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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 希望の失楽園と終末の先行者

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六日目・深夜 -プロローグ-

第四章、開幕! お待たせしました。



 ――さあ、早く殺せ。



 気を抜けば、そんな声が聞こえてくるようだった。

 喉元に鋭く突き付けられた絶望によって、呼吸が浅く早くなる。

 ふらりと現れたその理不尽に、怒りに燃えて思考が焼き付く。


 俺たちがいったい何をした。


 ただ精一杯生きているだけなのに。

 たったそれだけなのに、この世界はそれさえも許してくれない。



「…………ッ」



 唇を噛みしめ、俺は目の前に現れたソイツを睨む。

 全身から放つ濃厚な死の気配。

 狂気と殺意に染まる赤い瞳は俺たちを捉え、鋭く伸びたその両手の爪は死神の大鎌を思わせた。


 MPは枯渇し、限界突破(ブースト)による反動が身体を苛む。


 レベルは上がったが、それでもアイツには足りない。

 ステータスを上げようにも、その隙さえも許されない。


 一歩でも動けば、それが死の合図だ。

 この世界で必死に生き延びて、何度も死線を潜り抜けたからこそ分かる。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それが分かっているはずなのに、俺の中の『人間』は、何度も目の前に現れたソイツを殺せと囁き続けていた。



「ミコト、クロエ」


 俺は出来るだけ唇を動かさずに、傍にいる二人の名前を呼んだ。


「……はい」

「……なんじゃ」


 と二人が俺の呼びかけに答える。


 ミコトの声は掠れて、クロエの声は震えていた。

 俺と同じ様に、二人も恐怖を感じているのは明らかだった。


 俺はゆっくりと、二人に話しかける。


「今の俺たちじゃ、アイツに勝てない。勝てるはずがない。レベルアップで獲得したSPを割り振ろうにも、そんな時間をアイツが許すはずがない。それに――」


 とそう言って、俺は傍で腰を抜かしたその人へと、一瞬だけ目を向けた。



 そこには限界を超えた恐怖によって錯乱し、うわ言のようにぶつぶつと何かを呟き続けている浦野さんがいる。その視線は合っておらず、失禁によって地面を濡らし、唇の端に泡が浮いたその様子を見るからに、精神が壊れてしまっているのは明らかだった。



「この人が傍に居れば、俺は全力でこの人を守ってしまう。いや、守らなければと思ってしまう」

「〈救世〉の影響か」


 とクロエが言った。



「そうだ。それに、俺たちを含めて誰かが怪我をしたとき、ミコトの種族命題が働いてしまう」

「そう、ですね。目の前で誰かが死にそうになれば、私はなりふり構わずお二人を助けると思います」


 ミコトはゆっくりと、俺の言葉にそう答えた。



 ミコトの種族命題は〈他者生命の尊重〉だ。

 『人間』が言うには、ミコトの命題である〈他者生命の尊重〉は、ミコトが認めた他者という対象が怪我や生命の危機に陥った時、ミコトは自分を差し置いてでもその相手を助けようと――その命を救おうとしてしまう、とのことだった。


 新宿では、ミコトの他者という対象は俺一人だけだったらしいが、今はそれが俺だけなのかどうかも分からない。


 ……だが、これまでのミコトの行動を見る限り、クロエもミコトの他者に入っているのは確かだろう。



 『人間』は、ミコトの対象がモンスターから俺へと変わったと言っていた。

 それはつまり、他者という存在がモンスターからプレイヤーへと変わったということだ。



 ここにいるプレイヤーは、ミコトを除いて三人。

 ミコトにとっての〈他者〉は、ここには三人存在している。

 同時に、その〈他者〉は俺の〈救世〉で助け守るべき存在でもある。



「ミコト、お前がさっき取得したスキルは使えそうか?」

「いえ、さきほどのスキルは……。今は、使えないものです」

「どんなスキルなんだ」

「【天恵】という名前のスキルでした。私の種族同化率が50%を超えなければ使用が出来ないスキル……のようです。効果は分かりません」



 ……種族同化率が関係したスキルなんてものも存在しているのか。

 50%を超えれば使用可能になるスキルなんて、それはもはや俺たちプレイヤーに向けて与えられたスキルではない。俺たちの中に存在している種族へと向けられたスキルだ。

 それがどんな強力なスキルだろうと、そのスキルだけは絶対に使わせないようにしなくてはならない。



「そう、か」


 ミコトの言葉に、俺は小さく息を吐き出した。


「…………」


 状況を整理すればするほど、絶望が重く圧し掛かってくる。



 どうすればいい。

 どうすれば、俺たちは生き延びることが出来る?

 どうすれば――――。





 ――――いや、ある。





 一つだけ、この絶望的な状況を打破できる方法が存在している。




 それは、俺の種族同化率を上昇させること。


 俺が消えて、アイツが俺になればあるいは――。




「ユウマさん」




 思考の渦に沈み込んだ俺を、ミコトの声が掬い上げた。



「ユウマさんが何を考えているのか、私には分かりませんが……。でも、それはきっと間違えています」


 ミコトは、はっきりとした口調でそう告げる。


「きっと、貴方のことだから()()()()()()()()()と考えていることでしょう。でも、それは間違っています。仮にその方法で私たちが助かったとしても、貴方だけが助かっていない。私は……。それを認めません」


「ミコト……」


「私の種族を分かっていますよね? あなたが自ら死に向かうなら、私は自分の全てを賭けて、全力であなたを救いますよ」


 それは、ミコトの本心と種族による思考が混ざった言葉だった。


「……ッ」


 その言葉に、俺は唇を噛みしめる。



 ――そうだ。



 ここで俺が『人間』へと身体を明け渡したとしても、状況は変わらない。

 アイツを殺すために俺が死に目に合えば、今度はミコトが全力で俺を救う。


 それこそ、文字通り全てを賭けて。


 自らの命ではなく、〈他者〉という存在のためにミコトは全てを投げ出してしまう。

 それは、それだけは何としてでも防がねばならない。



 『人間』としてではなく古賀悠真という人間として、俺は彼女に対して自分を殺してでも俺を救え、などと傲慢な選択を取ることが出来ない。



「……すまん。だけど、この状況をどうにか出来ないと――」


 と俺がミコトの言葉に答えたその時だ。



「グルルルルゥウウウウウウウウ…………」



 死神が喉を鳴らした。

 それから人間が喉の調子を確かめるように、自らの顎の部分を手でさすると、ゆっくりと口を開く。



「ォ、ぉお、ナカまの、ぅラみ」



 獣の唸り声ではない。

 地を這うような低く響くその声は、聞き取りにくいが人語だった。



「ブじに、こォ、コから、でラレるト、オモうな。すグには殺サず、じっくリと、ジックりと、お前タチ、を殺しテやる」



 そして、ソイツはニヤリとした笑みを浮かべた。

 その瞬間、この森に漂う死の気配がより一層濃くなる。



 俺たちを襲う殺気がさらに大きくなり、身体がさらに震えあがる。

 その気配に、クロエが震える声で言葉を絞り出す。


「……し、して。どうする、のじゃ。し、死ぬ覚悟で、戦うか? 我は、嫌じゃぞ」


「それは……。私も嫌です」


 とミコトは顔を青くさせながら言った。


「今は、まず逃げましょう。私たちの状況は、あまりにも不利です。全力で戦うことさえ出来ないこの状況で、無理に戦えば私たちはきっと……。死にます」


「……仮に逃げられたとして、俺たちがここから逃げればアイツはきっと、ギルドを襲う。ギルドにはまだ、プレイヤーがいる。アイツがプレイヤーを殺せば……。さらにアイツは化け物へとなるぞ。そうなれば、もう手が付けられない。アイツは今ここで殺しておくべきだ」


「その結果、ユウマさんが死ぬことになってでも、ですか?」


「ッ」


 語気を強めるように言ったミコトの言葉に、俺は言葉に詰まる。



 ミコトは、ゆっくりと言葉を続ける。



「あのモンスター……。デスグリズリーが、ギルドを襲いさらに強くなるという危険性は理解できます。なるべく早く討伐した方がいいというのも分かります。ですが、今は逃げるべきです。ここで戦えば、浦野さんはもちろん、私たちは確実に死にます。それは……。それだけは、絶対に避けるべきです。そうですよね?」



 ミコトはそう言って、恐怖を隠すように口元に小さな笑みを浮かべると、デスグリズリーから視線を逸らして俺を見た。



 そして、俺を見つめながらミコトは言う。



「だから、ユウマさん。()()()()()()()()()()()

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― 新着の感想 ―
[一言] コードギアスのスザクがギアス使って 能力値ブーストかけるような感じかな
[良い点] 緊張感が高まってまいりましたヨ! [気になる点] 妬まれたり恐れられるだけの曙光・回復・吸血転化なんかと違って、種族特性をパーティ外に知られると色々悪用出来そう。 [一言] このクソゲー、…
[一言] 更新再開ありがとうございます。 思考のデッドロックから強制的に抜け出す助けてくれと言う、魔法の言葉。
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