六日目・深夜 それぞれのスキル
デスグリズリーとの戦闘を終えて、俺たちは身体に残る疲労感と痛みに顔を歪めながらも、現状の把握を行うことにした。
まず、デスグリズリーを倒しても報酬を知らせるアナウンスはなかった。
これは、まあ……。分かってはいたことだ。
デスグリズリーとの戦闘は、クエストではない。
言ってしまえば、唐突にエンカウントしたボスモンスターだ。
クエストでない以上、報酬を知らせるアナウンスもない。
あまりのそのクソゲーに、俺たちは嘆息するしかなかった。
だが、報酬が出なかったが獲得したものはある。
経験値だ。
あれだけのモンスターを倒したのだから、レベルも大きく上がっているだろうと、俺はミコトから預けていたスマホを受け取って、ステータス画面を確認する。
一通り自分のステータスを確認して、それから俺たちは互いのステータスを見せ合った。
古賀 ユウマ Lv:30 SP:40
HP:41/150
MP:3/66
STR:77(+8)
DEF:61(+6)
DEX:59(+6)
AGI:97(+10)
INT:61(+6)
VIT:61(+6)
LUK:104(+10)
所持スキル:未知の開拓者 曙光 星辰の英雄 夜目 地図 気配感知 直観 雷走 集中強化 瞬間筋力増大 視覚強化 空間識強化 刀剣術 / 一閃
種族同化率:18%
柊 ミコト Lv:29 SP:20
HP:43/78
MP:6/123
STR:43
DEF:44
DEX:42
AGI:55
INT:125
VIT:42
LUK:47
所持スキル:天の贈り物 回復 聖域展開 神の光楯 天恵 遅延 夜目 直観 槍術
クロエ・フォン・アルムホルト Lv26 SP:25
HP:62/170
MP:27/42
STR:81
DEF:86
DEX:63
AGI:73
INT:42
VIT:87
LUK:62
所持スキル:暗夜の支配者 吸血転化 身体変化 暗闇同化 生命吸血 闇の眷属 夜目 直観 免疫強化 格闘術 / 連撃
俺とミコトはレベルが四つ、クロエは五つレベルが上がっていた。
それぞれ、エルダートレントで獲得した報酬によるスキルの他に、また新しくスキルを獲得しているようだ。
画面をタップして、報酬によって獲得したスキルも含めて、改めて効果を確認する。
≫【気配感知】
≫研ぎ澄まされた感覚は、やがて全能と錯覚するほど研ぎ澄まされた感覚となった。
≫スキル所持者は、研ぎ澄まされた感覚によって全ての気配を感知することが出来るようになる。
≫【直観】
≫鍛え上げられた第六感を持つ者の証。
≫優れた第六感は未来予知にも等しい効果を生み出す。スキル所持者は、第六感による感覚が強化される。
【気配感知】は俺だけが獲得したスキルだ。
おそらく、【集中強化】や【視覚強化】【空間識強化】によって感覚を研ぎ澄ませ続けていたからだろう。
加えて、デスグリズリーが発する殺意と濃厚な死の気配を当てられ続けた結果、このスキルを獲得したに違いない。
【直観】は、俺たち三人ともが獲得していた。
効果は、第六感の強化。簡単に言ってしまえば、勘が良くなるスキルだ。
極限の戦闘を行う中で、直観による危機回避が働くようになれば、これから先の戦闘での生存率は大幅に上がる。
単純だが、非常に嬉しいスキルだった。
≫【神の光楯】
≫天の御使いは、自らの感情を捧げることで神から御業を授かった。
≫神から授かった楯を出現させることが出来るようになる。その防御力は、スキル使用者の精神に影響する。
≫【天恵】
≫神により与えられた御使いの力。種族同化率が50%を超えることで使用が可能になる。
≫たった一度だけ、対象の相手に加護を与えることが出来る。
【神の光楯】、【天恵】はミコトが獲得したスキルだ。
その取得条件を見る限り、どちらも種族スキルで間違いない。
獲得した種族スキルの影響なのか、ミコトの背中は大きく膨らんでいる。
その膨らみに俺が目を向けると、ミコトは少しだけ困ったように眉根を寄せて、
「もう、このローブじゃ隠せない大きさになりましたね」
と小さく呟いた。
「種族スキルを獲得したことで、身体が天使により近づいたのじゃろうな。それよりも、気になるのは【神の光楯】じゃ」
とクロエは呟く。
「取得条件、だよな」
と俺はクロエの言葉に言う。
ミコトは、俺とクロエの言葉に口元に笑みを浮かべると、ゆっくりと口を開いた。
「……デスグリズリーとの戦闘が始まって、私の種族同化率が上昇していくにつれて、ずっとありえないはずの声が聞こえていたんです」
「声?」
「……はい。ユウマさんを守れ、守れって。始めはその声を無視することが出来たんですけど、徐々にその声は無視できないほどに大きくなって――。ユウマさんが傷ついた時に、その声は言いました。〝守りたいなら、全てを差し出せ〟って」
「まさか――」
と俺は呟く。
その言葉に、ミコトは頷いた。
「そうです。私は――、あの状況を切り抜けるために、その言葉に頷きました。その瞬間に、私の中から恐怖が消えたんです。おそらくですが、私が失った感情は〝恐怖〟。それを失うことで、手に入れたスキルが【神の光楯】です」
ミコトはそう言うと小さく笑った。
「誰かの命を守るために、恐怖する必要すらない。『天使』という種族は、そういう種族なのでしょうね」
その言葉に、俺は何も言うことが出来なかった。
ミコトのスキルがなければ、俺たちがデスグリズリーに勝つことは決して出来なかった。
ミコトが自らの感情を捨ててまで手に入れたそのスキルに、俺は命を救われた。
それは、俺だけでない。
クロエも、ミコトのスキルがなければ命を落としていたかもしれないのだ。
だからこそ、俺たちは何も言えない。
この場で、彼女の決意と覚悟を安易な選択だったと言うべき権利は、俺たちは何一つ持っていなかった。
「話題を、変えましょう」
とミコトは重たくなった空気を換えるように、小さな笑みを浮かべてそう言った。
捨てた感情が戻るのかどうか分からない。
これ以上、彼女が何かを捨てて何かを得る、なんて状況にはしてはならない。
そう思い直して、俺はミコトに頷きを返す。
「ミコト、【天恵】っていうスキルなんだが、出来れば使う機会がないようにしてくれ」
「そう、ですね。同化率50%以上で使用可能なんて、私も使いたくないです。……効果は気になりますけどね」
とミコトは言った。
――たった一度だけ、加護を与える。
そんなシンプルな謳い文句が書かれているスキル効果だが、使用条件が最悪だ。
俺は、そのスキルに眉根を寄せるとミコトのスマホから視線を逸らす。
それから、俺たちはクロエの獲得したスキルを共有する。
≫【生命吸血】
≫暗夜の支配者に与えられる命の恩恵。
≫吸血した際に、スキル保有者の最大HP30%を回復する。スキルの再使用には1時間が必要。
≫【闇の眷属】
≫人間から贈られるその血液の褒美に、暗夜の支配者は自らの力の一端を貸し与えた。
≫特定種族の血液を取り込んだ際に、その吸血を行った相手にステータス20%増加の補助効果を与える。使用時にMPを15消費する。
≫連撃
≫自らの身体を武器として扱い、技術を高めたことでその技術は一つの技となった。
≫打撃による連続した攻撃が続くことで、その連撃は攻撃が続いた数だけ威力向上の効果を得る。
クロエの取得したスキルを見て、俺は思わず唸った。
――強い。あまりにも強すぎる。
【生命吸血】は時間による制限はあるが、確実な回復手段として確立できるし、【闇の眷属】を用いればバッファーとしても活躍できる。
さらに、持ち前のステータスの高さを活かして【連撃】を使えば、前線で強力な敵を相手に立ち回ることが可能。
〝吸血〟という行為が【生命吸血】でも【闇の眷属】でも必要だが、俺とパーティを組んでいる現状、その行為を行う相手に困ることはないだろう。
「これで昼間が無敵なら、言うことないんじゃが」
とクロエが笑う。
「それで昼間も満足に動けたら、手に負えねぇよ」
と、俺は笑いながら言い返すことしか出来なかった。




