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帰ってきたメロス……メロン?(2)

 一方、反対側に縛られたムツキの前に立つミーナ。

 アリエーヌ同様に、ミーナもいやそうな表情を浮かべていた。

 ――こんな趣味の悪いことに付き合って、私に何かメリットがある訳?

 自分は、アイドルである。

 死刑執行人ではない。

 いくら大金を報酬として提示されていると言っても、こんなことで、自分がいままで築いてきたアイドルのイメージが、血なまぐさいイメージに変わるのはゴメンだ。

 だが、かといってアリエーヌ姫に歌と踊りで負けるのも癪に障る。

 勝っても負けてもミーナにとってはマイナスしかない。

 なら、この辺りで、さっさと手じまいして引き上げるのが得策かも……

 会場の声援を味方につければ、マッケンテンナ家もあきらめるかもしれない。

 ミーナは、それとなく会場の様子を伺った。


 そんな些細なミーナの様子にマーカスたんは気づいた。

 いつもミーナの一挙手一投足、喘ぐ表情までをなめるように見ていたマーカスたんだからこそ気づいたと言える。

 マーカスたんは、ミーナに近づくと、そっと耳打ちした。

「この勝負に勝ったら、本当に自由にしてあげるよ。負けたら……分かっているよね♥」

 その言葉に、ミーナの表情が硬直した。

 プロのアイドルらしからぬ表情。

 だが、この瞬間、どうしてもミーナはこの勝負に勝たなくてはならなくなってしまった。

 ――もう、あんな生活はイヤ……

「分かりましたぁ! ミーナ、頑張っちゃうから、みんな応援よろしくね!」

 プロの表情に再び戻ったミーナは笑顔で会場に手を振った。



 アリエーヌはミーナに耳打つマーカスの姿に唇をかみしめる。

 何やら親し気に話すマーカスの笑顔。

 アリエーヌの胸に何かムカムカとしたものがうごめいたのを感じた。

 ここ最近、マーカスがアリエーヌに話しかける言葉と言えばエロワードぐらい。

 優しい言葉の耳打ちなど、魔王討伐以来してくれたことが無かった。

 学校に一緒にいた時のマーカスなら、心細い時に限ってそっとつぶやいてくれたのに……

 それが今では、ミーナに耳打ちをしているではないか。

 ――どうして、変わってしまったのじゃ……

 アリエーヌの心が引きちぎられるかのような叫び声を上げる。

 ――ワラワじゃ、ダメと言うのか……


 そんな時、ミーナが笑顔で叫んだのだ。

「分かりましたぁ! ミーナ、頑張っちゃうから!」

 この言葉にアリエーヌはギョッとした。

 この女、何がそんなにうれしいのじゃ。

 人の首が飛ぶかもしれんのじゃぞ!

 しかも、正当な裁判でなく、余興のためだけに殺すのじゃ!

 アリエーヌはミーナの言葉が理解できなかった。

 だが、ミーナの傍らでその様子を嬉しそう、否、いやらしそうに見つめるマーカスの姿を見るとアリエーヌの頭は真っ白になった。

 ――あの女だけには負けたくないのじゃ……負けてはならんのじゃ……

 そんな気持ちがはじけた瞬間。

「私もやるのじゃ!」

 アリエーヌは大声を出していた。


 待ってましたと言わんばかりに二人の様子を見たドグス。

 火花散る二人の間に割って入る。

「それでは、このバトルの審査は魔王討伐の英雄! うちのマーカスたんにしてもらいまひょ!」

 会場からの沸き起こる拍手が同意の証。

 だれしも、正当なジャッジを下すだろうと期待していた。

 マーカスはキサラ王国では英雄なのであるから、誰もがそう思っていても仕方ない。

 調子に乗ったマーカスたんが、タップを踊りながら指を鳴らす。

「では、ミーナから! どうぞぉ!」


 前奏が始まった。

 ゆっくりとした曲調。

 そのためか、ミーナの歌を聞こうと会場はしーんと静まり返った。

 ミーナがマイクを持って、ステージの中心にゆっくりと歩いていく。

 そんな時であった。

 水を打ったような観客席から大きな女の声がした。

「ちょっと待ちな!」

 ちょうど、タクワンを振り回していた親衛隊の後ろ辺りである。



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