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帰ってきたメロス……メロン?(3)

 ぼろのローブを羽織っていたその女は、目の前の親衛隊を蹴り飛ばすと、その体を踏み台としてステージの上へと舞い上がった。

 ひらりと舞広がるローブの裾から、女の太ももが見える。

 その身の軽さに、観客の誰しもが驚いた。

 ステージの上で膝をつく女は立ち上がるとともに、顔にかかるローブを払った。

「待ちな! ボヤヤンの代わりに私の首を使いな!」

 そこには、女盗賊のオバラの姿があらわれた。


 断頭台に固定されたボヤヤンが必死に叫ぶ。

「オバラはん! なんで帰ってたんや! そのままヒイロと逃げたらよかったんやでぇ!」

 オバラは澄み切った笑顔をボヤヤンに向ける。

「ボヤヤン! 約束しただろ。もう、アタイは汚いことはしたくないんだ!」

 そんな二人を見ていたムツキが泣き叫んだ。

「なら、俺と代われ! 俺はまだ死にたくないんだ! 頼む! オバラ!」

 そんなムツキをちらりと見るボヤヤンの目には涙が浮かんでいた。

「そうでっか……ならムツキはんと変ってあげてくださいな」

 ボヤヤンは、自分の事しか考えないムツキを見て悲しかったのだろうか?

 いや違う。

 まさに正反対。

 ボヤヤンはうれしかったのだ。

 ヒイロと逃げるものと思っていたオバラが、自分との約束を守るために戻ってきたのである。

 それだけでも十分と言えば十分だった。

 だが、ムツキが叫ぶのだ、ムツキ自身と代われと。

 ムツキと代わればオバラは、ボヤヤンと一緒に断頭台にくくられることになる。

 どうせドグスの事だ。

 断頭台に乗せた二つの首を、何もせずに解放するとは思えない。

 おそらく二人とも生きて帰ることはないだろう。

 なら、このままオバラと一緒に断頭台にくくりつけられたのなら、一緒に死ねるではないか。

 しかも、今のオバラの瞳にはヒイロではなくボヤヤンが映っているのだ。

 こんな幸せな死があるだろうか。

「オバラはん、私はアンタと命を共にしますよって……」


 だが、こんなお涙頂戴の芝居に納得できないものがいた。

 それはこの残酷な見せ場を作り上げたドグスである。

 せっかく断頭台の刃がいつ落ちてくるのかと言う恐怖におびえた表情を楽しめると思ったのにもかかわらず、その死を進んで受け入れようとする達観した表情。

 おもろない……

 そんな奴の首をズッコンバッコンと飛ばして、何がおもろいんや。

 ただ、血しぶきがドバっと吹くだけで、興奮が全くない。

 こう、もっと生に執着して、泣きわめくようなサウンドが欲しいんや!

 一方、その横ではマーカスたんはタクワンをボリボリとかじっていた。


 ドグスは、腰に手をやりオバラを睨む。

「なんでウチが、アンタらの言うことを聞かなならんのや? おかしいと思わんか?」

 オバラも女盗賊だけあって貫禄は負けていない。

 鋭い目つきで睨み返す。

 だが、その表情を見たドグスは気がついた。

 ――なんでこいつの肌はキレイになっとんや?

 そう、オバラの顔がきれいな肌に戻っているではないか。

 ボヤヤンやムツキは、いまだにヒドラにやられた後遺症でボロボロの姿。

 マーカスたんでさえイボガエルのようになっている。

 そんなマーカスたんが元のきれいな姿に戻るには全身の皮膚移植しかないと、この国の名医たちに言われたのだ。

 それで治るのなら安いモノ。

 金ならいくらでも積んでやる。

 しかし、マーカスたんの血液型は珍しい型。一万人に一人の型である。

 そんな珍しいドナーを見つけるために、わざわざ会場で血液検査をしていたのだ。

 本日の来場者数、約3万人。

 その中に、紙を青くにじませた女、すなわち、マーカスたんと同じ血液の型を持つ女が一人いたのだ。

 ドグスは既に、その女の存在の報告を受けていた。

 そいつの全身の皮をはぎ取れば、これでマーカスたんも一安心!

 だがこうまでしてマーカスたんを治療しようとしているのである。

 にもかかわらず、目の前のオバラは、どんな治療を受けたのか分からないが綺麗な姿に戻っているではないか。

 ――許せへん!

 そもそも、マーカスたんを、イボガエルのような姿にした張本人たちである。

 そんな奴がきれいな姿に戻ることなんて絶対に許せないのだ。


 ピコーン!


 嫉妬に似た怒りに燃えるドグスは、ふといいアイデアを思いついた。

 ――なら、こんなのはどうや!

 オバラの体を見てにやけるドグス。

「あんた! いい体してるやないけ!」



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