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負けられない理由があるってマジですか?

決勝直前 選手控え室


「じゃあ腐食騎士、この試合で勝ったら『鷹の爪』への加入を大々的に発表するんだ。いいな」


鷹の爪の中年の男性職員が腐食騎士にそう念押しする。

すると腐食騎士はくぐもった声で言う。


「分かっている。その代わり……」


「ああ、賢者の石だろ。お前が約束を果たせばちゃんと渡す」


腐食騎士は納得したようで、決勝の舞台へと歩いて行く。

腐食騎士が離れ見えなくなると、中年職員はフーッとため息をついた。

強気に話していた様に見える彼だが、腐食騎士の威圧感に内心は酷く怯え、緊張していたようだ。


「流石ですね先輩!あの腐食騎士にあんな風に言えるなんて!」


新人の職員が先輩をヨイショする。


「仕事だからな。だが寿命が10年縮んだ気がする。二度とごめんだ」


「でもせっかく手に入れた賢者の石をポンと渡しちゃうなんて。鷹の爪は流石ですね!」


新人がそういうと、先輩職員はやれやれと言った風に首を振る。


「まだまだ若いな、新人。渡すわけねぇだろ。願いが何でも叶う幻の石だぞ?あんな貴重なもん、鷹の爪が手放すわけねぇ。渡すのは偽物」


「えっ?大丈夫ですか?偽物なんて渡したら絶対腐食騎士怒りません?」


「それが大丈夫なんだよ。そもそもお前、偽物渡されて、それが偽物なんて気づけるか?」


「い、言われてみれば……」


「誰も見たことのないアーティファクトだ。上級の魔石をちょこちょこっと鍛治師に加工させてそれらしいもん作っとけば、腐食騎士でも判別なんてできやしねぇよ。ほんと上層部はエグい事思いつくよな」


「でも、それだと腐食騎士はすぐに鷹の爪辞めちゃうんじゃ……」


「そこはちゃんと契約書に色々と細工してあるしどうとでもなる、それに……」


「それに?」


「……たぶん腐食騎士が賢者の石を求めるのは腐食した体の治療の為だ。どちらにせよ、鷹の爪は呪術解除サポートや医療サポート共に業界1位。情報集めにも最適、いろんな場所にコネもある。結局治療に最適な場所なのよ。だから辞めたりはしないよ」


「じゃあ鷹の爪は腐食騎士の治療はサポートするつもりなんですね!良かった」


「ほんとバカだな、お前は」


「え?」


「腐食騎士の呪われる前のランクはSS、呪いを解いちまったら弱くなるじゃねぇか」


「そ、そんな!じゃあ腐食騎士は」


「……生かさず殺さずってとこだな」


先輩職員はそう言って煙草に火をつけた。

一方で新人職員はプルプルと拳を握りしめている。


「……許せないっす!俺!」


「……馬鹿野郎。青臭い事言ってんな!この程度の汚ねぇ事は大手なら少なからずどこでもやってんだよ!」


「で、でも……」


「……じゃあ辞めるか?鷹の爪を。それで今の話を腐食騎士に伝えに行くか?」


「そ、それは……」


「……俺も若い時はお前みたいに思ったよ。でも俺達みたいな下っ端じゃ、どうすることもできないんだよ」


先輩職員がそう言うと、会場からわっと歓声が響き出したのが聞こえた。


ついに試合が始まったのだ。




試合会場 タクト(ジェイド)視点


「只今より!決勝を始めます!レディ!ファイト!!」


ついに決勝が始まった。


レフェリーは闘いに巻き込まれないように掛け声をかけ終わると一目散に決勝の舞台を離れていった。

本来なら近くで闘いを見守らなきゃならないが、腐食騎士の攻撃に万が一でも触れたらとんでもない事になる。

レフェリーが舞台を離れるのは特例。

それだけ腐食騎士がヤバいと言う事なのだ。


さて改めて腐食騎士を眺めると、物凄い殺気に威圧感。

そして魔力感知を使わなくても感じる膨大な量の魔力。


「こりゃ強いわ……」


そう思わず呟くと、腐食騎士も口を開く。


「初めに言っておく。棄権しろ」


おっと意外。

腐食騎士ってお堅そうに見えて、冗談も言えるのね。


「試合開始初っ端に棄権しろと言われて、はいそうですかと言うやつはいないと思うけどね」


「別に私はお前に恨みはないが、私には『どうしても勝たなくてはならない理由』がある。お前の実力は知っている。だからこそ手加減できない。おそらくお前を殺してしまうだろう。もう一度言う、棄権しろ」


なる程、俺の実力を分かった上で殺してしまうから棄権しろという訳か。

いや、こりゃとんでもないのと戦う事になっちまったな。


いや……そもそも俺この大会に命賭けてまで勝たなきゃならないのか?

よく考えろ、タクト!

そこまでの義理はあるのか?

お前は良くやったよ、もう十分だろ、タクト!

そんな風に自分に言い聞かせてみる。


……ま、普通に考えたら命かけるなんて馬鹿がやる事だな……だったら俺の返事は決まっている。


「……悪いけど引けないね。大事な約束をしててね、絶対勝つって」


誰かが言ってたよ、「馬鹿になれ」って。

ここで引いたら漢じゃねぇ!


「その約束、命よりも大事か?」


「命より?そう言われると、うーんどうだろ?でも冒険者ってある程度はしてるんじゃない?『命を賭ける覚悟』ってやつをさ」


「……なるほど、つまりお前も今、少なからず覚悟はしていると……」


「まあね。俺自身の目的、大事な約束、色んなやつの夢の為、命を賭けてる。こう見えて結構重いもん背負って戦ってるんだよね、俺」


「ふっ……嫌いじゃない……お前みたいなやつ。だからこそ悲しいよ。せめて……楽に死なせてやるからな」


そう言って腐食騎士は、ゆっくりと背中の大剣を抜き構える。


「死なねぇよ。俺を殺したいなら魔王でも連れて来るんだな」


まずは鎧の破壊。

あの鎧があっては針で核を狙えない。


俺は手に魔力を纏い、構えを取った。

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