五日目・夜 最低保証
二人は東京駅の一階に居た。
半壊した駅の、崩壊し雨雲の見える瓦礫の傍。辛うじて雨風が吹き込まない屋根の下で、瓦礫を椅子にして座り込んでいた。
近づいてきた俺に気が付き、クロエがすぐに声を掛けてくる。
「戻ったか」
そう声を掛けてくるクロエは、なぜか元の姿に戻っている。
その姿で、瓦礫に腰かけて血液入りのペットボトルを飲むその姿は、どことなく様になっていた。
なぜその姿に戻っているのかを聞くとクロエは、
「秘密じゃ」
と言っていた。
どうやら、ミコトと女子会のようなことをしていたらしい。
その内容に興味がないわけじゃないが、聞くに聞けないその雰囲気に、俺は質問することを止めた。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
とミコトが言ってきた。
「クエストに向けて、いろいろと話を聞いた。簡単な森の地図も見た」
そう言って、俺は二人に浦野さんから聞いたことを話す。
二人は俺の言葉に相槌を打ちながら話を聞き終えると、考え込むようにして言った。
「……なるほど。つまり、私たちはボスモンスターを直接攻撃する役割ということですか。私たちが早くボスモンスターを倒せば、残りのギルドの人達の危険はなくなると」
「そういうことじゃな。しかし、まさか昼間に出ようとしていたとはな……。いや、それが普通なんじゃが、我にとっては結構厳しい条件になるところじゃったの。もし、ユウマが口を出してくれなければ、我は何もできなかった可能性すらある」
「そうですね。あとは、ギルドの人たちがどんな決断をするのか、ということですが……」
「そればっかりは待つしかないだろうな。ひとまず、今のうちに身体を休めておこう。ミコト、MPはまだあるか? 出来ればここで一度、全員のHPを回復しておいた方がいいだろ。昼からずっとモンスターと戦い通しでHPも削れてるしな」
ここは、駅内でも人目につかない外れた場所だ。
【回復】の光が漏れても、ここならば誰の目につくこともないだろう。
「ユウマさんのHPが減ってるのは、クロエさんと無駄に張り合ったのもありそうですけど……。まあ、いいですよ。休憩でMPを回復させる前に、ある程度使っておいた方が効率も良さそうです」
ミコトはそう言うと、俺の胸に両手を翳した。
「【回復】」
その言葉と同時に、俺は光に包まれて傷が癒される。
光が収まると、ミコトはクロエにも【回復】を使って、最後には自分のHPを回復した。
それから俺たちは、それぞれの時間を過ごす。
ついでに俺とミコトはレベルアップのSPを割り振って、空いた時間でステータスの調整を行った。
その結果、俺とミコトのステータスはこうなった。
古賀 ユウマ Lv:23 SP:30→0
HP:134/134
MP:57/57
STR:59(+6)→70(+7)
DEF:54(+5)
DEX:52(+5)
AGI:54(+5)→60(+6)
INT:41(+4)→54(+5)
VIT:54(+5)
LUK:89(+9)
所持スキル:未知の開拓者 曙光 星辰の英雄 夜目 雷走 集中強化 瞬間筋力増大 視覚強化 空間識強化 刀剣術 / 一閃
種族同化率:29%
俺は【雷走】と【一閃】のスキルのことを考えて、速度と攻撃を重視したステータスの割り振りにした。これまで上げていなかったINTも、【雷走】の獲得に合わせて上昇させておいた。
柊 ミコト Lv:22 SP:15→0
HP:64/64
MP:29/87→32/90
STR:34→36
DEF:33→35
DEX:32→35
AGI:41→45
INT:88→90
VIT:32→35
LUK:40
所持スキル:天の贈り物 回復 聖域展開 遅延 夜目 槍術
ミコトは全体的にステータスそのものを上昇させたようだ。
その中でもAGIが少しだけ頭を出しているのを見る限り、ミコトのスタイルは中衛での回避型援護のスタイルだろう。
そんなことを考えていると、俺はクロエがペットボトルの血を飲んでいることに気が付く。
見れば、その血は俺がクロエに渡したビッグフロッグの血だった。
「クロエ、その血を飲むとステータスが上がるんだよな? どのくらい上がったんだ?」
「ん? あー、まあそうか。気になるか。今さら、お主にステータスを隠しても仕方ないしの」
そう言うと、クロエは【吸血転化】によって上昇したステータスを見せてくれた。
クロエ・フォン・アルムホルト Lv16 SP:0
HP:120/120→122/122
MP:24/24
STR:46→48
DEF:60→61
DEX:42→43
AGI:53→54
INT:25→26
VIT:60→61
LUK:44→45
所持スキル:暗夜の支配者 吸血転化 身体変化 暗闇同化 夜目 免疫強化 格闘術
レベルの上昇もなく、万遍なく1から2の上昇をしている。
言葉で聞いて理解はしていたが、こうして実際に目の当りにすると【吸血転化】の凄さが分かる。
一つの種族で一回だけという制限はあるが、何せこの現実には至る所にモンスターがいるのだ。
モンスター事に縄張りの意識があるようだが、街をぶらつけばモンスターには確実に出会う。出会ったモンスターに対して、片っ端から吸血すれば着実にステータスも上昇していく。
手間はかかるが、確実に自分を強化できるスキルだと考えれば、なかなかに強力なスキルだ。
「そう言えば、お前の【吸血転化】はどういう計算で上昇しているんだろうな。俺の【星辰の英雄】は四捨五入で加算されてるけど、【吸血転化】の上昇が対象の3%の上昇だと一回の上昇が1にも満たない上昇量になるだろ」
「ああ、それについては我も一度考えた。おそらくじゃが、【吸血転化】を行った相手のステータスが低ければ必ず1の上昇、ある程度ステータスが大きくなればお主のスキルと同じように四捨五入となるようじゃ。じゃないと、このゲームを始めたばかりの我が倒したモンスターに【吸血転化】を使用して、全てのステータスが1ずつ上昇したことの説明が付かぬ」
ゲーム開始直後の俺たちのステータスは低い。
そのステータスでも倒せる相手ともなれば、確かにそのステータスも低いだろう。
それでもステータスが1上昇したとなれば、【吸血転化】の上昇率は1が最低保証されているということになる。
それを聞いていたミコトは、
「最低保証が付いてるなんて、それなんて神ゲーですか?」
と言っていた。
クソゲーの仕様に慣れてきて、少しでもまともなゲームシステムを聞くと確かに神ゲーと思う気持ちも分からなくもない。
だが、それは間違いだ。例えるなら、不良が捨て猫を拾うのを見て、他の人以上に優しい人間だと思うようなものに近い。
このゲームが神ゲーなら、俺たちはここまで頭を悩ませることになっていない。
ステータスを振り終えて、ミコト達と談笑をしていると俺たちの元へ一人の男性が近づいてきた。
金髪で、非常に整った顔立ちの青年だ。人離れしている美貌と言ってもいい。その見た目に驚いていると、耳が尖っていることに気が付いた。
「……エルフの種族じゃ。何度か出会ったことがある」
とクロエが低い声で俺たちに言った。
エルフの男性は真っすぐに俺たちへと近づくと、ニコリと笑って口を開く。
「助っ人の方々ですね? 浦野さんから伝言です。『話し合いの結果、今夜討伐に出ることに合意した。ストーリークエストを無事に受けたら、会議室へ来てほしい』とのことです」
「会議室?」
「あなた方が浦野さんと話し合いをした場所のことです」
とエルフの男性はそう言った。
それからエルフの男性は、
「では、確かに伝えましたよ?」
とそう言って俺たちの元から去って行った。
俺たちはその後ろ姿を見送ってから、顔を見合わせる。
「どうやら、何とか夜の間にストーリークエストに挑めそうじゃの」
とクロエは言った。
「今、何時ぐらいですかね?」
とミコトが言う。
俺はその言葉に自分のスマホを取り出すと、時間を確認した。
「……午後十時三分だ」
「あと二時間、ですか」
とミコトが呟く。
残り二時間。日付が変わると同時に、俺たちの三回目となるストーリークエストが――三度目の死闘が始まる。
表情を硬くするミコトに、俺は笑いかけた。
「大丈夫だ。俺たちは今日も生き残る。そうだろ?」
「……そう、ですね。その通りです」
ミコトはそう言って、小さく笑う。
すると、クロエが喉を鳴らす。
「まあ、ストーリークエストを受けるまで時間があるのじゃ。今の内に、出来るだけレベルをあげておいた方が無難じゃろうな」
そう言って、クロエは【身体変化】を使って、いつもの小さな身体へと変わった。
身体の調子を確かめるかのように、伸びをするとニヤリとした笑みを浮かべてくる。
その笑みに答えるように、ミコトが立ち上がりながら言った。
「そうですね。少しの間ですが、レベルを上げましょうか。ユウマさんはどうしますか?」
「二人が行くなら、俺も付き合うよ」
言って、俺は立ち上がる。
休憩を挟んだことで、昼間から続いていた疲労は回復している。
ストーリークエスト前の、最後のレベル上げだ。
出来るだけ多くのモンスターを狩ることにしよう。




