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2-16 特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド

 青春怪盗『化物幻寄ばけもの げんき』と特別少女『地名美南ちめい みみなみ』は同じ高校二年生。二人は青春を盗視取ることを目的に行動している。

 今回のターゲットは体育祭での告白イベントという名の青春を盗み取る。

 同級生が告白する情報を掴んだ幻寄は、それを特別少女の美南に伝え、その告白場所へと向かう。

 そして美南と幻寄はその告白を盗視取る。

 盗んだ青春という名の宝は、特別少女から、精神が殺された未来の"普通の彼女"『地名美南』に届ける。

 その宝が、精神を殺された『地名美南』の瞳を灯し、二人に未来の出来事を告げる。

 "普通の彼女"がいうには幻寄は死んだという。それを聞いた現在の二人は未来に抗って策を打とうとする。


 これは未来で死んだ『化物幻寄』と未来で精神が死んだ『地名美南』、そんなバットエンディングを覆すボーイミーツガールアゲイン。

 校舎の屋上。爛々と輝く星々の下、僕はグラウンドにいる同級生たちがキャンプファイヤーしている姿を眺めていた。裸眼では遠くて表情が見えない。

 だから濡れ羽色に輝くミステリボックス――怪盗道具箱七七七拒否(アンラッキーセブン)から双眼鏡を二つ取り出し、片方を隣の少女に手渡しながら問う。


「なあ美南(みみなみ)。特別って言葉は大事だよな?」


 僕――化物(ばけもの)幻奇(げんき)は特別という言葉に魅了されている。

 皆、誰しも考えたことがあるはずだ。自分は特別でありたいと。あるいは、誰かの特別でありたいと。


「特別ねー。(ゲン)ちゃんが大事っていうなら大事じゃないかな」


 肯定しつつ双眼鏡を受け取ったのは長身痩躯、紫紺の瞳を宿す地名(ちめい)美南だ。

 少女は特別な力を持っていた。


「お前の特別な力は大事じゃないのか? 今回も頼る予定なんだが?」

「当たり前の感覚だから大事とは感じないけど、もちろん今回も頼っていいよー」


 特別少女、美南は元気に少し膨らみのある胸を張る。

 その自信を見て、僕は高らかに宣言する。


「それじゃあ今回も頼るぞ。今回の任務は我が友大地(だいち)、クラスメイト由衣(ゆい)、この二人の青春を怪盗する!!」

「今回も入念に情報収集したんだー?」


 紫色の髪をなびかせ、にやりと妖しげに笑う少女。その笑みのまま、少女は双眼鏡でその二人を探しているようだった。

 僕はそのいたずらな笑みに緊張することもなく、快活に答える。


「当然だ。怪盗において情報収集はもっとも重要だからな!」

「それで情報収集の結果、何を盗()取るのー?」

「友達の友情を破壊しようとする由衣ちゃんの心情、といったところかな」

「破壊なんて言い方まどろっこしー。素直に大地くんと由衣ちゃんの告白を盗()取るって宣言しないのー?」

「まっ、その言い方でもいいな。さて、ターゲットのお二人さんは今キャンプファイヤーで互いを意識し合っているんだろう?」


 二人の距離は焚火台を挟んでいるため接点がないように見える。

 常人ならそう思うだろうが、美南の眼はごまかせない。


「うん、二人とも目線が合いすぎているねー。しかも大地くんのほうは首元まで肌を赤らめて表情がぎこちない。衣服から心臓が強く脈打って、瞳孔も広がっている。極度に緊張してるねー」


 少女の特別その壱――異常な観察眼という特別。

 至近距離なら心が読まれていると錯覚するほどの観察眼。遠距離でもこれほどの観察眼だ。

 その特別で極度に緊張していると美南はいった。体育祭のキャンプファイヤーといえば終盤も終盤だ。事前情報と照らし合えば、体育祭のあと告白する緊張だと容易に想像でき、自然と口元から笑みがこぼれる。


「そこまでわかれば重畳だ。二人はこれから七怪奇高校の七怪奇の一つを体験しに行くだろう」

「今回の七怪奇ってなんだっけ?」

「七怪奇の色欲因子『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』。その場所での告白成功率は九割九分九厘を超える――七怪奇高校にある七怪奇の一つだ!」



「さて、この場所だな」


 体育祭が終わり、移動した先は旧校舎の屋上。

 廃れすぎて利用価値がないと思ってしまうが、この屋上には小さな鐘がある。それこそが七怪奇の一つ『幻惑空間の独断恋愛』だ。

 僕と美南は先回りして怪盗道具箱七七七拒否(アンラッキーセブン)の一つ、迷彩壁を取り出して壁に擬態し、一方的にターゲット二人の行く末を見据えていた。

 由衣に呼び出された大地は頬を赤らめており、呼び出した本人は上目遣いしながら大地をぐいっと近づき、大地に魅惑の笑みを浮かべる。


「この鐘を二人で鳴らしたいの。いいかな?」


 彼女の勢いに後ずさりした大地だったが、由衣の手が彼の両手を掴んでお願いを叶えてほしいと必死に訴えかける。大地はその仕草に心が掴まれたのか首に朱を交えてこくりと頷く。


「うん」


 握られた手は自然と恋人つなぎ。

 そしてもう片方の手でお互いが鐘を鳴らす紐を握り、カランと鐘を鳴らす。


 世界がキラキラに包まれた。


 学校から宇宙が七色に光り輝く世界のような場所に移動したのではないか。そう錯覚するほど神秘的で、非日常の風景で、普通であれば人生で一度も見ることない景色。


「きれいねー」

「そうだな。ここまで視覚化されるとは思わなかったが……。美南、盗()取るぞ」

「はいはいー」


 美南は軽い口調とは裏腹に、集中力を極限まで高めてその情景を視る。

 少女の特別その弐――絶対脳記憶(ブレインサヴァン)という特別。

 瞳の情報を脳内にすべて記憶する世界の理から外れた特別な力。少女はその特別で二人の一挙手一投足、瞬きせず瞳に盗視取る(コピーする)


 キラキラは消えていた。そして、眼前に見える二人は静かに立ち尽くしたままだった。

 しばらくして、由衣から勇気を出すように、大地の瞳をぐっと見た。


「好きです。付き合ってください」

「もちろん! ふ、不束者ですがよろしくお願いします!」

「もうっ! かしこまりすぎだよー、大ちゃん。でも、そんなところが好きだよ!」


 告白は成功に終わった。

 だがその後、二人はなぜか一緒に帰らなかった。



 二人が屋上から降りた後、美南にはいつもの場所に移動する指示を出し、僕はとある人物に会う。


「由衣さん、こんばんは!」

「きゃっ! へ、変態!!」


 僕は女子トイレの個室の上から挨拶していた。変態だろう――そのスマホに見える文面さえ見えなければ。


「そのメッセ、君のお母さんに送ったのかい? 大地の親の金目当てだね?」


 大地の家系は金持ちだ。そんなことは知らずに友達として家にお邪魔したとき、高校二年生の僕でも豪邸だなと感想を抱いたくらいだ。

 当然、そこに漬け込む人間もいる。まさか同級生の女子が七怪奇の色欲因子『幻惑空間の独断恋愛』を使って強制的に好きさせて、金を巻き上げる下水道よりゲスい行為をするとは思わなかったが。

 由衣はスマホを見せないように胸に押し当て、目を逸らす。


「な、なんのこと?」

「別にすっとぼけてもいいが、大地は告白自体を忘れてる。七怪奇の力に頼ったのは悪手だったな」


 僕は由衣のいる個室内に着地した後、スマホを取り出し、大地にスピーカーモードで電話する。


『突然わりぃ、大地。今日の夜って誰かに告白されたか?』

『されてねーよ。そういうお前こそ、誰かに告白されたか?』

『んにゃ、僕は告白されてない。用事はそれだけだ。夜遅いのにすまんな』


 確認事項が取れ、通話を切る。

 一連の流れを聞いていた由衣はわなわなと身体を震わせていた。


「大ちゃんが付き合っていることを隠そうとしてるだけ……。忘れるわけないよ……!」

「付き合ったはずなのに、一緒には帰らなかった。そんなことがあるか?」

「な、何か大ちゃんなりの理由があったのよ――」

「――理由なんてない。告白されたことを忘却したんだ」


 由衣の額にトンと人差し指を当て、僕は言葉を紡ぎ続ける。


「そして君の場合は、告白の計画段階から忘却する。君がやってきた悪行は青春失格――やってはいけない青春だ。七怪奇という特別に手を出してずるをしたんだ。ずるをし返すのが、道理だとは思わないかい?」


 僕の唯一の特別。青春怪盗――相手の青春を忘却させる。

 僕は相手の青春を奪う。青春という特別を奪う。特別を奪う化物――化物幻奇でしかなかった。



 二人の青春怪盗を終えた僕は、美南に指示した場所にたどり着く。

 学校の裏門。少女は長髪をなびかせて僕の方に振り向いた。

 紫紺の瞳は比喩なくキラキラと輝き、この世のものではないようだった。


「遅かったねー、幻ちゃん。もう、繋げたよ」


 少女の特別その参――時空接続(タキオンリンク)という特別。

 歪な暗黒空間が発生していた。教室のドア程度の大きさで、ブラックホールのように飲み込まれそうだと錯覚してしまう。

 その中に、もう一人の美南がいた。その美南は体育座りの格好でこちらを見ていたが、紫紺の瞳が光を失っている。


「今日の青春を未来の君に渡そう」

「そうね……」


 美南の瞳と、未来の美南の瞳が合う。少女が視た青春――告白シーンを未来の彼女に目渡し(ペースト)する。

 未来の彼女の瞳は、浄化されたように明るさを取り戻すが、すぐに死んだ瞳へと戻り始める。戻りきる前に少女は訊く。


「ねぇ、未来の私。幻ちゃんはいつ、死んじゃったの?」


 未来の彼女は基本無口だが、青春を渡せば、言葉を発するくらいにはなる。

 真っ暗闇の空間は未来の彼女しか映し出せない。そして未来の彼女は以前、こちら側から青春を目渡し(ペースト)したとき、こういった。


『幻ちゃんは、死んじゃった……』


 その発言から、未来の彼女は僕が死んだことで精神が死んだ(こうなってしまった)と結論付けた。

 だから現在の美南はその未来を捻じ曲げ、僕と美南が元気に過ごせる未来を掴もうとしている。


 未来の彼女は青春という名の宝に想起させられ、わずかに瞳に光を取り戻し、僕たちの質問に短く答える。


「3年の卒業式……」


 未来の彼女はそのまま暗黒空間ごと消えてしまった。

 未来の彼女がいなくなり、美南は呟いた。


「あと、1年と半年もないのね……」

「そうだな。まあすぐに死ぬわけじゃないとわかっただけでも作戦が練れる。未来の空間も消えた。今日は帰ろう、美南」


 美南(特別)といられる期間は卒業式までだ。

 特別はそのときには消える、絶対に。

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