五日目・夜 二人から三人へ
俺たち二人のスマホから同時に聞こえたその声に、俺たちは動きをピタリと止めた。
「今のは、なんじゃ? パーティがどうとか聞こえたが……」
クロエは突然のことに戸惑いが隠せないのか、慌てるようにしてそう言った。
対して俺は、今しがた聞こえたその言葉に聞き覚えがあった。
すぐにスマホを取り出して、その画面へと目を向ける。
思った通りだ。
スマホの画面には、クロエへパーティの申請文が表示されていた。
「クロエ、パーティが組めるぞ!」
声を上げると、クロエが目を大きく見開く。
「なにっ、それは本当か!?」
これまで、どうやってもパーティを組めなかった俺たちだ。
クロエは慌てるようにして自分のスマホを取り出すと、その画面を食い入るように見つめた。
「本当じゃ……! お主へのパーティ申請が出来るようになっておる!」
声を上げて、クロエが顔を綻ばせる。
それから、不思議そうな顔となると俺へと目を向けた。
「じゃが、どうしてこのタイミングなんじゃ? これまで、何度かお主と手を取り合ってきたがパーティ申請の条件は満たせなかったじゃろ」
「確かに、そうだな……。パーティの申請条件は握手だと思っていたけど」
言って、俺は画面を見つめたまま考える。
クロエが俺の手を掴んだ瞬間に、このアナウンスが流れたことを考えても、パーティの申請の条件は〝手を取り合うこと〟だということは間違いない。
友好関係、とアナウンスが言っている以上、ある程度の信頼関係が必要なのだろう。
極夜の街を乗り越え、俺たちは互いに信用してたと思っていた。
だが、このクソゲーのシステムは俺たちを友好関係だと認めなかった。
(……今のクロエとの会話で、互いをより信用したのか?)
それは……。正直に言って分からない。
だが、クロエが心に抱えていたことを聞いたのは事実だ。
だとすれば、パーティ加入の条件は〝悩みを聞くこと〟と〝手を取り合うこと〟になるのだろうか。
「クロエ、お前……。さっきのやり取りで俺を信用したか?」
自分のことながら、馬鹿みたいな質問だと思った。
案の定、クロエは怪訝な顔となって俺を見つめた。
「お主……、いきなり何を言い出すんじゃ?」
「いや、パーティ加入の条件が知りたくてな……。何度も手を握ったんだし、どうしてこのタイミングなのか考えたら、お前に何か心境の変化があったんじゃないかと思って」
「我に心境の変化? ないない、そんなものないわ。まさか、お主。先ほどのやり取りで我を口説いたつもりじゃったか?」
「そんなわけあるか!」
声を大にして言い返しながら、俺はため息を吐き出す。
それから、クロエの言葉を元にもう一度思考を巡らせる。
クロエに心境の変化がなかった、ということはパーティ申請の際に出てくる友好関係がそのまま言葉の意味ではないということだ。
ということは、もっと別の。何か他の要因があるということになる。
(ミコトとパーティを組んだ時と、今出来るようになったパーティ申請。一体何があった? 俺たちに共通していたことは何だ?)
パーティ申請に何かしらの条件があることは間違いない。
……まさか、互いに隠していたスキルを知ったことが原因か?
いや、だとしたらクロエは、俺の【曙光】の文字を見たがその中身までは見ていない。
俺がクロエの隠していたスキルを一方的に知っただけだ。
だとしたらこれは、パーティ申請の条件ではないだろう。
直前に俺とクロエがしていたことは何だ?
互いに会話をして、俺は血を渡して、それから――。
「あ」
ふと思い当たる。
思い当たったそれは、考えてみればひどく単純なこと。
本当にそれが条件なのかと思い直してしまうが、これまでの行動を思い返してみると、これ以外に考えられなかった。
「なんじゃ、何か分かったのか?」
とクロエが聞いてくる。
俺は、その言葉に頷きを返して言った。
「ああ、おそらくだが……。パーティ申請の条件は、〝互いのステータスを見せあう〟ことと、その上で〝手を取り合う〟ことだ」
「ステータスを見せ合う? なぜそれが条件になる」
「最初に、パーティを組んだことを思い出したんだ。俺とミコトは、出会って間もない――それこそ、半日にも満たない時間しか過ごしていないのに、パーティを組んだ。そんな時間で、互いのことをよく知らない俺たちが、友好関係を築けるのかって言われれば無理だとしか言いようがない。正直に言って、俺がミコトのことを信用したのは最初のストーリークエストが終わってからだったし、ミコトも最初は俺のことなんて信用していなかっただろう。そんな俺たちでもパーティを組めたのは、出会ってすぐに互いのステータスを見せ合っていたからだ」
「……つまり、出会ってすぐにステータスを見せ合い、その上で手を取り合ったからパーティを組めた、と?」
「ああ。クロエとステータスを見せ合ったのは、今が初めてだよな? 普通、出会ったばかりの相手に自分のステータスを見せることはない。そこに書かれている数値が、自分の全てだからだ。弱いことが分かれば、容易に切り捨てられるし裏切りの種にもなる。スキルという存在がある以上、なおさら他人にステータスを見せる奴はいないだろう」
「じゃが、プレイヤーズギルドにいるプレイヤーは、簡単に他人へとステータス画面を見せておったじゃろ」
「あれは、あの集団がそういう縛りの中で成り立っているからだ。それじゃあ、聞くがクロエは、あの集団の中で自分のステータスを見せてまで何かを得たいか?」
「それは……」
クロエは言葉に詰まった。
俺は、頷いて言葉を続ける。
「だろ? あの集団に属しているなら、ステータスを見せてもいい。それは、あの集団が一つの生き物のように存在しているからだ。あいつらは、互いを助け合うというルールの中で生活している。俺たちのように、外から入ったプレイヤーはそう簡単にステータスを見せることはないだろうな」
「それじゃあ、あの集団の中ではパーティがいくつも出来とるんじゃないか?」
「だろうな。まあ、もっとも。手を取り合う、という行為は日常生活ではなかなかしないことだし、組めたとしても友好関係という言葉に引っ張られて〝みんな仲良く〟〝手を取り合って〟なんて、勘違いしてそうだけどな」
言って、俺は口元を吊り上げる。
クロエは俺の考察に真剣に考え込んでいた。
それから、ゆっくりと息を吐くと頷いてくる。
「……ふむ。状況を考えても、ステータスを互いに提示することと、手を取り合うことはパーティの申請条件で間違いなさそうじゃの。このゲームは酷いゲームバランスじゃが、一応はゲームの体をしておる。パーティを誘うときに、相手の情報を目にした上で申請するのは往々にしてよくあるゲームシステムじゃ」
クロエはそう言うと、自らのスマホを俺へと差し出す仕草をする。
「ステータスを互いに見せ合う――つまり、情報の提示。その上で手を取り合う――合意。おそらくじゃが、そう言う意味でのパーティ条件なんじゃろうな」
「だろうな」
と俺は息を吐いた。
「じゃが……。ふむ、一つ気になるのは、我とお主のステータスを見せ合うだけで、このゲームがパーティへの加入を本当に許すのか、ということじゃな」
「どういうことだ?」
「言葉通りの意味じゃ。お主はもうすでに、ミコトとパーティを組んでおるじゃろ? それなのにミコトは今回の申請にまったく絡んでおらん。……いや、我はミコトのステータスを見たが、我はミコトにステータスを見せた覚えがない」
このゲームが、プレイヤーに親切ではないのは今に始まったことではない。
そのことを考えると、確かに俺とクロエだけでパーティへの加入が決まったとは考えづらい状況でもある。
「もしかしたら、どこかでミコトはクロエのステータスを見ていたのかもな」
俺はそう言って、スマホの画面をタップして、クロエへと目を向ける。
「後でミコトに聞いてみよう。とりあえず、クロエにパーティの申請を出したぞ。もしパーティを組んでもいいと思うなら、許可してくれ」
クロエは、俺のその言葉に小さく喉を鳴らした。
「今さら、聞かずとも答えは分かっておるじゃろ」
言って、クロエは画面をタップする。
すると、俺の画面にはクロエとパーティを組んだことが表示された。
「くっふっふ……。よろしく頼むぞ、人間よ」
クロエはそう言うと、ニヤリと唇を吊り上げた。
芝居がかった口調だ。
それがクロエの照れ隠しであることはすぐに分かった。
「ああ、これからよろしくな」
言って、俺も笑う。
クソゲーが始まって五日目。
たった一人の人間から始まったこの世界でのゲーム攻略は、やがて天使を加えて二人へとなって。
そして今日、吸血鬼を加えて三人へとなった。




