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2-04 報奨金の使い道

世界を滅ぼすものを倒した勇者達には相応の褒美が与えられるもの。

しかし彼らは一人ではなく、それぞれがその報酬をどう使うかも人それぞれ。

当然、勇者達に与えられる報酬ともなれば選択肢は大きくなっていく。

はたして彼らはそれぞれに満足する使い方を決められるのか。

 魔王ロンド・メビウスとしての生が終わる時も近い。

 超常の戦いの中、そんな考えが頭をよぎる。


「そ、らぁっ!」


 虚空より引き抜いた剣を振り下ろすも中途で食い止められた。

 相手は勇者と戦士。彼らが視線を交わした直後、一気に押し返される。


「「ぜぁあああああっ!」」

「っおぁ……っ!」


 地を割る咆哮と共に弾き上げられる刃。

 しかし二人はそこまでが精一杯だったのか、追撃に転じる気配を見せない。

 ならばもう一度、と体勢を立て直した矢先、視界の端に炎が踊った。

 慌てて空いた手で新たに剣を抜くも炎が牙を剥く方が速い。


「そこだぁっ!」


 魔女の炎を刃に宿した斥候が気合一閃、魔王の胴に十文字を刻む。


「っぐぅっ!」


 傷が魔力の炎に焼き潰され、押し広げられるような痛みに声が漏れた。

 それでも斥候を弾き飛ばす。


「助かった!」

「感謝するなら! 追撃しろ!」

「わかってらぁ!」


 言葉短くも呼応する三人。

 入れ替わるようにして勇者と戦士が武器を横合いに振り抜こうとする。



 遅まきながら連携と気付いた魔王は己が膂力で強引に迎え撃つ。

 右と左、それぞれの剣でかち合うことまではできたが、流石に挟撃とあっては押し返せない。

 どうにか受け流し、返す刃をがら空きの背中に向けた。


「今です!」

「もちろん!」


 しかし波状攻撃は終わらない。

 魔力の収束を感じ取り、三人が巧みに隠した本命に遅まきながら気付く。

 声の出所を睨めばそこには聖女と魔女。杖を構えた二人は同時に魔力を炸裂させた。


「セイクリッド・ブレイズ!」

「イーグルトルネード!」


 暴風の一矢が浄化の炎をまとい、渦巻く。

 咄嗟に翼で防いだものの勢いを殺しきれず、翼膜を引き裂かれながら大きく後退させられてしまう。

 どうにか立て直す間に再び勇者と戦士が肉薄。


(だが同じ手を食うと思うてか!)


 迷わず剣をひと振り投げ捨てるのと、勇者と戦士の枝分かれはほぼ同時。

 投げた先に踏み込んでしまった戦士が守りを固める間に、魔王は残った方の剣を両手で握り直す。

 そのまま勇者に向けて全力で振り下ろした。


「だぁああああっ!」

「っ、うぉおおああああっ!」


 両者、共に弾け飛ぶ。

 勇者は聖女と魔女に受け止められ、魔王は玉座にめり込む。

 再び追撃、今度は戦士と斥候。

 だが今度はそこまで読んだ上での対応だ。半ば宙に浮いていた足で二人まとめて弾き飛ばす。

 挑戦者達が体勢を立て直す間に、魔王自身も玉座を振り払って立ち上がった。


(あぁ、楽しい……! なんたる連携の強さ! 此度の挑戦者達はよほどの絆で結ばれたと見える!)


 力そのものは間違いなくこちらの優位。

 だが向こうは「質」を兼ね備えた数の優位でそれを覆してくる。

 じりじりと追い詰められている確信はあった。それでもなお、魔王の心にはこの戦いがあまりにも楽しいものに見えた。


(流石に十度目ともなれば、楽しむ余地も生まれるか……いや、あるいは彼奴らがこれまでの生で最も優れた挑戦者だからか!)


 答えは出ない。しかしどうあれ、口角が吊り上がるのは確かだ。

 そんな魔王の心情など知らぬとばかりに、挑戦者達が再び得物を手に迫り来る。

 武器と武器がぶつかり合い、魔力が引き起こす超常現象が飛び交って、そこかしこに破壊の痕跡を残した。

 傷こそ負えど互いに疲弊は遠く、その気になれば未来永劫この剣戟を繰り返すことも叶うやもしれない。

 しかしこれは遊びではなく、命のやり取りなのだ。

 どれだけ楽しかろうと終わらせねばならぬ、と一抹の寂しさを抱えながら、魔王は極大の防護魔法を打ち立てる。

 挑戦者達の一撃が軒並み阻まれ、わずかに顔色が変わった。


「魔王、何をーー」

「これまでの戦いに敬意を示そう、よくぞここまで競り合った! 褒美としてひと息に殺してやろうぞ!」


 守りを固めた裏で、全てを灰燼に帰す魔力砲撃のチャージにかかる。

 対する挑戦者達の行動は、魔王の期待を裏切らなかった。


「みんな行くぞ……これで決着させる! 俺に全てを賭けろ!」


 勇者の掲げた剣に、四人の武器が重なる。

 集約する力は「魔王を倒す」という願いと祈り。

 子々孫々と語り継がれてきた特攻魔法、それも仲間達の全てを束ねて放つ最大最高の傑作。


(あぁ、貴様らはどこまでも我を楽しませてくれる!)


 やはり自分はここで死ぬのだ。


(だが、それはこの一撃と競り合って勝てればの話!)


 互いの力が集約する。

 魔法結実の祝詞は不要。どちらもそんなものは心の中で唱え終わっている。

 一瞬の間隙を置き、勇者達と魔王はほぼ同時に力を炸裂させた。

 絶大な力と力がぶつかり合い、周囲を崩壊させる。

 激突の中心点に至っては足場すら砕け、地を抉るほど。

 その中で魔王は高らかに笑う。


「ははははっ! 口惜しいな、貴様らとの戦いを終わらせなければならんのは!」

「んなこと……知ったこっちゃない!」


 それが耳に届いたのか、勇者の忌々しげな叫びが返ってきた。

 同時に向こうの魔法の勢いが増す。怒りが力に乗ったか。

 負けじと魔王も体内魔力をかき集め、魔力砲撃に注ぎ込む。

 奔流が一気に膨れ上がり、勇者達に迫った。


「ぐっ……負け、るかぁああああああっ!」


 勇者を皮切りに、挑戦者達の気迫が増す。

 彼らもまた魔王の滅殺を超克せんと力を振り絞る。

 押し切れるかと思った魔力がじわじわ留められ、いよいよ逆流に転じた。

 撃ち返されつつある魔力奔流を再び押し戻す術は、最早ない。


「見事! ならば最後に聞かせてみせろ! この魔王を打ち倒した先で貴様らは何を成す!」


 故に魔王は再び吼えた。

 これもまた幾度と繰り返した今際の咆哮。


「その執念、抱えた願いが叶わぬことを願いながら! 我は今生を終えるとしよう!」


 挑戦者達に呪いあれ、ひと時の平和に溺れていけ。

 歪んだ思いを宿した口上に、挑戦者達は口を開く。

 心を一つにしたその声こそ、幾百年の果てに魔王を蘇らせる引き金となることを知らされぬまま。


「「「「「俺(ボク・私)は……っ!」」」」」

(さぁ、此度の挑戦者達の咆哮を聞かせてみせろ!)



「報奨金「魔王討伐の報酬で「金!!!!!!!!!!」帝国魔術院の学費払わ「がっつりもらって!!!!!!」きゃいけないのよさっさと消えろぉおおおおおおお!!!!!!!」がっぽりもらって「勇者様と結婚して魔王倒したお礼の「バカみたいに豪遊して!!!!!!!!」お金「姫様にプロポーズ「派手に使い切ってやるんだよ!!!!!!!!!」するための指輪作る予定があんだよ消えろぉおおおおおおおお!」で新婚旅行するんだから消えなさいぃいいいいっ!!!!!!!!!!!」のんびりスローライフが待ってるんだよ「消えろぉおおおおおおお!!!!!!!!」消えろぉおおおおおっ!!!!!!!!!」



 一瞬、空白。

 思考停止の空隙を食らい尽くすかのように、極限にまで膨れ上がった魔力があぎとを開く。


「……なんて?」


 それが、今代において魔王ロンド・メビウスと名乗った者の、都合十回目にして初めて響かせる遺言となった。

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表紙絵
― 新着の感想 ―
心を一つ……? にした声……?? 見当たりませんね??? これは魔王様、復活ならず!? リメンバーイレブン、ならず、アデューイレブンになりそうですね! 書き出し、というより、秀逸な短編、もありえますが…
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