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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 希望の失楽園と終末の先行者

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六日目・?? 月光の涙



 俺は、ミコトへと向けて小さな声で呟いた。


「――ミコト。【神の光楯(アイギス)】を解いたら、すぐに【遅延】だ」



 ミコトが微かに頷き、数秒ほどタイミングを計るようにクロエを見つめる。


 クロエが足を踏み込み、【神の光楯】へと蹴りを放つ。

 これまで以上の激しい燐光が舞ったその瞬間。



 ――ミコトは【神の光楯】を解除した。



 そしてすぐに、ミコトは次のスキルを発動させる。


「【遅延】、三秒!」


 その言葉と同時に、俺はクロエへと踏み出した。



 左腕を大きく振って、彼女の身体を刃で切り裂く。

 袈裟懸けに斬り裂いた身体から真っ赤な血が溢れて、クロエの顔が苦痛で歪む。

 だがその身体はすぐに傷を修復し、流れ出る血はピタリと止まった。


 ――【不死者】のスキルの影響だ。


 俺はすぐにそう思い直して、振るった刃を切り返す。



 だがそれよりも早く、クロエは俺の刃にタイミングを合わせるかのように腕を振るうと、その言葉を吐き出した。



「【身体強化】」



 瞬間、クロエの動きが格段に変わる。

 振るわれた腕は俺の刃を弾き、その勢いで俺は体勢を崩した。



「しまっ――」

「【神の光楯】!」


 体勢を崩した俺を守るかのように、ミコトが光楯を出現させる。

 出現した光楯はクロエの追撃を弾き、すぐに消えた。

 その間に体勢を整えていた俺は、地面を蹴ってクロエの懐へと跳び込む。


「【雷走】! 五秒ッ」


 一気に加速して、クロエの腹へと刃を突き出した。


 だがクロエはすぐにそれに反応し、半身を捻って刃を交わすとカウンターを放つように俺の顔面へと拳を振り抜く。


「――ッ」


 瞬時に俺は顔を逸らして拳を避ける。


 けれど、俺の動きよりも彼女の拳の方が速い。

 拳は俺の頬を掠り、その勢いで皮膚を切り裂いた。



 ――あまりにも速い。



 【身体強化】、というその言葉通りのスキルが彼女のステータスをさらに強化している。

 その強さで言えば、あのデスグリズリーを遥かに凌ぐ。



 ……どうする。

 勝てる見込みが全く見えない。



 久瀬によって時間感覚さえも創り変えられた今、夜は彼女の世界そのものだ。

 未だ底の見えないスキルである【真祖】と【闇夜を統べる者】も残っている。

 彼女の動きが、種族変化をしてから変わっているのを見るに、【真祖】か【闇夜を統べる者】のどちらかはステータスに補正をもたらすものだろう。


 であれば、問題は残り一つのスキルがどんなスキルなのか。

 攻撃か、防御か、補助か……。



「ふっ!」



 短く息を吐いて、クロエを蹴りつける。

 クロエはその蹴りをバックステップで避けた。

 出来た距離に、俺はミコトへと向けて叫ぶ。



「ミコト! 【遅延】だ!! 三秒後に五秒!!」

「――はい!」


 ミコトの声が聞こえて、俺はクロエを見据える。

 そして、俺たちは同時に呟く。



「【遅延】、五秒!」

「【雷走】、五秒!」



 二つのスキルによって、クロエとの速度の差が縮まる。

 俺はクロエに肉迫すると、すぐさま刃を振り下ろした。


 袈裟懸けから刃を切り返し、横薙ぎに。そこからさらに腕を引いて突き、突いた刃を斬り上げる。

 刃が振るわれるたびに、クロエの身体に赤い線が浮かぶ。


 ……しかし、やはりクロエの身体はすぐさま修復を始める。

 それを見て、俺はすぐに声を上げる。



「さらに十秒だ!!」

「はいッ」


「【雷走】、十秒!!」

「【遅延】、十秒!!」



 再び、俺たちのスキルがクロエの動きを阻害する。

 俺はすぐさま、手に持つ野太刀をクロエへと振るう。

 すぐにクロエが反応してその刃へと回避しようとするが、その動きは【遅延】と【雷走】を合わせる前と比べるとはるかに鈍い。



「――ッ!」


 俺は、クロエの身体へと刃を振り下ろす。

 彼女の身体から血が溢れて、苦痛のうめき声が漏れた。


 だが傷ついた彼女の身体はすぐに修復を始める。

 何事もなかったかのように。

 全ての傷を消して、彼女は何事もなかったかのように戦闘を続行してくる。


 だから、俺は刃を振るう。

 何度も、何度も、何度も。


 ……涙が溢れて視界が滲んだ。


 もう傷が治らないでくれと、幾度となく思った。

 そうすれば、もう……。俺たちの戦いは終わる。

 終わる、はずなのに。



「煩わしい」


 とクロエが言った。



 彼女は、傷を修復しながら俺たちを見る。

 そしてクロエは、俺の刃を受けながらもそれを意に返す様子もなくその手を虚空へと伸ばす。



「【真祖】、発動」


 クロエは呟いた。



 ――その言葉に反応するかのように地面に飛び散った彼女の血が蠢き、ゆっくりと彼女の手に集まる。



 蠢く血は形を変え、小さな蝙蝠のような姿へと変わった。



「――ブラッディ・バット」


 言って、クロエが合図をするように腕を振るう。



 次の瞬間。



 その腕の動きに合わせて、無数の赤黒い蝙蝠が俺たちへと襲い掛かった。



「ぐッ」

「あぁッ!」


 俺とミコト、二人の苦痛のうめき声が重なる。

 血液で作られたその蝙蝠は、俺たちの身体へとぶつかり、噛み付き、細かな傷を与えていく。

 視界は、クロエが作り出した蝙蝠で埋め尽くされた。

 野太刀を振るって蝙蝠を落とすが、地面に落ちた蝙蝠はすぐに形を整え、俺たちへと襲ってくる。


「っ、ミコト! 【神の光楯(アイギス)】だ!」

「【神の光楯】!!」


 すぐさま、ミコトが光楯を出現させた。

 光楯に蝙蝠がぶつかり、べちゃりと血に戻る。


 ――けれど、やはりその血はすぐに蠢き、また蝙蝠の姿へと形作られていく。


 しかし視界は一時的とは言え、確かに晴れた。

 一瞬出来るその隙に、俺はクロエへと一気に駆ける。



「クロエッ!!」



 叫び、俺は覚悟を決めた。

 これ以上、戦いを長引かせるわけにはいかない。

 長引けば長引くほど、俺たちは不利になり――俺は、彼女へと刃を振るわなければならない。



 これ以上、彼女が無駄に傷つき苦痛に満ちた顔を見るのは、辛かった。



「―――――ッ!!」



 クロエのその首へと向けて、唇を固く噛みしめて刃を振るう。

 真っすぐに振るわれたその刃を、クロエは冷静に見つめていた。



 ――刃が、クロエの首元へと沈み、真っ赤な血が溢れ出す。





 クロエが口を開いたのはその瞬間だった。





「ブラッディ・スパイク」





 首から溢れた血が瞬時に蠢き、鋭い棘となって俺へと突き出してきた。

 刃を振るい、攻撃の体勢となっていた俺にそれを避ける術はない。

 飛び出した棘は俺の右肩を穿ち、数センチ大の孔をあけて貫通した。



「ぐ、ぁああッ、がッ!」



 焼け付くような痛みで悲鳴が漏れた。

 柄を持つ手が緩み、刃はクロエの首を三分の一ほど傷つけたあたりで止まる。



「ブラッディ・クレセント」


 さらに、クロエがその言葉を呟いた。

 その言葉に応じるように、クロエの首筋から溢れた血が三日月状に変化し、一息で俺の腹を突き刺した。


「がほっ」


 血が溢れて、地面を海のように赤く濡らす。

 もはや激痛という言葉では表現できない痛みで、思考が止まる。



 クロエは、首筋に刺さったままの刃を素手で引き抜くと、その刃ごと俺を振り回し、壁へと向けて投げつけた。



「…………!!」



 痛みと衝撃で意識が薄れる。

 必死にそれを繋ぎとめていると、クロエがミコトを俺の方向へと蹴り飛ばすのが見えた。



「っ、が――」


 ミコトが俺にぶつかり、その衝撃と痛みで視界がブラックアウトする。



「――マ、――ん!」



 ミコトが俺の名前を叫んだような気がした。

 すぐに【回復】の光が俺を包むのが分かる。



「ユ――さんッ、HP――」



 続けて、ミコトが何かを言った。

 けれど、その言葉が聞き取れない。

 俺が反応しないのを見たのか、ごそごそとポケットをまさぐられる感触が伝わる。



「よかっ――。まだ――」



 ミコトが何かを言って、再び【回復】を使ったのが分かった。



「ユウマさんッ!」



 もう一度、名前を呼ばれる。

 その声に、俺は瞼を開けた。

 俺のスマホを手に持ったミコトが、俺を覗き込む瞳と目が合う。



「ミコト、俺の残りのHPは……?」

「……70です」


 とミコトが言った。

 

 ……それは、きっと。【回復】を二回受けてからの数字だろう。

 つまり、先程の俺はHPが10しかなかったということになる。


 俺はゆっくりと息を吐いて身体を動かす。

 文字通り、死にかけた。

 全力でクロエにぶつかっても、なおも勝てない。


 クロエが、俺たちへとゆっくりと近づいてくる。


 彼女の素足が、血で出来た水たまりを踏んで、ぴちゃぴちゃと音を鳴らす。

 未だに涙で濡れたままの深紅の瞳が、俺たちを見据えている。


 ――彼女は、この戦闘中。絶えず、涙を流し続けていた。


 俺たちを攻撃するときも、攻撃を避ける時も。

 ただ溢れる涙をそのままに、俺たちと戦っていた。



 ……彼女に勝てる見込みがない。



 でも、それでもッ! 俺たちはやるしかない。

 彼女の覚悟を、種族に抗いながらも俺たちに残した言葉を、無駄にするわけにはいかない。



「ミコト。【聖域展開】は使えないか?」

「……まだ、再使用時間になってません」

「わかった。それじゃあ、秒数は無しでいい。【遅延】を頼む」

「っ、それだと、すぐにMPが尽きますッ!」

「そうしないと、勝てない。言葉通りの全力だ。俺も、【雷走】を常時発動させる」

「…………分かりました。【神の光楯】を発動させます。解除と同時にまた【遅延】を発動させます」

「頼む。俺のスマホ、そのまま預かっててくれ」

「分かりました」



 短い会話を終えて、ミコトが俺のスマホをポケットに仕舞うと、壁を背にしたまま【神の光楯】を発動させた。

 クロエは【神の光楯】の前に立つと、これまでの攻防でその光楯の防御力を見ていたからだろうか。出現した光楯をどうするか考えるかのように、ジッと見つめた。



「ブラッディ・パイル」



 クロエが呟き、虚空へと手を伸ばす。

 その手に、この空間で流したクロエの血が全て集まり、ゆっくりと大きな血の杭を創り出す。



「潰れろ」



 クロエは、そう言ってその杭を掲げると、腕を振るって振り下ろした。

 【神の光楯】と血の杭がぶつかり、バチバチと燐光を散らす。

 これまで圧倒的な防御力を誇っていたその光楯に、ビシリとわずかなヒビが入った。



「……ッ、くっ!」



 ミコトが唇を噛んで、掲げた手に力を込めた。

 さらに激しく燐光が散って、俺たちの顔に残った涙を照らす。



「ォおおおおおおっ!」



 クロエが慟哭のように叫び、その腕に力が込められた。

 血の杭はひときわ鋭く、大きくなると【神の光楯】にさらにヒビを入れる。



「――――――ッ!」



 対するミコトも、言葉のない気合と共にクロエの力に抵抗をする。

 今や【神の光楯】が散らせる燐光はホール内の全体へと届いていた。

 まるで昼間のように明るくなるその光に、目が眩みそうになる。


 傍から見ても両者の力は互角。

 ほんの些細なきっかけで、崩れてもおかしくはない。



 ……だからこそ、俺はその均衡を崩す。



 ポケットに手を忍ばせて、小石を取り出し瞬時に【空間識強化】で空間を把握する。

 そして、狙いをつけた場所へと小石を投げた。

 小石は床に当たり、砕けた壁に当たり、また砕けた床に当たり、そしてクロエの背後へと回り込んで、まっすぐにその頭部へ目掛けて跳んだ。


 ――ガッ。


 という音と共にクロエの後頭部へと小石が当たった。

 それは、今のクロエにとっては些細な攻撃。

 傷一つつけることが出来ない攻撃だったが、それでも。

 一瞬でも、ありえないはずの背後からの攻撃に、クロエの意識が逸れた。



「――今ッ!」



 叫び、ミコトが【神の光楯】を押し出した。

 均衡を保っていたクロエとミコトの力が同時に破れて、血と燐光の光が雨のように周囲にばら撒かれる。



「【雷走】ッッ!!」

「【遅延】ッッ!!」



 俺とミコトの言葉が重なる。


 だが俺はさらにもう一つのスキルを発動させた。


「【瞬間筋力増大】!」



 呟き、刀を突き出すように構えて全身の力を溜め込む。




 ――クロエの瞳が驚愕するように見開かれた。




 すぐさま回避をしようと動こうとするが、それよりも早く俺は地面を蹴って飛び出す。



「ぅぅぅうううあああああああッッ!」



 涙を流し、叫び声を上げながら真っすぐに刃を突き出してクロエにぶつかる。



 クロエは、迫る俺に回避が間に合わないと判断したのか諦め、それからすぐに迎撃をしようかと口を開きかけて―――やがて、閉じた。


 そして、クロエはまるで自らを差し出すかのように。

 その場所を、自らの心臓部分を俺へと差し出すように、無防備な胸を晒す。



 限界を超えた筋力で押し出される刃は強化されたステータスのDEFを破り、クロエの心臓へ到達する。



「――――ぐふっ」



 野太刀の刃はクロエの胸を貫いた。

 口元から血を溢れさせ、クロエの身体が痙攣する。



「……ふふっ」


 小さく、彼女が笑った。


「ありがとう。あの子のために、こんなにも一生懸命に泣いて、戦ってくれて」



 俺にしか聞こえないような、ほんの小さな声で彼女はそう言った。

 それは、その言葉は。

 この戦闘でほとんど口を開くことがなかった、クロエの身体を操り、心を乗っ取った種族の声。


 それから、彼女は緩やかに目を閉じて俺へと身体を預けてくる。



「ごめんなさいね。()()()がそこにいるから、全力を出して相手をするしかなかった。でも、それももうお終い。……本当に、ありがとう。私達のヒーローさん」



 小さな呟きが聞こえた。

 止めどなく溢れる血が俺を濡らす。

 血が溢れるたびに彼女の身体が冷たくなる。



「……ッ、………ッ、あ、クロエ、さんッ!!」



 ミコトがクロエへと近づき、その身体を抱きしめた。

 ボロボロと涙を流し、ミコトがクロエの名前を何度も呼ぶ。

 その呼びかけに、彼女は満足そうな小さな笑みを浮かべた。



「……あの、子からの。最後の、伝言」


 俺たちの腕に抱かれながら、彼女が呟く。




「……『負けるな』だそうよ」




 そう言って、彼女は――クロエは、もう二度と口を開くことがなかった。








 ≫≫種族:人間の中で初めてプレイヤーの討伐を確認しました。種族内における初めての殺人ボーナスが与えられます。






 ミコトが持っていた俺のスマホからアナウンスが鳴る。

 そのアナウンスに、俺は唇を噛みしめる。

 どうしようもない現実を、このクソゲーが俺たちに叩きつけてくる…………。


「……ッ、あッ、ァァアアアアアアアああああああッッ!!」


 叫び、俺はクロエの身体を抱いて吼えた。

 

 このクソみたいな世界に。

 絶望が嗤うこの世界に。

 獣のように涙を流して、ただ声を上げる。






 ≫≫スキル:種の創造主を獲得しました。







 彼女はもう、戻らない。

 その事実を、そのスキルが伝えてくる。



「……ッ、ゥわぁああああああああああああッ!!」




 ミコトがクロエを強く抱きしめる。




 ――『負けるな』と、彼女は言った。



 でも、今は。

 今、この瞬間だけは。



 彼女の死を悲しむことは許されるはずだ。

 俺たちの慟哭は月夜に響く。

 月光だけが、俺たちと彼女の間に静かに、静かに降り注いでいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] くろえ~・・・ [気になる点] また二人旅かぁ・・・ ルールがん無視のクソゲーGMが見逃してくるのかって問題があるが。 [一言] しかし、ちゃんと死んだな・・・ ※ちょいちょい行方不明的な…
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