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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 希望の失楽園と終末の先行者

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六日目・深夜 絶望に抗う4



「【遅延】、一秒!」



 【神の光楯】を解除したミコトが、すぐさま【遅延】を発動させた。

 ミコトの眼前へと迫るデスグリズリーの腕が、一瞬の動きを鈍らせる。



「ッ、させぬッ!」


 クロエがデスグリズリーの腕を横から叩いて軌道を逸らした。

 腕はミコトの頬を掠り、皮膚が裂けて血が溢れた。



「邪魔ダァッ!」


 デスグリズリーが吼えて、クロエへと蹴りを放った。

 クロエはその蹴りをバックステップで躱すと、すぐに地面を蹴って前に飛び出す。



「【遅延】、一秒!」


 再度、ミコトがスキルを発動させる。

 カウンターを放とうとするデスグリズリーの動きが遅れ、クロエはその迫る豪腕を半身を逸らして躱した。


「ッ!」


 懐に潜り込んで、クロエが足を踏み込む。

 デスグリズリーが足を振り上げ、懐に飛び込んできたクロエに蹴りを放とうとする。

 俺は、その動きに合わせて前に飛び出した。



「――させねぇ、よッ!!」



 クロエのスキルによって、ステータスがさらに強化されたからか、身体が羽のように軽い。

 一息でデスグリズリーの背後へと回り込んで、俺はデスグリズリーの膝裏へと野太刀を振るった。


「グッ!」


 足を振り上げた体勢で、軸足を斬られたデスグリズリーがよろめく。

 その身体に向けて、クロエが体重を乗せた拳をデスグリズリーの心窩部へと打ち込んだ。


「――ッ」


 毛皮越しの衝撃が、デスグリズリーの口から唾液を飛ばした。

 だが、デスグリズリーはすぐにその獰猛な牙を剥くと、クロエに向けて大きく口を開く。



「【遅延】、一秒!」



 その瞬間、ミコトによるスキルがデスグリズリーを襲った。

 クロエは、デスグリズリーの腕のない右側へとすぐに跳び退って、その攻撃を回避する。

 入れ替わるように俺はデスグリズリーの左へと移動をすると、左手に持つ野太刀を上段に構えた。


「ッ、ぁあッ!」


 柄を握り締め、一気に振り落とす。

 刃はデスグリズリーの左腕に吸い込まれて、その毛皮を裂いて筋肉へと到達する。

 腕の半ばまで刃は侵入すると、切断には至らず勢いが止まった。



「くッッそ!!」


 毒づきながら、俺は刃を引いてすぐに後退をする。



 だが、デスグリズリーはそれを許さない。

 半ばまで断ち切れたその左腕の痛みに、烈火の如く燃え上がる憎悪の雄たけびを上げると、血を噴き出しながらも俺へとその鋭い爪を振るった。


 すぐさま、俺はその振るわれる爪へと野太刀をぶつける。



 ――ガキィンッ。


 という甲高い音と共に、野太刀と死神の爪がぶつかった。



「「――ッ!」」



 俺とデスグリズリー。

 互いが口元に悔しさを滲ませる。


 俺は、その一撃でデスグリズリーの爪を砕けなかったことに。

 デスグリズリーはその爪で俺へと攻撃ができなかったことに。


 俺たちは、互いに視線を交差させて同時のタイミングで跳び退った。



「【風爪】!」

「【神の光楯】!!」



 デスグリズリーが腕を振るい、ミコトが光楯でそれを防ぐ。

 楯の後ろから俺とクロエが飛び出して、スキルを使用するために腕を振るったデスグリズリーへと一直線に向かう。



「「っ!」」



 俺たちは短く息を吐きながら、デスグリズリーの左右から同時に上段蹴りを繰り出した。



「遅イ!」


 とデスグリズリーが叫び、俺たちの蹴りをしゃがんで躱す。


 躱した勢いそのままに、デスグリズリーがぐるりと身体を回転させて俺たちに足払いを掛けてくる。


「お前もなッ!」


 と俺は言って、その足払いを仕掛けてくるデスグリズリーの右足に向けて野太刀を突き下ろした。



「グぁッ!」



 野太刀は毛皮を貫通して、その足に突き刺さった。

 だが、その感触は浅い。

 デスグリズリーがその場から転げるように回避を行い、突き刺した刃は容易にその肉から抜ける。


 けれど、デスグリズリーの足に刃を入れたのはこれで二回目。


 致命傷は未だ与えられていないが、着実に俺たちはデスグリズリーを追い詰めていく。

 デスグリズリーは俺たちから素早く距離を取ると、ぼたぼたと血を流しながら俺たちを見据えた。



「アァ、本当ニ、忌々シい人間ドもだ……」



 呟き、デスグリズリーがゆっくりと呼気を吐く。

 デスグリズリーが呼気を吐き出すごとに、周囲に充満していた死の気配が消えていく。


 それはまるで、俺が戦闘の前に行うルーティンのように。


 激しい戦闘を繰り返し、徐々に追い詰められながらも、デスグリズリーは今なおこの戦闘を通じて成長をしているかのように。

 デスグリズリーは、殺意と狂気を自らの力へと変えていく。



 そして、デスグリズリーが息を吐き出し始めて数瞬もしないうちに、夜の森から死の気配が消えた。



「――――――――」



 耳が痛くなるほどの静寂。

 デスグリズリーは、全身から漏れだしていた殺意と狂気を全て消して――いや、自らの内側に全て押し込めて、ゆっくりとその言葉を呟いた。




「【()()()()】」




「なッ!?」


 デスグリズリーが吐いたその言葉に、俺は耳を疑う。

 ――【集中強化】。

 人としての限界を超えて発揮されるその異常な集中力は、これまで何度も俺たちの窮地を救ってきた。

 そのスキルを、目の前の化け物が使用した。

 その事実に――そのスキルの強力さが分かっている俺たちは、一瞬だけ動きを止めてしまう。



「グルルゥゥ…………」



 デスグリズリーが小さく唸った。

 瞬間、張り詰められた糸のように冷たい殺気の刃が俺たちを襲う。



「ッ!? 【神の光楯】ッッッ!!」



 すぐに、その殺意に動いたのはミコトだった。

 デスグリズリーが動き出すよりも先に、ミコトは【神の光楯】を発動させる。

 光の楯が俺たちを守るべく出現して、夜の闇を聖光とでも言うべき光が周囲を照らす。



 ――次の瞬間、その聖光が瞬く燐光へと変わった。



「ッ!?」


 燐光とともに、衝撃が俺たちを襲う。

 デスグリズリーによる一撃だ。

 デスグリズリーは血を流し機動力を削がれながらも、その痛みを深い集中力で無視をして、ミコトが発動した【神の光楯】へと左腕を振るって衝撃により空気を震わせた。



「クソ、ゲーがァアッ!!」



 言葉を吐き捨て、俺はすぐさま【集中強化】によって得られる集中力をさらに高めた。

 この絶望を打ち破るために、目の前の化け物へと集中して意識を向ける。

 自らの中へと意識を落とし込んだ俺は、すぐに【神の光楯】の前に出た。



 ≫≫システム:種族同化率が上昇しています。あなたの同化率は現在45%です。



 ――ミコトが預かる俺のスマホからのアナウンスが流れた。



 デスグリズリーが飛び出してくる俺に気が付き、すぐにその左腕を振るってくる。

 俺はその腕を見据えて、しっかりとその攻撃と見切り回避する。

 回避と同時に左手を振るって、野太刀を中段から薙ぎ払う。

 デスグリズリーはその刃を()()()()、攻撃をしっかりと回避し、カウンターを放つように俺の首を刈り取るかの如くハイキックを放ってきた。

 俺はその蹴りに合わせて上体を倒すと、デスグリズリーと同じようにハイキックを行う。



 俺とデスグリズリー。両者の蹴りがぶつかり、衝撃でまた空気が震えた。



 一瞬にして数合の打ち合い。


 俺と同じ、強化された集中力によって時間感覚が延ばされた世界で、俺たちはさらに攻防を繰り返す。



 蹴りを放ち、避けられ、カウンターで爪を振るわれ、野太刀で受ける。

 同じ土俵に立った俺たちは、全力で相手の命を刈り取りに掛かる。


 俺の野太刀はデスグリズリーの身体を引き裂き、デスグリズリーの爪が俺の肌を傷つけていく。


 クロエのスキルによってステータスが向上した影響で、もはや互いの実力は拮抗している。

 加えて、互いに左腕しか使えない。

 身体はボロボロで、互いに限界が近い。

 だからこそ、俺たちは眼前の化け物を倒すべく全ての力を振り絞る。


 何度も、何度も俺たちはぶつかり合う。

 一瞬の判断ミスが命を削り、致命傷になる。

 文字通り、死力を尽くして互いを削り合うその打ち合いは、すぐに破綻した。



「【遅延】、五秒!!」



 ミコトによる行動阻害。

 対象の行動を30%阻害するというその強力なスキルは、実力が拮抗した集中による時間感覚が延ばされた世界では、確定的な大きな隙となった。



「MP0です!」


 とミコトが叫んだ。



 その声に応えるべく、俺はデスグリズリーに向けて刃を上段に構える。


「ぅぉおおおおおおおおッ!!」


 気合の叫びと共に、俺は真っすぐに刃を振り下ろした。



 刃は寸分たがわず半ばまで切り裂いた左腕の傷へと吸い込まれて、その残りを今度こそ切断した。



「グ、ァアアアアアアアアッッ!」



 デスグリズリーの悲鳴が響く。

 その悲鳴に追撃を加えるように、クロエがデスグリズリーへと迫り、腰に溜めた両手の掌底をデスグリズリーの腹へと打ち込んだ。



「――グフッ」



 度重なるダメージで内臓が潰れたのか、デスグリズリーの口に血が溢れる。

 クロエは素早くその場から飛び退きながら声を張り上げる。



「ユウマッ!! トドメじゃ!!」

「ああッ!!」



 俺は、野太刀を構えてデスグリズリーへと向けて駆けた。

 デスグリズリーは全身から血を溢れさせながら、それでもなお倒れない脅威の生命力によってふらつく身体を支えると、大きく足を振り上げる。



「【風――爪】!」


 右足の爪で、デスグリズリーはそのスキルを発動させる。



 地面を割って飛んでくる爪撃を、俺は半身を逸らしながら避けた。

 【集中強化】を使用した俺たちの感覚は同じ。

 集中力による時間感覚が延ばされる世界を共有し、ステータスも拮抗した俺たちの実力に違いがない。


 ミコトのMPは底を尽いて、クロエは俺の邪魔とならないよう距離を取った。


 ここからは、俺とデスグリズリー最後の一騎討ち。

 俺は全てを賭けて、最後の一刀に力を込める。

 実力が拮抗しているからこそ、この勝敗はもはや運命の神に委ねられてしまった。




 ――――だからこそ俺は、隠しておいたそのスキルを発動させる。




「【雷走】、三秒ッ!!」



 エルダートレントによるレベルアップ。

 そこで上昇したINTにより、MP上限が増えて加算されたMP。

 そのすべてを出し切って、俺はデスグリズリーの元へと駆ける。



「――――ッ!?」



 デスグリズリーが、驚愕に目を見開く。

 AGIが上昇し、神速の如き速さとなった俺に対応しようと右足を振り上げる。


 ――だが、その動きはもう遅い。


「ふっ!」


 息を吐いて、デスグリズリーの首へと目掛けて俺は弾丸のように飛ぶ。

 そして、腰だめに構えていたその刃を、全ての力を振り絞ってその首に向けて振り抜いた。


 夜闇に煌めいた銀閃は、デスグリズリーの首を半分ほど断ち切る。

 だが、一撃で首を落とすことが出来ないのは、事前に左腕を落とした際に分かっていたことだ。

 俺は、地面に降り立つとすぐさま反転してその首に向けて刃を返した。


 初撃の銀閃の残像と、追撃の銀閃がまるで獣の牙のように交互に重なる。

 


 銀閃はデスグリズリーの首に吸い込まれて、残されたその肉と骨を全て断ち切った。



「が―――――」


 と声を残して、デスグリズリーが目を見開く。

 すぐにその瞳から狂気と殺意に染まる光が消えて、デスグリズリーの首は地面へとゆっくりと落ちた。


 次いで、首のない巨体が大きく傾いて、ついにその身体が地面へと沈み込む。




 巨体はゆっくりと色を失い、まるで最初からそこには何も存在していなかったかのように空気へと溶けて消えた。





「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」




 残心を解いて、俺は荒く息を吐き出す。

 野太刀を握ることも、もう限界だった。

 俺は野太刀を地面に落とすと、緊張の糸を解くようにその場へと座り込んだ。



「はぁ、はぁ、はぁ……。ふぅぅぅうううう…………」



 まるで、重しを抱えているように身体が重たい。

 全身が酸素を求めている。

 心臓は早鐘のように鳴り続けて、呼吸をすれば顎は苦しさで上を向いた。


 ――何もかもが苦しい。


 でも、俺は生きている。

 苦しさも、全身を襲う痛みも、絶望を乗り越えた安堵と達成感も全て。

 今この瞬間、ここにある。



「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 荒く息を吐き出していると、俺の背中に微かな衝撃が襲った。


「良かった……。生きてる……。生きてます」


 涙で濡れたその声は、背中に翼を持つ少女のもの。

 背中から伝わるじんわりとした温かさが、俺たちが互いに生きていることを実感させる。



「……お疲れ様」


 とクロエが俺の横に座り込んだ。



 見れば、彼女の顔には濃い疲労が浮かんでいた。

 クロエは、俺の背中で安堵の涙を流し続けるミコトへとちらりとした視線を向けると、口元に小さな笑みを浮かべて手を掲げた。


 それが、ハイタッチなのだとすぐに気が付いた。


「ああ、お前も、な」


 と俺も小さく笑って、手を挙げる。



 パンッと乾いたその音が、長い長いボス戦が終わったことを知らせてくれる。



「あ、ズルいです! 私もハイタッチしたいです!」


 とミコトが俺たちに向けて言った。



 その言葉に、俺とクロエは顔を見合わせ、また笑う。

 その笑顔につられて、その言葉を口にしたミコトも小さく笑う。



 静かな夜の森に、小さな笑い声が響き渡る。

 絶望を乗り越え、生を掴み取った。

 その事実に、俺たちは互いの顔を見合わせて静かに、けれど確かに、互いの無事を喜び分かち合ったのだった。




前章から続くボス戦、これにて終了です。

戦闘良かった! と思っていただけましたら評価していただけると嬉しいです。


また、 兎のしっぽ様より嬉しいレビューを頂きました。

本当に、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポが良くて読むのが楽しい [気になる点] グリズリーを含む敵がレベルアップ自体はわかるのですが、 格下の雑魚を虐殺してレベルアップしたのは納得がいかないです
[一言] (何故かブックマーク解除されてて更新えたったのかなと思ってたマンです(馬鹿) ギリギリの勝利すぎる…致命的な欠損をしてないのが嘘みたいだ…
[良い点] 不意打ちの更新嬉しい! 楽しかった!
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