夜中に妹の部屋にお兄ちゃんが侵入するのはつまりそういう事ってマジですか?
セシリアの所から帰った俺は、深夜なのにも構わず、マリサに今さっき起きた出来事を相談しに行った。
セシリアについての相談ができるのは、マリサ以外他にいないのだ。やむを得ない。
マリサが借りている部屋の電気はついている。
まだ起きているだろう。
俺は合鍵を預かっているからアリサの部屋にはいつでも入れる。
「マリサ!」
バン!
とドアを開けてマリサの部屋に入ると、マリサはベッドに腰掛け本を読んでいた。
可愛らしい寝巻き姿のマリサが目を白黒させる。
「お、お兄ちゃん!う、嘘!いつかはこんな日が来ると思って妄想してたけど、まさか今日なの!?でもまだ心の準備が……」
えっ、マリサ俺が来るって分かってたの?
「凄いなマリサ、こんな事まで予測していたのか」
マリサはなぜか照れながらオドオドと話をする。
「そ、そりゃまぁ。マリサは毎日お兄ちゃんの事考えてるし、こういう事だって……」
「そうか、悪いな。もう夜も遅いのは分かってて、明日にしようかと思ったんだが、もう我慢出来なかったんだ!」
「そんなに!?」
そう言ってマリサはなぜか俺の腰の辺りに熱い視線を向けた。
「いいよ……お兄ちゃん。マリサが全部受け止めるから」
そう言ってマリサは目を瞑った。
「ありがとう、マリサ。実はさっきセシリアの所に行ってきてな」
そう言うとマリサはカッと目を見開いた。
「セシリアお姉ちゃんの次は私!?し、姉妹丼!?し、知らない!知らなかった!お兄ちゃんにそんな趣味があるなんて……」
「趣味?マリサ、何か勘違いして……」
「だ、大丈夫!ちょっとびっくりしただけだから!大丈夫、続けて」
「そうか、じゃあ遠慮なく。実はセシリアの様子がおかしくて、マリサに相談しようと思ってな」
「へっ!?」
「ん、どうかしたか、マリサ」
「う、うんうん!違う違う!何でもない!そうだよね!セシリアお姉ちゃんの相談だよね!」
顔を真っ赤にして、残念なようなホッとしたような不思議な顔をしているマリサ。
「大丈夫か?」
「うん、ホント気にしないで!続き話して」
俺はマリサに事のあらましを相談した。
マリサは真剣に俺の話に耳を傾けてくれる。
話を聞き終えると、うーんと考え込んでいるマリサ。
「確かにおかしいね、それは。セシリアお姉ちゃんの所に最近行っていないな。今聞いた話だけだと原因が分からないし、ちょっと私の方でお姉ちゃんに会いに行ってみるよ。それまで待っててくれる?」
そういえばマリサもたまにセシリアに会っているって言ってたな。
「マリサはどうやってあの警備が厳重な大聖堂に行っているんだ?」
「あの大聖堂に簡単に忍び込めるのなんてお兄ちゃんぐらいだよ。私は普通に正面から入ってるよ。学校で回復術の研究しているから、大聖堂には比較的楽に入れる許可が降りるんだよ。大聖堂は魔具とか術式とかを買い取ってくれたりもするしね」
「なるほど。普通に入るという発想がなかった」
強引にもう一度セシリアに会いに行くという手もあるが、セシリアは中々頑固な所がある。特に俺に対して。
その点マリサにはセシリアは激甘だ。
ここはマリサに任せてみよう。
「じゃあすまないがセシリアの事は頼む。俺も何かしたいんだが実はもうそろそろ……」
「うん、もうそろそろ御前試合優勝者のパレードだから準備しなきゃだよね。ギルドの大切な仕事だし、お兄ちゃんの晴れ舞台だもん!お兄ちゃんはそっちに集中して」
実はジェイドの御前試合優勝パレードが数日後に催されるのだ。
優勝者が馬車に乗って王都の街を練り歩く。
そんな晒し者みたい事、恥ずかしいし嫌なのだが、ゴチンコのギルドの大きな宣伝になるので欠席はできない。
「ありがとうマリサ。このお礼は必ずするから」
「お礼なんていいよ。セシリアお姉ちゃんの事は私も心配だし」
「でもマリサも色々忙しいと思うし、兄として妹に何かしてやりたいって気持ちもあるし」
俺がそう言うとマリサは頬を染めて、
「じゃあ今度お兄ちゃんとお出かけしたい」
と言った。
「ん?そんな事でいいのか?」
「うん、その代わりその日お兄ちゃんはマリサとずーっと一緒だよ」
そういえば小さいころマリサは俺にずっとくっついてきて、食事も風呂も寝る時もずーっと一緒がいいって駄々をこねてたな。
大きくなっても昔みたいに言ってくれるマリサ。
本当に可愛い妹だ。
「分かった。いいぞ。マリサと出掛けるの楽しみにしてるよ」
そう俺が承諾すると、マリサがニコリと笑った。
「やった。計画立てなきゃ」
計画と言って天使の様に笑うマリサだったが、何故か俺はその笑顔を言葉を見てゾクリと悪寒がしたが……うん、きっと気のせいだろう。
マリサは翼の無い天使なんだもん、お兄ちゃんに何か企んだりするはずないもんな。
この時まだ俺は、この件がセシリアのヒステリックな気まぐれか何かで、別段大した問題ではないと思い込んでいたのだった。
もし真相が分かっていたのなら、こんな危険な問題には絶対にマリサを巻き込んだりはしなかっただろう。
だってマリサは回復魔法しか使えない、戦闘なんてできないか弱い女の子なのだから。




