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グラスの初めて(2)

 ドグスは、アリエーヌの予想外の言葉に驚いた。

「姫様! いまさら何を言うてんねん!」

 尻餅をついていた巨体の執行人たちが起き上がり、オバラの胸めがけて斧を振り下ろす。

 カキーン! カキーン!

 だが、その斧は、再び弾かれた。

「お前ら! 正気か? ここにいる王女に当たってもいいのか!」

 再びヒイロの持つパイズリアーが、二つの斧を弾き飛ばしていた。

 ハァ……ハァ……ハァ……

 だが、気のせいか、大漁旗をまとったその肩が小さく上下しているような気もしないでもない。


 ドグスがどなる。

「衛兵! 何をしとんや! その男をさっさと捕まえんか!」

 だが、先ほどからのヒイロの動き。

 なにやらオバラを守ろうとしている様子。

 理由はなぜだかよく分からんが、オバラとアリエーヌのそばから離れない

 ならば!

「お前たち、そこはいい! やぐらを壊しな!」

 執行人たち巨体が向きを変えるとバタバタとやぐらへと走りだした。

「させるか!」

 ヒイロもまた走る。

 櫓が壊されれば、その上に乗るボヤヤンとムツキは落っこちる。

 その瞬間、二人の首は締まり絶命し手に持つ鎖が離れていくのだ。

 そして、その鎖の先にある断頭台の刃の下にはオバラの腕と、それを外そうとあがいているアリエーヌの姿!

 ――ボケ姫が!

 だが、ヒイロの体は進めない。

 魔法の使いすぎか?

 確かにそれもある。

 ボロボロになった魔力回路が、先ほどからうずくような痛みを発っしている。

 だが、それよりもヒイロの周りまとわりつく衛兵たちが壁となり道をふさいでいたのだった。

 ――くそっ! 次から次へと!

 そんな壁の衛兵たちを一人一人いなしていては、いくらデブの執行人の足が遅いと言っても簡単には追いつくこともできない。


 咄嗟にヒイロの体は後ろ向きに跳ねとんだ。

 前がダメなら横から回り込むまで。

 しかし、ヒイロのお尻が何か柔らかいものにぶつかった。

 背後から可愛い女の声がする。

「痛い!」

 振り返るヒイロの足元には、四つん這いになってお尻をこするグラスの姿。

 そして、ミニスカートの裾からは、白き太ももの付けねがはっきりと見えていた。

 ――なんでこんなところにいるんだよ……って、なんというエロい恰好を……ハァ! ハァ! ハァ!


 ピコーン!


 途端にヒイロは前かがみになった。

 白きものへと手が伸びる

 もしかして、覗こうと言うのか?

 それとも、ココでやっちゃうの?

 確かグラスは処女のはず……

 おいおい戦いの真っ最中だぞ!

 いいのかヒイロ!


 いやいやヒイロはひらめいたのだ。


 ヒイロは四つん這いのグラスを担ぎ上げると、巨木のようにわきに抱えて突っ走った。

 今のグラスは、玄武の白きコスチュームを身にまとっている。

 すなわち玄武の加護による鉄壁の防御を有しているのだ。

 まさに、金城鉄壁きんじょうてっぺきの処女!

 ハッキリ言ってその硬度は思春期の男の子のようにカチカチなのだ。

 インポ寸前んのふにゃふにゃオッサンとは比べ物にならないぐらい超究極の硬度を有している。


「えっ……?」

 訳が分からないグラスは、キョトンとする。

 円周率の詠唱も詠唱も忘れるぐらいに、目を丸くしていた。

 その様子を見たドグスが焦る。

「その娘に手を出したらあかん!」

 その娘は、血液検査の紙を青くにじませた女。

 すなわち、マーカスたんと同じ血液型なのである。

 その言葉に衛兵たちがひるんだ。


 どゴーン!

 ヒイロの前に壁のよう、いや、難攻不落の城門のように立ちふさがっていた衛兵たちがぶっ飛んだ。

 そう、ヒイロが抱えたグラスの頭が、まるで巨木の丸太のように衛兵たちに突っ込まれたのだ。

「イヤ~ん!」

 古来より、城門を打ち破るには巨木を無理やりぶち込むと相場が決まっている。

 かたくなに開かぬ城門に、数人の兵士が担ぐ巨木を何度も何度も突っ込むのだ。

 いかに必死の抵抗があろうとも力任せに突っ込む。

 多くの血が流れようともだ

 ローション、いや、油を塗って突っ込んだという説も。

 火がついた巨木は、鬼のような反復運動を繰り返す。

 さすれば、門はおのずと開くのである。

「僕……初めてだから、優しくしてぇ~」

 グラスは泣き叫んだ。



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