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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 緑の古王とプレイヤーズギルド

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五日目・朝 同化の原因



 予想外だったその着替えに、思わず反応する言葉を出せないでいると、浦野さんが苦笑しながら言った。


「私の仕事着です。出張の帰りに、気を失ってこの世界へとやってきたので、その時に着ていたものなんですよ。先ほども言いましたが、きちんと洗ったものなので汚れはないですよ? これでよければズボンとワイシャツをお貸します」


「着替えはありがたいんだけど……。本当に、いいのか? スーツって高いだろ。破れることなく返すことが出来るとは思えないんだけど」


 何せ、俺は戦闘の度に激しく動き回る。

 数日でシャツもズボンも、靴だってボロボロにしたぐらいなのだ。



 そんな俺の言葉に、浦野さんは笑って答えた。


「別に、破れたりボロボロになったりするのは構いませんよ。この世界じゃ、スーツを着て商談をすることもないでしょうし、スーツも麻のシャツも、もはや何の違いもないですから」


「……そこまで言うなら、ありがたく着替えさせてもらいます」



 俺は浦野さんへと頭を下げる。

 浦野さんはにこやかに頷いた。



「背丈も私とそう変わらないみたいなので、裾や袖の長さなどは大丈夫でしょう。あ、着替えたら今着ているシャツとズボンは私に渡してください。そのズボンとワイシャツを持ち逃げされたら、私の着る物が一つなくなりますからね。物々交換です」


「分かりました」



 言って、俺は浦野さんから着替えを預かり、物陰へと移動して着替える。

 濡れた服は浦野さんが乾かしておいてくれるらしい。



 着慣れないスーツのズボンとワイシャツに落ち着かず、そわそわとしているとミコトが微笑みながら言った。


「よく似合ってますよ」


 ミコトに続いてクロエも口を開く。


「うむ。馬子にも衣裳じゃな」


 ……褒め言葉のつもりで言ったんだろうが、その使い方は間違ってるからな?



 そんなことを話していると、俺たちの注目を集めるように浦野さんが軽く手を叩いた。


「さて。落ち着いたところで本題に入りましょう」


 そう言って、俺たちの視線が集まったことを確認して、浦野さんは俺たちの顔をゆっくりと見渡してくる。


「先ほどもお話をしましたが、皆さんにはお願いがあります。ストーリークエストをクリアするのを、手伝ってほしいのです。手伝っていただけたら、皆さんが会おうとしているクゼさんの元へご案内します」



「それについて、俺たちの間で話し合いをしたんだけど……。一つ、確認をしたい。江東区は本当に、水の底なんだよな?」


「ええ、間違いないです」

「それを自分たちの目で確認したい」


「構いませんよ。……というより、江東区だけじゃなくて銀座から先が水の底に沈んでいるので、すぐに見ることが出来ると思います。銀座なら、ここから三十分もあれば到着しますからね。一時間もせずに確認できるでしょう」



 銀座から先……というと、中央区の半分が水の底ということだろうか。

 有名な観光場所で言えば、築地などがある場所だが……。銀座から先が水に沈んでいるのなら、築地も水の底だろう。



「今から確認してきますか?」

「そうだな。出来れば、すぐに確認したい」

「分かりました。では、確認後にお返事を聞きましょう」



 そう言って、浦野さんは微笑みを浮かべた。

 それから、ポケットからスマホを取り出すと画面へと目を通す。



「……今、午前十一時を過ぎたあたりですね。今から二時間後、午後一時にこの場所で待ち合わせをしましょう。雨除けのローブは引き続き貸します。このまま、あなた方が戻られない可能性もありますが……。まあ、その時はその時で私の見る目と縁がなかったと思いますよ」


 浦野さんはそう言って、俺たちに一礼をして出ていく。



 俺たちはその後ろ姿を見送って、自然と顔を合わせた。


「あっさりと我らを解放したの。しかも、着替えと雨除けのローブまで貸したままで……。随分と、甘い奴じゃ。このまま盗むとは思わんのか」


「まあ、俺たちに貸した時点で、あの人の中では半分捨てたようなものなんだろう。じゃないと、初対面の人にここまで尽くすはずがない」


「それか、ストーリークエストに対して本当に困っていて、私たちが引き受けるよう印象を良くしているのか、ですね」


 ミコトの言葉に俺は頷く。



 出会ってから今まで、浦野さんはよく笑っていたがその瞳の奥は常に俺たちを警戒していた。

 それなのにも関わらず、俺たちにここまでよくしてくれるということは、相当困り果てている何かがあるということだ。


 その何かは、再び会った時に問い詰めることにしよう。



「そう言えば」


 と俺はふと思い出したことを口にした。



「さっき、ステータス画面を見て気が付いたんだが……。俺の種族同化率が上昇していたんだ」

「上昇じゃと? あれだけモンスターを倒したのに、減らずに増えたのか? いくつ増えたのじゃ」

「6%だ」

「6%……。思ったよりも増えておるの」


 クロエが眉根を寄せた。



「お主の話じゃと、種族同化率はそ奴が抱える命題を終わらせれば一時的に下がるんじゃなかったのか?」

「……ああ。そのはずだ」



 同化率が50%を超えた俺が、20%にまで下がった状態で目が覚めたのは、リッチを討伐したから……だと思っている。

 気が狂うほどに憑りつかれた命題が無くなった結果、数値が落ち着いた。


 ――と、そう考えていた。


 だからこそ、思考が暴走した時には積極的にモンスターを狩るべきだと思っていたが……。

 どうして、それなのにも関わらず同化率が上昇しているのだろうか。



「……あの、もしかして何ですけど」


 ミコトが俺たちに声をあげた。


「同化率を下げるのが、その同化率を上昇させた原因の排除なら……。その反対も同じことが言えるのではないでしょうか」


「どういうことじゃ」


 クロエが首を小さく傾げた。



 ミコトは言葉を続ける。


「ユウマさんが同化率50%を超えた原因は、強敵であるリッチを倒すことに意識を集中させたから……ですよね?」


「そうだな」


 俺は頷く。


「ということはつまり、その強敵を排除しようと思考が――いえ、もっと言ってしまえば()()()()()()()()()()()()。それはつまり、ユウマさんの種族である人間の持つ命題〈救世と幻想の否定〉へと意識が傾いていたことになります。言い換えれば、ユウマさんの意識が『人間』の意識と同調していたということです」


「……なるほど。つまり種族同化を上昇させるのも減少させるのも、どちらも種族命題が関わっている可能性がある、というわけか」


 呟き、クロエは俺へと視線を向ける。



「つまりお主は、モンスターとの戦闘へ意識を向ければ向けるほど、種族同化率が進みやすくなる。その数値を下げるには、周囲のモンスターよりも遥かに強い強敵を倒して、留飲を下げるしかない……ということじゃな」



 その言葉に、俺は考え込んだ。


 種族同化率の上昇条件が、命題に沿う思考や行動を取っていた時だとするならば、『人間』である俺はつまり、モンスターを倒し人々を助ければ助けるほど『人間』へと近づいていくということだ。

 そしてさらには、同化率が上昇すればするほど、より思考は種族へ同化するよう傾いてしまう。


 この世界で生きるためにはレベルを上げなければならない。


 ストーリークエストで食料が手に入る以上、クエストを無視することも出来ない。

 俺にとって、モンスターとの戦闘は避けられない事実だ。



 それはつまり……。この世界で生きていく限り種族同化というクソのような縛りからは逃れられないということ。



 ……ただでさえ、適正レベルという存在のおかげでレベリングがしにくいゲームの仕様なのに。種族同化率という制限が加わったことで、さらに俺のレベリングは思うようにできなくなった。


 いや、やろうと思えばできるだろうが、その時は『人間』に飲まれる前提でモンスターを狩らなければならなくなった。



 反吐が出るいつものクソゲー仕様だ。



 そんなことを『人間』であるアイツに言えば、


『その分、曙光という素晴らしいスキルがあるじゃないか』


 なんて言うに違いない。



「この世界のゲームシステムは、プレイヤーに対して優しくないのは事実じゃが……。まるで、お主だけ別のゲームをやっているかのようなゲーム難易度じゃの」


 とクロエは大きなため息を吐いていた。



「……いったい、誰がこんなゲームを作ったんでしょうね」


 とミコトが呟く。



「誰が作ったにしろ、出会い頭に一度、ぶん殴っても誰からも文句は言われないだろうな」


 と俺は自らの置かれた環境に、怒りとも呆れともつかないため息を吐き出した。



「その時は我も一緒に殴らせろ。一度といわず、二、三発は殴ってもいいじゃろ」


 クククッと喉を鳴らしてクロエが笑う。



「それと、話していて気が付いたことじゃが。強敵との戦いならまだしも、雑魚モンスター相手なら、ユウマは種族同化率の上昇をある程度抑えることが出来るかもしれん」


「何? どうするんだ?」


「簡単な話じゃよ。種族命題に――モンスターとの戦闘に意識が傾けば傾くほど、同化率は上昇していくのじゃろ? だったら、モンスターとの戦闘に意識を向けなければよい」


「意識を向けない? 戦わないということか?」


「違う。雑魚相手に、戦闘への意識を割くなということじゃ。モンスターへ意識を割くことなく、そのモンスターを倒せばいいだけじゃろ?」


「それは……。まあ、確かにそうだが」


 言って、俺は眉根を寄せる。

 果たして、そんなことで上昇率を抑えることは可能なのだろうか。



「物は試しじゃ。ちょうどこれから出掛けるのじゃろ。やってみるしかあるまい。このままじゃとお主、ストーリークエストを受けてからでないとまともに戦闘が出来ぬようになるぞ」



 クロエのその言葉に、俺は覚悟を決めて頷く。

 種族同化のゲームシステムからは逃れられない。

 今はとにかく、種族への同化をしないようあらゆる方法を試すしかないだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 作ったやつにたどり着いて理由を聞いた時に面白かっただろとかいわれでもしたら拳どころかあらゆる武器が飛んできそうだ…オートモードも体の限界をフルに使ってるだけでそこまで圧倒的強さ!って訳でもな…
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