが初めて取引を持ちかけた? だとすると前回の周回には2週目ユウヤはい…
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