五日目・夜 チートの恩恵
東京駅へと戻る道すがら、俺はクロエに自分が持つスキル、【曙光】を簡単に説明した。
一度俺のステータスを見たからであろう、クロエは俺の話を聞くとすんなりと受け入れていた。
「なるほどの。お主のレベルとステータスの高さはそれが所以か」
とクロエは納得の頷きを返してくる。
【曙光】スキルを聞いて驚きがないところを見るに、クロエなりに俺のスキルのことを考察していたのだろう。
一方、俺はといえばクロエが持つスキルの説明を受けていた。
「【身体変化】、【暗闇同化】については以前説明したの。【吸血転化】はさっき説明した通りの内容じゃ。【暗夜の支配者】は、我がゲームを始める時から持っておったスキルじゃの。効果は……。簡単に言えば、夜の間だけスキルの獲得確率が増加するという内容じゃ」
「【免疫強化】は何のスキルなんだ?」
俺はクロエのステータス画面にあったスキルについて問いかける。
「ああ、あれは……」
そう言って、クロエは顔を曇らせた。
「初めて血を飲んだ時に獲得したスキルでの。本来、血というものは病気の感染源となりうるものじゃ。……おそらく、何かしらのウイルスなり菌なりを一緒に取り込んだのじゃろうな。気が付けば、そのスキルを獲得しておった。効果は、名前の通りじゃよ。体内免疫を活性化させて、いかなる病気にもならなくなるスキルじゃ」
便利だな、と俺は素直にそう思った。
薬など存在していない世界で、病気にならないというのはそれだけで大きなメリットだ。
取得条件を聞く限り、体内に何かしらの病原体を入れれば獲得しそうなスキルでもある。
……ただ、そのスキルが確実に獲得出来ない可能性があることを考えれば、真似しようとも思わない。失敗した時のリスクがあまりにも大きすぎる。
「……ああ、そう言えばクロエ」
「なんじゃ?」
「お前、なんでミコトの前で自分が化け物だって話をしたくなかったんだ?」
「……そのことか」
クロエは、俺の言葉に小さく笑った。
「血を飲む我も、翼が生えたあ奴も、元の人間という存在から考えればどちらも等しく化け物じゃ。我の言葉に、あ奴が自分自身を改めて元の人間とは違うことを思って、気にすることになるのではないかと思ったのじゃ」
どうやら、クロエなりにミコトに気を遣ったようだ。
相変わらずどこかズレた優しさだが、クロエらしいと言えばクロエらしい。
「俺には言っても良いのか?」
「お主になら、別に構わぬ。そもそも、お主は見た目が元の姿から変わっておらんじゃろうからな。そもそも、お主は我が血を飲むことを怖がっておらんかったじゃろ。ミコトは我が血を飲む仕草をすれば怖がったが、お主は平然としておったではないか」
クロエは、俺の言葉に小さく鼻を鳴らすとそう言った。
そんな会話をしていると、東京駅の姿が視界に入る。
すると、物々しい瓦礫のバリケードの前に、小さな影が立ち尽くしていた。
――ミコトだ。
ミコトは、俺たちの姿を確認すると駆け寄ってきた。
「ユウマさん、クロエさん!」
言いながら、ミコトは俺たちの前で立ち止まると思いっきり顔を綻ばせた。
「私のところにも届きましたよ! クロエさんがパーティに加入したって!!」
どうやら、俺のパーティメンバーでもあるミコトにも、クロエがパーティに加入した情報が届くようだ。
ミコトは俺とクロエの顔を交互に見ながら言う。
「どうやったんですか!? あれだけ、お互いに手を繋いでもパーティは組めなかったのに」
「それなんだけど、条件が違ったんだ」
と俺はミコトにパーティについて分かったことを話す。
ミコトは俺の話を一通り聞くと、頷きを返してきた。
「なるほど、そういうことでしたか……。確かに、私は出会ってすぐにユウマさんへと自分のステータスを見せてますね。パーティを組んだ時、私がユウマさんを信用していたのかと聞かれれば、正直今ほど信用していなかったですし」
とミコトは言う。
それからミコトは、クロエへとちらりと視線を向けた。
「それに……。すみません。私、実はクロエさんのステータス画面を一度見たことがあるんです」
「……いつじゃ? お主にステータス画面を見せた覚えはないと思うが」
「リッチとの戦いの時です。クロエさん、【回復】を受けてすぐに私の目の前でステータス画面を開きましたよね? その時に、実はちらっと見えてしまったんです」
「…………ああ、なるほど。あの時か。確かに、お主と距離が近いときに我は自分のステータス画面を見てしまったの」
とクロエは思い出したかのように言った。
「我はミコトのステータスを見せて貰っておったし、そうなると残りは我とお主だけで、我らがステータスを見せ合うだけで、我はお主らとパーティを組める状況じゃったのじゃな」
クロエはそう言うと、小さく息を吐いた。
ミコトはクロエの様子にちらりと視線を向けると、俺へと問いかけてくる。
「ユウマさん。パーティを組んだってことは、クロエさんにはユウマさんのスキルのこともすべて?」
「ああ、全部伝えたよ」
「そうですか。良かった。これで、クロエさんもユウマさんが持つチートの恩恵を受けられるんですね」
「どういうことじゃ?」
クロエはミコトの言葉に首を傾げた。
その言葉に、俺は答える。
「【曙光】の効果で、俺が倒したモンスターの経験値の量が増えるって言っただろ? パーティのおかげで、経験値が共有されてるから俺とパーティを組んでいればそれだけレベルが上がりやすいんだよ」
「ああ、そういうことか」
とクロエは頷いた。
元々ステータスの高いクロエだ。俺とパーティを組んでしまえば、あっという間に俺のステータスなんか抜かしてしまうかもしれない。
「あ、そう言えばユウマさん。浦野さんが、ユウマさんのことを探していましたよ」
「浦野さんが? 何かあったのか?」
「詳しくは話を聞いてませんが、ストーリークエストの前に、作戦を話し合っておきたいとのことです」
「まだ我らがストーリークエストを受けていないというのに……。気が早い奴じゃの」
呆れたようにクロエが小さく息を吐いた。
「あ奴、この辺りのストーリークエストが一つだけじゃと言っておったが、本当かの。これで違うクエストを我らが受けたらどうするつもりじゃ」
「まあ、そのあたりは大丈夫じゃないか? 俺とミコトはずっと一緒に行動してるけど、受けるクエストは今のところ同じだ。多分だけど、ボスモンスターの近くにいるプレイヤーにそのストーリークエストが送られているんだろうな」
「なるほどの。その場所のボスモンスターが討伐されるまで、ストーリークエストが発生しとることは間違いないじゃろうし……。この辺りのストーリークエストはこれだけじゃと、鬼のあ奴は言っておったか? となれば、あのギルドにおるプレイヤーは、全員が同じクエストを受けておるじゃろうな」
「全員同じ、ですか。……あれ? そう言えば、浦野さんはデスグリズリーがこの辺りに現れたのが二日前って言ってませんでしたっけ? ということは、あのギルドの人たちは、このゲームの三日目からずっと、同じストーリークエストを受けているということですか?」
「全員がそうではないじゃろうが、三日目から足踏みしておるプレイヤーも中にはおるじゃろうな。この辺りの、と言っておったのを聞く限り、『緑の古王』を受けて周囲のプレイヤーも自然とあのギルドへと集まったやもしれぬ。あのギルドにおるプレイヤーは、ストーリークエストそのものが初めてか、もしくは二回目。そのどちらかじゃろう」
「……なんか、そう聞くと急に断りたくなってきたな」
「じゃから言ったじゃろ。受けるのか? と。間違いなくあ奴ら、我らに寄生する気じゃぞ?」
「……そうだよな」
種族の影響で、思考にノイズが入っているからか、頼られると冷静に考えることが難しい。
クロエに言われて、このお願いがどれだけクソみたいな内容なのかが分かってしまう。
眉根を寄せる俺に、クロエは小さく息を吐くとフォローをするかのように言った。
「じゃがまあ、クゼに会う為じゃ。それに、【地図】スキルという便利なスキルの条件も教えてくれると言うではないか。寄生されるのはこの際、我はもう諦めた。せめて、ボスモンスターの経験値だけはしっかりと頂けばよかろう」
クロエはそう言って、クククッと喉を鳴らして笑った。
俺たちはバリケードを抜けて、東京駅の中へと入る。
相変わらず多くのプレイヤーでごった返す駅の構内を歩いていると、浦野さんが俺たちの姿を見つけて駆け寄ってきた。
「ああ、よかった。あまりにも帰りが遅いので、モンスターに襲われているんじゃないかと思って、今から探しに行こうかと思っていました」
その言葉に、クロエが片方の眉を小さく跳ね上げさせると俺たちにしか届かないような小さな声で呟いた。
「仮に我らがモンスターに襲われていたとしても、我らよりも弱いお主が探しに出たところで、二次遭難の可能性が広がるだけじゃろ。恩着せがましい」
元々、ギルドの助け合いという在り方に疑問を持っていたクロエは、そのまとめ役にもなっている浦野さんが相当嫌いらしい。
クロエは小さく鼻を鳴らすと視線を逸らした。
俺はクロエのその様子に苦笑をすると、浦野さんへと頷きを返す。
「大丈夫だ。それより、俺たちを探していたんだろ? ミコトから、作戦がどうとかって話を聞いたけど」
「ええ、そうです。一度、昼間に私たちが話し合いをした部屋へついてきてくれますか?」
その言葉に、俺はミコトとクロエへと目を向けた。
ミコトは俺に任せると言いたそうに、クロエはさっさと浦野さんの話しを聞いて会話を終わらせろとばかりに俺に視線を返す。
俺は二人の視線を受けて、浦野さんへと顔を向けた。
「……分かった。話を聞こう。ただ、俺だけで大丈夫か? 二人は結構疲れてるんだ。ストーリークエストの前に休ませてあげたい。浦野さんの話を聞いて、二人には俺から伝えとく」
「ええ、構いませんよ。ありがとうございます」
と浦野さんは小さく頭を下げると、俺を先導するように歩き出す。
俺は二人へと視線を向けると、
「先にどこかで休んでてくれ。あとで行く」
とそう言って浦野さんを追いかけた。




