ガラガラ福引き・前編
年末なので、少し外出しただけでも街の浮足立ちっぷりがよくわかる。スーパーに行けば歳末セールで盛り上がっているし、夜になればイルミネーションが夜の道を色とりどりに照らす。
そして私も武士も、こういう空気感が好きだった。先へ先へと追い立てられるようなこの忙しなさには、不思議と高揚感が湧いてくるのである。
そういうわけで、私と武士は近所の商店街に来ていた。ここの商店街は、毎年一定金額以上買い物をしたお客さんに福引券をプレゼントしてくれる。武士はこの福引きに凄まじい熱意を見せており、今年も数日前から執拗に商店街で買い物をしていた。
「ついに、この日が来た……!」
武士の片手には、最低10回は引けるであろう券が握りしめられている。
「ゆくぞ、大家殿! 今年こそ某は一等を引き当てるのだ!」
熱意はいいけど、一等って何? 海外旅行ならお前パスポートないから無理だぞ。
「くくく、聞いて驚くがいい……! 一等とはすなわち、商品券一万円分よ!!」
これ以上あの商店街で何買うってんだよ!! お前この福引のためにあんまりいらない一人用鍋とか買ってただろ!!
「一人用鍋は使うでござる! 使うでござる!」
まあいい。それじゃめぼしい景品が出尽くす前に早めに行こうか。
「待て、大家殿」
何。
「福引きに行く前に雑貨屋に寄らぬか? 某、封筒を買いたいのだ」
えー、封筒? 別にいいけど、そんなんあとにすればいいじゃん。
……あ! まさかお前……!
この期に及んで新しい福引券を調達しようとしてるな!!? だめだだめだ! 福引のために無駄遣いすんな!
「ギクゥッ! しかし封筒がほしいのは本当であり……!」
ちなみにあと何枚福引券がほしいの?
「4枚……」
いくら買ったら1枚福引券がもらえるの?
「千円……」
お前四千円分封筒に使う気か!! アスクルで頼め!!
いいからもう行くぞ!!
「ぬおおおおおん……」
未練がましい武士の首根っこを引っ掴み、私は玄関を出たのであった。
~続く~




