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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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こたつで寝ると風邪ひくよ

 こたつで寝ると風邪をひく。それこそ幼い頃から耳にタコができるほど親から言われていたことであり、実際私も頭では理解しているのだ。

 だがこたつがあまりにも強い。疲労困憊で帰宅し、冷えた体を暖めるためにこたつに潜り込めばもうおしまいだ。閉店シャッターガラガラの勢いでまぶたが降りてくる。


 だがその日は違った。


 足を突っ込んだ先に、何か柔らかいものが当たったのだ。


 ぎゃああああああ!!!!


「うるさいのう」


 ハイごく自然な流れで武士でした! ふざけんな! なんでこたつの中にいるんだ!


「……」


 なんだその間!


「……あ、掃除しておったらいつの間にか寝ておったのだ」


 嘘つけ! 掃除中にちっさい枕持ち込むやつがあるか!

 ほら、出てこい出てこい。風邪引くぞ。


「ぬおおおおお」


 多少抵抗されたが、こたつのスイッチを切るとのそのそ這い出てきた。なんだこいつ。そういう生態の生き物か?


「某は風邪など引かん」


 馬鹿だから?


「違う、鍛えておるからだ」


 馬鹿は風邪を引かないっていうのは引いても気づかないかららしいよ。


「ばかではなく鍛えておるからだ。こたつごときに乱される体ではない」


 だめだぁ、話が通じねぇ。

 なあ武士よ。私だってお前を憎くて言ってるわけじゃないんだ。純粋な気持ちで心配してるんだよ。


「さきほど二度馬鹿と言っておったような」


 私はお前に苦しい思いをしてほしくない。それだけはわかってほしいんだ。


「ぬう……わかった。そこまで言うのであれば炬燵の中で寝るのは控えよう」


 そう言ってくれて安心した。


「うむ」


 安心したら眠くなってきた。


「どうした、大家殿。布団はあちらぞ。そこは他ならぬ炬燵……」


 おやすみ。


「大家殿ーっ!!」

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