夜の記憶がない、知らないベッド、何故か裸ってマジですか?
待て、落ち着け!状況を整理しろ!
俺の聖槍スキル、アレをすると相手の女性のユニークスキルを得られる。
そして今の俺は召喚士のスキルを何故か手に入れている。
つまり……俺は召喚士の女性といたした?
召喚士はレアスキル、召喚士のスキルを持つ女性は非常に珍しい。
俺は昨日エマと準決勝で戦った。
エマは召喚士。
……。
嘘だろ!!!
SSランクのエマは人嫌いで有名で他人とはほとんど関わりを持とうとしないらしい。
そんな女性から俺に積極的にというのはまずあり得ない。
つまり俺が無理やり……。
「き、記憶が無い、倒れてからの記憶が……」
俺は布団からがばりと起き上がる。
裸だ。何も着ていない……。
やったのか?やってしまったのか?
急いで服を着て部屋の外に飛び出し人を探す。
「あ、ジェイド様、体は大丈夫ですか?」
早速メイドさん発見!
「宿の人?」
「そ、そうですが、すぐ朝食をお持ちしますね」
「朝食はいいから!それより昨日の夜俺の部屋に誰か来た?」
「ジェイド様の部屋の場所は極秘ということでしたので……」
「って事は誰も来てないよね!」
「いえ、エマ様が来ていましたよ、お会いにならなかったですか?」
「エマ……が……?」
俺はその言葉を聞きガックリと肩を落とした。
終わった。
『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド選手、決勝前にまさかの逮捕』
そんなチラシが王都中にばら撒かれるのが容易に想像できた。
ギルドの皆になんと説明すればいいのだろう。
俺は力なくとぼとぼと部屋に戻る。
すると部屋を飛び出した時は慌てて気が付かなかったが、テーブルに書き置きがあるのを見つけた。
もしかして、エマからの書き置き?
俺は慌てて紙を確認した。
「起こしちゃ悪いので帰ります。また今度元気な時に会いましょう、ジェイド。エマより」
「こ、これは……」
少なくとも、この書き置きに怒りや悲しみは感じられない!
エマは怒っていない?訴えられる可能性は無くなったかもしれん!
謝罪の場は設けるべきだがとりあえずは命拾いしたかもしれん!
俺はいつまでも落ち込んでいられないのでゴチンコのギルドに帰る事にする。
ジェイドの格好で戻れば大騒ぎになるので、もちろんタクトの格好でだ。
俺は気を取り直し、勤めて明るくゴチンコのギルドに入っていった。
「みんな、ただいま。心配かけました!」
「お兄ちゃん!おかえりなさい!」
そう言ってマリサが一番に抱きつき俺を迎えてくれた。
その後も皆んなが代わる代わる俺の怪我の心配と、決勝進出のお祝いをしてくれ、とても和やかな気分になれたのだが、実はギルドはの方は少し困った事になっており、のほほんとしている場合ではなかった。
「ちょっとどきなさい!」
「うわっと!」
皆んなと話していた俺はギルドにいたおばさんに思いっきり押し除けられた。
「あのババァ……後で殺す」
なんかマリサが殺気の籠った目つきでボソッと何かいった気がするが気のせいだろう。
うちのマリサは天使だから!
おばさんは突然ローラさんに絡み出す。
「あなたゴチンコのギルドの受付よね!?ジェイドさんは大丈夫なの」
「ジェイド様!お見舞い持ってきました!奥にいるんですか?」
「ジェイドは決勝戦出れるんですか?」
大勢の冒険者やジェイドファンに詰め寄られるローラさん。
「えーっと、ジェイドさんは……」
ローラさんが返答に困ってオロオロとしている。もしかしたら昨日からこうだったのかもしれない。
そうだとしたら大変だ。もしかしたら皆んな夜も寝れていないかもしれない。
この騒がしさ。
俺がなんとかこの状況を打破しなくてはならないと思っていると……
「パーン」
突然ギルド内に銃声が鳴り響いた。
「五月蝿い(ウルサイ)紅茶が不味くなる」
ギルドに設置されているテーブルで1人紅茶を飲んでいたアリスがそう言うと騒がしかった俺のファン達は渋々大人しくなった。
「何よ!あいつジェイド様にコテンパンにやられたくせに!」
「ケッ!ヒステリー女め!」
悪態をつきながらファン達はすごすご帰って行く。
「アリスさん。いいんですよ、ああいうのの対応は私たちでしますから」
「……別に……私は静かに紅茶を飲むのを邪魔されたくなかっただけ」
「でも、ああいう風にするとアリスさんが悪く言われるし、私それが本当に我慢できなくて……」
「言いたい奴には言わせておけばいいわ♪愚かなあなたに教えてあげる。100人のどうでもいい人間に何を言われたって私は何も気にしない。大事なのは自分にとって大切な数人にどう思われるか♡」
「わ、私はアリスさんの事大好きですし!あ、アリスさんのファンですから!!」
ローラさんがそういうとアリスは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐにいつもの妖艶な笑みを浮かべた。
「うふ♡ありがと」
こうしちゃいられない。
アリスやローラさんに負担をかけたままでは。
何かファンを押し留める解決策をと思っていると、ちょいちょいと肩を叩かれた。
「タクトさん。ちょっといいですか」
「ウランちゃん。どうしたの?」
「はい、ウランちゃんです!実はですね、ジェイドのファンに関する問題を解決する素晴らしいアイディアが一つあるんですが、タクトさんの体調が万全であればお手伝い願えればと思いまして」
ウランちゃんは鷹の爪で働いていた時いつも斬新なアイディアや効率的な仕事方法を編み出していた。
そのウランちゃんが素晴らしいとまで言うアイディアなら、この問題を解決できるかもしれない。
「早急にあの人達の問題は解決したいし、なんでもするよ!」
「そうですか、では……」
そう言ってウランちゃんは俺に何枚もの書類を差し出す。
「この契約書全てに目を通し、サインをお願いします」
こうしてこの日、後に超巨大ギルド『ゴチンコのギルド』の財政を支える一つの柱になる大事業が始まったのであった。




