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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 希望の失楽園と終末の先行者

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六日目・?? そんな、気がした。





 クロエが腰を落とす。

 それが攻撃に移る予備動作だとすぐに分かった。



「クロエッ!」


 と俺は彼女の名前を呼んだ。



 だが、彼女はその呼びかけには答えず、一気にその力を解き放つ。



 ――姿が消えた。

 そう思った次の瞬間、俺の腹に深々と彼女の拳が突き刺さる。



「ぐふっ!」



 メキメキと骨が潰され、内臓が潰れて口から血が溢れる。

 衝撃は身体を突き抜けて、俺を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた身体は勢いよく壁にぶつかり、凄まじい音を響かせて壁をヒビ割った。



「がっ、は――」



 肺から空気が抜けて、口腔内に溜まった血と共に口から吐き出される。

 激痛が身体中に走り、一瞬で意識が飛び掛ける。



「やめて! やめてェエエエエエエッッ!!」



 ミコトの悲鳴が聞こえた。

 俺は唇を噛みしめながら、薄れる意識を必死で繋ぐ。


 ……なんだ、この威力は。


 東京駅の地下で、一度手合わせした時とは比べ物にならない。

 おそらく、直前に久瀬の手によって強制的に取得したスキルの影響だろう。

 【不死者】、【真祖】、【身体強化】、【闇夜を統べる者】…………。

 それら新しく獲得したスキルが、クロエのステータスを大幅に強化している。



「ッ!」



 膨れ上がる気配に身体が反応する。

 視線を上げると、クロエが追撃を仕掛けるように俺へと蹴りを放つところだった。


「……ッ!」


 慌てて、身体をずらしてその蹴りから俺は逃れる。

 寸前にまで頭があった場所にクロエの蹴りが突き刺さり、壁が砕けて破片が舞った。



「クロエッ!! やめろ!!」


 俺は必死で呼び掛ける。


 だが、その声に彼女は口元で嗤って答えると、短く、


「【身体変化】」


 と呟いてその身体を成長させた。



 そのまま、クロエはくるりと反転して腕を振るう。

 リーチの伸びた彼女の裏拳が俺の眼前に迫る。



 ――避けられない。



 そう思ったその時、ミコトの叫びが響いた。



「――【遅延】ッ!! 3秒ッッ!!」



 瞬間的にクロエの拳が遅くなる。

 俺はその拳を掻い潜り、必死でその場から逃げ出す。


 きっちり三秒後、俺の背後から壁を打ち砕く轟音が響いた。

 それが、彼女の放つ必殺の一撃だとすぐに分かった。



「――――ッッ」



 固く、固く唇を噛みしめる。

 どうして。

 どうして俺たちは戦い合っている?

 つい先ほどまで一緒に居て、会話を交わしていたはずなのに。

 ほんの数時間前までは、絶望を乗り越えてお互いの無事に安堵し、笑い合っていたはずなのにッ!




 ――どうして。




 ――――どうして、こんなことになっている?




 全ての謎を解き明かそうと。

 この世界の真実を知ろうとしたことが間違いだったのか。

 そのために、クゼと呼ばれたあの男の元を訪ねたことが全て悪かったのか。


 いや、それとも……。

 俺が、()()()()()()()()()()()()()()ことが、全ての始まりだったのかもしれない。



「目障りなスキルね」


 とクロエが呟く声が聞こえた。



 瞬間。その意識が俺ではなく、ミコトへと向けられたのがすぐに分かった。



「……ダメだ」



 クロエ。ミコトは俺よりもステータスが低いんだぞ? それはお前も知ってるじゃないか。



「やめろ」



 今の俺の一撃を受けたら、ミコトはあっという間に瀕死だ。……いや、下手をすればそれで死ぬかもしれない。



「クロエッ!」



 クロエが深紅に染まった瞳を、ミコトへと向ける。

 その目には、はっきりとした敵意が浮かんでいる。



「やめろぉおおおおおおおおおッッ!!」



 俺は叫んで、地面を蹴る。

 身体の痛みを無視して、ミコトの元へと駆け寄る。

 それに気が付いたクロエが、両足に力を入れるかのように腰を落とす。


 ――このままでは間に合わない。


 このままでは、彼女(クロエ)が、ミコトを殺してしまう!


 それだけは……。

 それだけは絶対に避けなければいけないッ。



「【雷走】ッッ!! 【瞬間筋力増大】!! 【集中強化】ぁああああああッ!!」



 持ちうる戦闘系のスキルの全てを出し切って、俺は地面を蹴り飛ばす。

 限界を超えた筋肉が脚力を増して、【雷走】がAGIを上昇させる。スキルにより強制的に限界を超えた集中力が、俺を時間感覚が引き延ばされたあの世界へと連れ出す。


 クロエが地面を蹴った。


 【集中強化】や【視覚強化】、【雷走】を用いてもなお〝速い〟と感じる彼女のその動きに、俺は唇を噛みしめる。



 速く。速く、速くッ!

 もっと速く動かないと!!

 このままじゃ最悪の未来が待つだけだ!!



「ぁあああああああああッッ!」



 叫び、さらに両足に力を込める。

 筋肉が切れて、骨にヒビが入るかのような音が聞こえた。


 激痛で動きを止めそうになるが、それを必死で抑え込みさらに力を込める。

 身体が、本能が、それ以上はやめておけと制止をかけてくる。



 ……だが、それでも構いやしない。



 ここで臆すれば、俺はきっとこの瞬間を一生悔やみ続ける。

 久瀬が言うこの世界が箱庭で、いくら全てが巻き戻るやり直しが起きる世界だったとしても。



 今、この瞬間だけは。紛れもない現実なのだ。




 ――だったら、藻掻け。



 この悪夢に。この絶望に。全身全霊で抗えッ!!

 この世界の俺が、きっと何度もそうしてきたように!

 今この瞬間の俺が、ここで諦めるわけにはいかないんだッ!!




「間に合えぇえええええええええええええええええッッッ!!」




 声を張り上げ、俺は駆ける。

 ミコトの視線が俺に向く。

 クロエがミコトに向けて蹴りを放つ。


 ――だが、それよりも速く。


 俺は、ミコトとクロエの間に身体を滑り込ませて、その蹴りを両腕で受け止めた。



 凄まじい衝撃と共に、俺の身体ごと地面が砕かれる。



「がッ…………」



 意識が、一瞬飛んだ。

 ハッと意識を戻すと、クロエが追撃の拳を振り上げたところだった。



「くっ!」



 慌てて、防御体勢を取る。

 だがその次の瞬間。ミコトの言葉が響いた。



「【遅延】ッ、五秒!」



 その言葉に、クロエの動きが鈍った。

 俺とクロエ、二人の目が共に大きく見開かれる。

 俺はすぐさま防御体勢を解くと、クロエの傍に近寄った。


「――クロエ、悪いッ」


 言って、俺はかつてのクロエがそうしていたように、背中から全力でぶつかる。

 ドッという体重を乗せた衝撃がクロエを吹き飛ばし、クロエが地面を転がった。



 その出来た隙に、ミコトがすかさず俺へと【回復】をかけてくる。



「……ユウマさん。クロエさんは元に、戻りますよね」


 とミコトは言った。


「…………」


 その言葉に、俺は答える言葉が見つからない。

 だがミコトが、俺の答えを待つことなく言葉を続ける。


「また、三人で……。私たちは三人でッ! 居られますよね?」


 ミコトは、俺の背中から【回復】をかけている。

 だから、彼女が今、どんな表情をしているのか俺には見えない。

 けれど、震えながら吐き出されたその言葉は確かに、彼女の涙で濡れていた。


「どうして、こうなっちゃたんでしょうね」


 ミコトは言葉を続ける。

 独白をするように。

 俺へと問いかけるように、俺の言葉を待たず言葉を吐き出す。


「どうして、私たちは……。命を削り合うようなことをしているんでしょう」


 ミコトが二回目の【回復】をかけてくる。

 傷が癒えて、痛みが和らぐ。


「私たちが、一体何をしたんでしょう」

「何もしてない。何もしてないんだ」


 と俺は呟く。


 俺たちは何もしていない。

 ただ理不尽によってここに存在し、理不尽に神を名乗る男に弄ばれ続けている。


「私たちが必死に生きてきた意味って、何ですか」

「……………」

「こうして、仲間通しで命を削り合うため? あの人を――久瀬っていうあの人を喜ばせるため? ただこの現実に絶望するため?」


 何かが背中に落ちて、シャツに染みを作った。

 それが何なのかは、考えるまでもなかった。

 ぎゅっと、ミコトが俺の背中のシャツを握る。

 まるで縋るように。

 小さな子供がそうするように、彼女は俺へと縋りついた。


「………………ッ」


 俺は、力強く拳を握る。



 正面へと目を向けると、地面を転がったクロエが起き上がるところだった。

 転がった時に傷ついたのか、こめかみに出来た切り傷から真っ赤な血が浮かんで、目尻と頬を伝って涙のように流れた。


 クロエは、その血を拭う様子も見せずに、俺たちをただ見つめる。

 クロエのこめかみに出来た切り傷は、数秒もすると跡形もなく消えた。

 それは、まるで。

 物語に出てくる吸血鬼のような、異常な回復力。


 クロエは、降り注ぐ月光を背負って俺たちを見る。

 それから、拳を握るとまた腰を落とす。

 それから、じっと。

 クロエは俺たちの準備が整うのを待っているかのように、その体勢のまま俺たちを見据えた。



「――――やるしか、ないのか?」



 消えるような声で俺は言った。

 これ以上、受け身でいれば俺たちは死ぬ。

 クロエは、本気で俺たちを殺すつもりだ。

 クロエはもう……、俺たちのことが見えていない。


 身体が完璧な種族へなり、心が完全な種族へと成り代わったこの状態を、あのアナウンスは〝種族変化〟と言っていた。

 であれば、今のクロエはもう。

 本当の意味で、吸血鬼へとなってしまったんだ。



 ――ああ、そうだよ。だから、彼女を救うためには、彼女を斬るしかない。



 頭の中で、そんな囁き声が聞こえたような気がした。

 それが誰の声なのかは、考えるまでもない。

 俺は、その声に対して首を横に振る。


 ……できない。

 それは出来ない。


 クロエと行動を共にしたのはたった数日だ。

 だけど、それでも。

 俺たちは確かな仲間だったんだ!

 言葉を交わし、背中を預け、互いの無事を喜び合った仲間だったんだッ!

 そんな彼女を斬ることは、俺には出来ない――――。




「……ゆう…………ま。み…………こ……と」






 ――――ふいに、そんな声が聞こえた。






 ハッとして目を向けると、クロエは変わらない体勢で俺たちを見据えている。

 ぎょろりとした深紅の瞳は変わらない。

 だが、その目には涙が浮かび、ゆっくりと頬を伝っていた。



「わ…………れを、こ……ろ……………せ」



 クロエは、何かに抗うかのようにその言葉を呟く。

 その言葉に、ミコトが小さく息を飲んだのがすぐに分かった。



「クロエさんッ! クロエさんッ!! そこにいるんでしょう!? 戻ってきてくださいッ!!」



 ミコトが泣き叫ぶように言った。

 その言葉に、クロエはまた涙を流しながら小さな声で言う。



「……む、り……じゃ。も……う、げ……か………………。はや……く」

「馬鹿言ってんじゃねぇッ!! 俺がッ!! 俺たちが助けてやるッ!! だから、負けずに抗うんだッ!!」



 目頭が熱くなり、涙が浮かぶ。

 ミコトのように言葉を震わせて、俺はクロエに向けて叫ぶ。

 クロエは、俺たちの声を聞くと、小さく笑った。



「…………おぬ……し……あえ……て。よ……か…………った」



 それ以上の言葉は続かなかった。

 クロエはまた、何かに操られたかのようにニヤリとした笑みを浮かべると、一気に俺たちへと向けて駆けてくる。



「クロエッ!!」


 俺は叫び声を上げた。

 だが、クロエは止まる様子がない。

 真っすぐに駆けよってくるクロエが、大きく足を振り上げたその時。

 彼女の――ミコトの泣き叫ぶような声が、円形ホールの中に響いた。



「【遅延(ディレイ)】ッッッ!! 三秒ッッ!!」



 慟哭のような叫びは、クロエの動きを阻害する。

 それからミコトはすぐに俺の前に飛び出ると、さらに言葉を叫ぶ。



「【神の光楯(アイギス)】ッ!!」



 瞬時に出現した光の盾が、【遅延】の切れたクロエの蹴りを受け止めた。

 燐光が激しく舞って、俺たちの顔を淡く照らす。

 ミコトはクロエを見据えたまま、涙を流しながら言った。



「ユウマさんッ!! 戦いましょう!! クロエさんの、クロエさんのお願いですッ。身体を種族に乗っ取られながらも、クロエさんは必死に抗って私達に声を掛けてくれたッ!! であれば、私たちはその声に応えるべきですッ!!」



 クロエが出現した光楯を破ろうと、全力で拳を叩きつけた。

 また激しく燐光が舞って、俺たちを照らす。



「ユウマさんッ!! クロエさんのお願いを、クロエさんの覚悟を無駄にするつもりですかッ!」



 ミコトが涙を流して叫ぶ。

 俺は、その言葉にグッと唇を噛んで、野太刀を握る左手に力を込める。



「…………ああ、そうだな」


 途切れなく溢れる涙が視界を濡らす。

 俺は、一度目元を拭って野太刀を構えた。



「ふー…………」



 ゆっくりと、息を吐く。

 これまでに何度も繰り返したルーティン。

 それを、俺は眼前の少女へと向けて行う。



「――――クロエ」


 俺は、小さく言った。


「ありがとう」



 ――その言葉に、クロエが小さく口元を綻ばせた。

 ……そんな、気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 幻想の否定の部分、神という最たる幻想の存在を認識して否定することに意識を向ければ久瀬に集中は出来そうですね。 それにしてもクソが作ったゲームという意味でもクソゲー
[良い点] 少年漫画の王道のような熱い展開ですねー。良いですね。 [一言] スーパークロエに勝てるのか? 勝てたとしてクロエは死んじゃうのか? 果たしてクロエを助ける方法はあるのか? 続きに期待してい…
[一言] クロエ死んでほしくないな…
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