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ノエルとタクト

ノエル視点


魔界に生まれた時すでに、私には両親はいなかった。

理由は分からない。


でも悲しくも無いし不自由もしなかった。

私には魔眼があった。


私は生まれ落ちた瞬間から魔界で最強だった。

魔界は弱肉強食。

生まれたばかりの私を狙う魔族がなん度も現れたが、私はその全てを殺した。


こうしてたった数年で、私は魔界を支配してしまった。


つまらなかった。

こんなもんかと思った。

玉座に座り、魔界の果物を齧る。

まずい。


そんなある日、私は魔界の下僕の1人から人間という弱い生き物がいる世界があると聞かされた。

パズスという魔王も何年か前に人間の住む土地に行ったのだという。

今思えば下僕は私を魔界から追い出すためそんな話をしたのだろう。


私は面白そうだと思い、人間の住む世界へと行った。


人間を魔眼で見た。

確かに弱い。

人間は魔族よりもたくさんいる。

なのに魔界の様にいきなり誰かが襲いかかってきたりしない。


街の様子も見ていて面白い。

上機嫌で街を歩いていると知らない女に話しかけられた。

言葉が分からなかったので首を傾げていると、女は何故かにっこり笑って赤い木の実をくれた。


魔界では何度も毒入りの食い物を渡された。

きっとこいつも私を殺そうとしているのだ。


私はそんな毒の入った食べ物をそいつの目の前で食べてやり、毒は効かないと言ってそいつを殺してやるのが好きだった。

相手は絶望の表情を見せ死んでいく。

そんな顔を見て私は声を出して笑うが、すぐにまた私の心はつまらない気持ちに満たされる。


まあでもちょっとした暇つぶしにはなる。

私は女の前でそれを齧ってみた。

毒の果物を食べ尽くし、この女を殺してやろうと思ったが、その果物には毒など入っていなかった。


それどころか、うまいという感情が私の脳を生まれて初めて支配した。


ガツガツとリンゴを夢中で齧ると、女は何故か俺の頭をくしゃくしゃと撫でて赤い果物をまた一つくれた。


私はポカンとして女を眺めた。

女は名残惜しそうに私を見つめると、手を振り去っていった。


後で知ったがそれはリンゴという果物だった。


私は殺しに飽き飽きしていたので人間界に来てからは殺しはしなかった。

それどころか言葉を覚え、人間を観察して遊んだ。


空を飛び回り、様々な物を見て周る。

絵、本、建物、音楽、これらは芸術というらしい。


人間という生き物は弱いが非常に面白い。

食べ物も魔界の物とは比べ物にならないくらい旨い。


夜になると木からリンゴをもぎ、それを齧り美しい星々を眺めながら眠りにつく。

こんな暮らしが私は随分気に入った。


そんなある日面白い遊びを思いついた。

人間は弱い。それなら世界で一番弱い人間を見に行こう!


そこで見つけた世界で一番弱い人間。


それがタクトだった。


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