害虫駆除って意外と大変ってマジですか?
ローラ視点
「アリスさん!」
良かった、アリスさんはSランク!
こんな卑怯な手しか使えない奴なんて楽勝なはず。
アリスさんは男を見て嫌悪感をむき出しにしながら言う。
「鷹の爪の掃除屋、毒牙のスネッグ。いつもの仕事と違って人質なんて、ずいぶん女々しい仕事をするようになったのね」
スネッグ!?この男、スネッグなの!?
世界に13人しかいないSSSランク冒険者の1人、毒牙のスネッグ!?
「ア、アリスさん!逃げて下さい!私は大丈夫です!だから……」
「あら♡逃げろですって?私に指図するなんて、100年早くてよ♪」
アリスさんは「ズキュン」「ズキュン」と弾を撃つが、スネッグは的確に避けていく。
でもよく見ると、この銃撃は攻撃のためではないみたいだ。
アリスさんは私が攻撃の射線状に入らないよう、上手く敵を誘導するために撃ったようだ。
さすがアリスさん!もしかしてアリスさんならSSSランクにも!
私にどうやっても弾が当たらない位置にスネッグが来ると、
「うふ♡」
と笑い、アリスさんは銃弾を連射した。
先ほどのようにスネッグはこれを避けるかと思ったが、意外な事にニヤリと笑ってその場から動かない。
もちろんアリスさんの打った弾は全弾命中する。
「クックック」
当然の様に無傷で笑っているスネッグを見て、アリスさんはつまらなそうに舌打ちする。
あんなに当たったのに!なんで無傷なの!?どうして?
「アリス、お前の考えは全てわかるぞ。あの女に当たらないようにわざと俺をここまで誘導したんだろ。まぁ俺も女に死なれちゃ困るから、わざと誘いに乗ってやったけどな。そしてもう1つ当ててやろう。お前は今焦っている!」
「これだから羽虫は。聞くに耐えない戯言しか口にできないのかしら?焦る?私が?」
「クックック。お前は俺のユニークスキルを知らない。それに比べてアリス、お前の戦闘スタイルは世間に知れ渡っているもんな。相手にスキルを出させてしまえば、やられる確率がぐんと上がる。だからこそお前の戦闘スタイルは先手必勝なんだろ。それなのにお前の自慢の銃弾が全弾命中したのにもかかわらず俺はピンピンしている。これで焦らなくて何に焦るって言うんだ?」
「ふん。所詮羽虫の戯言ね」
「強がるねぇ。別にお前が頭を下げればユニークスキルくらい教えてやったって構わんのに」
「羽虫に頭を下げる人間がどこにいるの?」
「クックク、ユニークスキルを教えたところで俺の勝ちは揺るがないからな。どう足掻いてもお前はSランクで俺はSSSランク。この差ってのはでかい。お前も冒険者なら分かるだろ。この差がどれだけ絶望的かって事をよ!」
スネッグがそう言うと、アリスさんは心底哀れだという様な口振りでスネッグに言葉を返した。
「確かに冒険者のランクは一つ違えばその戦闘力は10倍近く違うと言われている。でもその理論は私には当てはまらないわ。だって私、アリスちゃんなんですもの♡」
「はっはっは!噂通り大した自信だ!しかしな、お前が俺に勝てない理由はまだある。絶対に勝てない理由がな!」
アリスさんを信じたい気持ちはもちろんある。
でもスネッグの言う通り、状況は圧倒的にアリスさんが不利である。
「はぁ。羽虫の戯言に付き合うのはもううんざり。そろそろ再開しましょ?私そんなに時間がないの」
「つれないねぇ。よし大サービスだ。俺はこっから一歩も動かない。何でも撃ってみろよ!」
アリスさんは男がそう言い終わる前に、もう銃弾を放っていた。
「せっかちだねぇ」
ドォォォォォォォォーーン
物凄い音。
先程の連射していた銃弾よりも明らかに威力の高い弾だろう。
「クックックク」
あの笑い声、大嫌い!
銃弾は確かに命中したはずだ。
しかしやはりスネッグには傷ひとつない。
そしていつの間にかスネッグの体には、赤く煌めく鱗のようなものがついている。
おそらくそれで銃弾を無傷に防いだんだ!
体を変化させる能力?
「どうだ、驚いたか!」
「まぁあそこまで自信があったら、こうなる事も予想できたわね。防御特化スキルなのかしら?」
「ははは、教えてやろう!俺のスキルは古代生物」
「古代生物?聞き慣れないスキルね」
「世界でたった1人しか持たない最高のスキルだ!そして今発動しているのは遥か昔に存在した伝説と言われたルビーのような鱗を持ったドラゴン、ルビードラゴンの鱗だ!」
スネッグの話した内容から考えるに、おそらく伝説の古代生物の力を具現化できるといった感じの能力だろうか?
本当にそうだとしたらそれはとてつもないスキルだ!
今は鱗だったが、もしドラゴンの咆哮なども具現化できるとしたら……。
アリスさんは黙り込んでいる。
「色々考えを巡らしているようだが無駄だ。次はこちらから行かせてもらう!」
とてつもないスピードでアリスさんにおそいかかるスネッグ。
アリスさんは間一髪のところで傘でそれを受ける。
「俺のスキルで強化した一撃を受けるとは、なかなかの反射神経だな!」
爪?
スネッグの手にドラゴンのような鋭い爪が出ている。
やっぱり具現化できるのはウロコだけではない。
とてつもない威力と速さの斬撃を無数に繰り出すスネッグ。
アリスさんはかろうじて受けているが数発目でとうとう傘が弾かれた。
「もらったぁぁぁ」
ガラ空きになったアリスさんの胸にスネッグの爪による斬劇がクリーンヒットする。
アリスさんの軽い体はこれでもかと言う位に吹き飛んだ。
アリスさんは何とか受け身をとり着地するが、「ゴホッ」と咳をし大量の血を吐いた。
「アリスさん!」
スネッグはニヤニヤ笑いながらアリスさんに言う。
「これで分かっただろ、お前は俺には勝てない!」
「ちょっと、調子に乗り過ぎね、羽虫如きが」
「お前が俺に勝てない理由、もう一つ!教えてやるよ!それはお前のスキルだ!」
スキル?そういえばアリスさんのスキルって何なの?
アリスさんは何も言わない。
「お前のスキルの調べはついてるんだよ!クックック。傑作だぜ!お前のスキル、鍛冶師だろ?」
鍛冶師?鍛冶師ってあの鍛冶師?アリスさんが!?
「お笑いだよな、天才だの戦闘狂だの言われているお前のスキルが、別段珍しくねぇ、それも戦闘スキルですらないとわよ!」
「お前が必死にその傘を作って、弾に魔力を込めてって、考えると……クックク!報われない努力で涙が出るね!所詮この世はスキルが全て!大人しく田舎で鍛冶屋でも開いていれば、死ぬこともなかっただろうにな!」
「うふ♡うふふふふふふふ、はははははは♪」
突然笑い出すアリスさん。
「なんだ狂いやがったか?」
「アハハ♪いいえ、ごめんなさい。やっぱり羽虫は羽虫なんだなと。そんな考えしか持たないなんて」
「何だと?」
「鍛冶師のスキルがあるから鍛冶屋?じゃあ調理のスキル持ちは料理人?製作スキルがあったら大工かしら?剣士のスキルがあるから剣を使う?炎魔法のスキルがあるからそれを極める?それって本当にその人が選んだことなのかしら?」
「何が言いたい?」
「うふふ♡つまりあなたはそのスキルがあったから殺し屋なんてやっている。それじゃああなたって何なの?あなたは固有スキルに動かされてるマリオネットかしら?」
「詭弁だ!」
「私はアリス。可愛い服が好き。戦うのが好き。あなたみたいな羽虫を叩き潰すのが好き。ジェイド様が好き。そしてそんな自分が、だーい好き♡」
スネッグは怒りを露わにする。
「遺言はそれだけか?」
そう言って魔力を練るスネッグ。
彼の口元に禍々しい魔力が集まっていく。
「瑠璃の咆哮。この技を喰らって生きてたやつはいねぇ。避けなくていいのか。それともさっきの一撃でもう動けないか?」
「教えてあげる。勝つのは私」
「へ、そうかよ。じゃあ死んどけ!」
七色の光を放つバズーカ砲のような一撃がアリスさんめがけて飛んでいく。
「駄目!アリスさーーん!!」
スネッグの必殺技はアリスさんに直撃した。
「クックク、やりすぎちゃったぜ。あの女でも遊べば良かった」
「そ、そんな……アリスさん……」
私はぽろりと涙をこぼしてしまった。
「あら、どうして泣いているの?受付嬢♪」
「えっ?えっ!?あ、アリスさん!」
直撃を喰らったはずのアリスさんは不敵な笑みを浮かべ真っ直ぐに立っている。
どういう訳か、ゴスロリ服が無くなり、ガーターベルトの下着姿だ。
「アリス!?なぜ生きてる!」
アリスさんの目の前には、いつの間にか重厚な盾の様な物が浮遊している。
「そんな盾、どっから!」
「機銃変態零式私の傘、月季ちゃんの本当の姿」
あれが……傘?
「質量が明らかに増してるぞ。そんな変身どうやって!」
「私ってか弱い女の子だから、あんまり重いものは持てないの、だから普段はお洋服にして持ち歩いてるの♡お洋服と傘の合体。それがこの月季の真の姿」
服がなかったのはそういう理由!
「クッ!瑠璃の閃光!」
月季は回転して、容易くスネッグの咆哮をいなす。
「瑠璃の閃光!」
また防ぐ。きっと何度やっても……
魔力が切れてきたのか、明らかに疲弊するスネッグ。
対照的に口に手を当て大きなあくびをするアリスさん。
「あらあらもうこんな時間。本当に急がないとジェイド様の試合が始まってしまうわ」
そういうと盾が形を変える。
例えるなら砲台付きの機関銃?前衛的過ぎてうまく表現できない。
正確な魔力感知ができない私でもわかるほど禍々しい力が集まっていく。
スネッグがさっきとはまるで違う情けない声をあげる。
「ま、待て!俺が悪かった!」
「ごめんなさい♡さっきも言ったけど、羽虫の戯言は、もううんざりなの♪」
そう言ってニンマリと笑う。
「ひ、ひー!!」
「零式武の型、豪気噴出♪」
さっきの咆哮の数倍の威力の魔力砲がスネッグに飛んでいく。
スネッグは背を向けて必死に逃げるが間に合わない。
「ぐっ……ぐはっ……」
「うふふ♡うふふふふふふ♡害虫駆除……完了♪」
主人公以外の話を長々と申し訳ありませんでした。
次回、タクトの活躍に戻ります!
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