表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 希望の失楽園と終末の先行者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/246

六日目・深夜 彼女たちの独白



 ユウマとミコトが寝静まったあと、クロエは座り込んで二人の寝顔を見つめていた。



 泥の上だというのに、二人はよく寝ている。

 規則正しく、深く呼吸するその胸が、深い睡魔の中にいることを知らせてくれる。


 クロエは、そんな二人の様子に小さな笑みを浮かべると、周囲へと目を向けた。



「静かじゃな」


 とクロエは呟いた。


 つい先ほどまで、この場所で血を流し、命の削り合いをしていたと思えない静けさだった。

 クロエは大きく伸びをして、デスグリズリーとの戦闘に想いを馳せる。



(かつてない強敵じゃったな……。戦闘を繰り返し、プレイヤーを殺すことで強化されるモンスターか……)



 クロエは、スマホを取り出してステータス画面へと目を向けた。



(我らプレイヤーがモンスターを狩って経験値を得るように、モンスターは戦闘回数とプレイヤーを狩ることで経験値を得ておるのか。まるで、我らプレイヤーが一方的にモンスターを蹂躙出来ぬようにしているかのようじゃな)



 クロエの知っているゲームでは、プレイヤーは強くなることがあってもモンスターが強化されることはなかった。


 だが、この現実に侵食したモンスターは、プレイヤーと同じ様に成長をしていく。

 日にちが経てば経つだけ、この世界のモンスターは強化されていく。

 それはすなわち、いつまでも埋まらない実力がそこにはあるということ。

 プレイヤーズギルドのように、成長率の遅いプレイヤー達――もっと端的に言ってしまえば、いわゆるチートスキルを持っていないプレイヤーは、そもそも生き残ることに適していないことになる。



(……まるで、この世界そのものが我らを殺しにきているようじゃ)


 とクロエはそう思って、ゆっくりと息を吐いた。


(何もかもが壊れた世界で生き残る権利が与えられているのは、化け物だけ、ということか)


 クロエは寝入るユウマへと目を向ける。



「化け物、か」


 クロエは、そう呟くと小さく笑った。



 それから自然と、クロエはデスグリズリーとの戦いの最中に飲んだ、ユウマの血の味を思い出す。


(……この世界に来てから、初めてじゃったな。本当に、心の底から美味いと感じた血は)


 クロエの視線は、ユウマの首筋に向けられた。

 規則正しく、深く呼吸をするその胸が、ユウマが深い睡魔の中に居ることを知らせてくれていた。



 ――今、ここで。我があ奴の首元に牙を突き立てれば、あ奴は起きるじゃろうか。



 そんな考えが、クロエの頭を過ぎる。

 だが、クロエはすぐにハッとして首を横に振った。


(何を、考えとるんじゃ我は……)


 そう思い直し、クロエは再度ユウマを見つめる。



 ……ユウマを見つめるクロエの口腔内に、唾液が溢れる。

 これまで感じなかった空腹が、クロエを襲う。

 腹の虫が鳴って、その音でクロエはまた首を横に振った。


「……ああ、そう言えば。溜め込んでいた血液を、全て【暗闇同化】で使ったのじゃったな」


 道理で腹が減るわけだ。

 そんなことを考えて、クロエは息を吐く。

 ユウマに抱くこの感情も、全ては血が足りないからだ、と。

 クロエは自らの感情に嘆息する。


「まったく、どうしてこんな身体になったんじゃろ」


 その独白に、答えるものはいない。

 彼女も、その独白への答えを期待していない。

 だから彼女はすぐに、思考を切り替えてこれからのことを考える。


 自分たちが生き残るために必要なことを、頭の中でまとめていく。

 夜を支配する吸血鬼の彼女の思考を遮るものは、今は何もない。


 夜を嗜む彼女の思考は、交代の時間まで続いたのだった。




           ▽




「交代じゃ」


 そう言われながら肩を揺すられて、ミコトはゆっくりと目を覚ました。



(おかしいな。眠くなかったはずなのに、いつの間にか寝ちゃってたんだ……)


 種族が『天使』であるミコトは、睡眠を必要としていない。

 ただ身体を休めるために、横になっただけなのに。

 それなのに、寝入ってしまった自分に対して、ミコトは小さく驚いた。


(この世界に来て、ゆっくりと眠ることも出来ていないし……。自分では分からなかったけど、疲労が限界だったのかな)


 そんなことを思いながら、ミコトは固まった身体を解すように伸びをする。

 すると、大きくなった翼がローブに引っかかって、十分に伸びが出来ないことに気が付く。



「……邪魔だなぁ」


 とミコトは思わず呟いた。


 その言葉に、クロエが小さく笑った。


「前のボタンを外せば、多少は楽になるじゃろ」

「あ、そうですね」


 クロエの言葉に、ミコトは素直に頷いた。

 ミコトはボタンの留め具を外して、ローブを肩に羽織るようにする。

 すると、ボタンによって押さえつけられていた翼が広がって、持ち上げられたローブの下から淡い光が周囲に漏れた。


「……光が漏れとるの」

「そう、ですね。やっぱり、ボタンを外すのはダメみたいです」


 とミコトはそう言ってため息と共に再びボタンを閉じた。



 その様子を見ながら、クロエがミコトに問いかける。


「それにしても、本当に大きくなったの」

「そう、ですね。【神の光楯(アイギス)】を取得してから、大きさが顕著になりました」


 言って、ミコトはスマホの画面へと目を向ける。


「今のMPが80ですね。クロエさん、【回復(ヒール)】します」

「頼む」


 ミコトは、クロエへと【回復】をかける。

 クロエのHPは最大170に対して、現在数値が62と半分を切っていた。

 ミコトは、【回復】を四回使用してクロエのHPを全て回復させると、ゆっくりと息を吐いた。


「ユウマさんのHPはいくつでしたっけ」

「直前にみたステータスじゃと……。最大160の、現在数値51じゃったな」

「それじゃあ、ユウマさんも四回ですね」


 そう言って、ミコトはユウマへと【回復】を使用する。



 クロエは、ミコトがユウマへと【回復】を使用するのを見ながら、ミコトへと問いかけた。


「のう、ミコトよ」

「何ですか?」

「お主、恐怖の感情を失ったと言っておったな」

「……そうですね」

「お主が失ったのは、本当に恐怖だけか?」

「どういうことですか?」


 ミコトが、ちらりとクロエに視線を向けた。


 クロエはミコトを見つめて、言葉を続ける。


「お主が使っておったあのスキル。感情を捧げるとあった。この理不尽がまかり通るこの世界で、失った感情が本当に一つだけだとは、我はどうしても思えんのじゃ」



 それは、クロエが獲得した【直観】による違和感。

 スキルにより強化されたクロエの第六感が、その言葉をミコトへと投げかけていた。



「………………」



 ミコトは、その言葉に口元へと笑みを浮かべた。

 ユウマを癒す光がゆっくりと収まり、ミコトはクロエへと顔を向ける。



「恐怖、だけですよ」


 と、ミコトはクロエに向けて言った。



 クロエはミコトの目をジッと見つめ、やがて小さく息を吐く。


「ならば、よい。すまぬな、変なことを聞いて」

「いえ。大丈夫ですよ」


 とミコトは笑った。


 クロエは、その笑みに目を向けると、小さく頷く。


「それじゃあ、我は眠る。回復、助かったのじゃ」

「いいえ、とんでもないです。それじゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 ミコトとクロエは言葉を交わし、やがてクロエも眠りに落ちた。




 その息遣いを聞いて、ミコトはゆっくりと息を吐く。



「……言えませんよ」



 ミコトは小さく呟く。


 神の御前で、罪の告白をする咎人のように。

 もしくは、誰かからの贖罪を求めているかのように。


 ミコトは、ポツリとその言葉を呟いた。



「私がもう、心から笑うことが出来なくなってる……だなんて」



 そう言って、ミコトは笑う。

 口元に笑みを張り付けて、誰にも見られず笑顔という行為を練習する。


 かつて自分にあったその表情を。

 種族スキルを獲得し、代償として失ったその表情を。

 【直観】を取得したこの二人でも、決して悟られることのないどこまでも精巧で、どこまでも完璧な作った笑みを浮かべる。



「良かった。ステータススキルの『模倣』が、作り笑いにも働いてくれて」



 そう呟いたミコトの言葉は、夜の闇に溶けて消えゆく。

 彼女の独白は、誰にも知られず消えていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 感情を失ったということは今後水浴びを覗いても怒られないということですね
[一言] ミコトはロボットにならなくていいかもしれません......
[良い点] あれ? 案外、人間ってアタリ種族では・・・? ホラ種族特性以外にデメリットって(今の所)無いし! [気になる点] これがクソゲークオリティ・・・ [一言] ミコったん・・・つら・・・。 そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ