表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/108

断頭執行コンサート開幕(3)

 血液検査で並ぶ列の先にそびえるのが、マッケンテンナ家の大きな門。

 その門の前で、芸能プロダクション、ジュ・センドウのセンドウ社長が、ミーナの帰りを今か今かと待ちわびていた。

 そのセンドウ社長の様子とは反対に、多くの観客がこのミーナによる断頭執行コンサートを一目見ようと楽しそうに脇を通り過ぎていく。

 もし、ココでミーナが仕事をすっぽかしなどすれば、違約金などと言う生易しいものでは済まない。

 断頭ショーに並ぶ首が、センドウ社長の頭の分だけ増えることは間違いない。

 そう、今回のショーの失敗は、即、死刑。

 それが分かっているセンドウ社長は、先ほどから、気が気でないのだ。


「もう、ミーナってぇ、7時の約束、忘れた訳じゃないわよねぇ……」


 そんなセンドウ社長の横を、ローブをかぶった男が通り抜けていく。

 ローブの上からでもガリガリのもやしのような体格がよく分かる。

 そのかぶったローブの隙間から、七三分けの金色の髪形と眼鏡の男が見えた。

 男はメガネの真ん中を中指で押し上げながら、それとなくセンドウ社長に声をかけた。


「首尾はモシ……」

「こ・これはスットコビッチ第3王子ぃ!」


「バカ! ここではその名前を出すなモシ!」

「ス・スミマセン! 焦っていたものでぇ!」


「で、どうなんだモシ?」

「はい、警備の中に手のものを数人、仕込ませておりますぅ」


「よし! あとは、コンサートの騒ぎに乗じて背後からブスリだなモシ」

「御意ぃ」

 スットコビッチ第3王子は、ローブをまぶかにかぶり直して、嬉しそうに笑いながらコンサート会場へと入っていった。


 人ゴミに混じって、野球帽をかぶりグラサンをかけた女の姿が見えた。

 その手には、溢れんばかりの紙袋がぶら下げられていた。


「社長ぉ! ごめんなさい~ 遅くなっちゃいましたぁ~」


 センドウが怒鳴る。

「ちょっとぉ! 遅いわよぉ! もうあと少しでショーが始まるのよぉ! 衣装の準備もあるしぃ!」


 人ごみの中を堂々とトップアイドルが歩いて来るとは、意外であった。

 だが、そんなことあるはずないという先入観からなのか、意外と周囲の人間に気づかれないものである。


 センドウ社長は、ミーナの手を掴むと控室へと引っ張っていく。

 その段階になって、初めて多くの人間たちが気づいた。


「きゃー! ミーナよ! こっち向いて!」

 黄色い歓声がいたるところで沸き起こる。


 手を引かれるミーナは、グラサンを外すと愛想笑いをしながら手を振っていく。

 やっぱり、ミーナの知名度はトップアイドルである。

 先ほどの倉庫の中のモヤシ君は、ミーナの事を知らないと言っていたが、おそらく、あれは例外中の例外なのだろう。

 その時、ミーナは気づいた。


 あのモヤシ君に1,000ゼニー支払うのを忘れたと。

 まあ、また今度、会いに行こう……お金を、支払うという理由なら、会いやすい。


 そして、この人ゴミの中に、ぼろのローブをまとう影がまた別に一つ。

 そして、それとは別に黒きローブをまとう二人組。

 いろいろな思惑の人たちも集まってきているご様子。

 さあ、そろそろ第一部のクライマックス。


 断頭執行ショーの始まり! 始まり!


 そんな表の喧騒とは別に本番前の静かな舞台袖。

 そこに、一人の男がこそこそと身を潜めて辺りを伺っていた。

 どうやら、誰かを探している様子。

 しかし、その男は作業着のズボンをはいているのに上半身は裸。

 舞台を作っていた職人さんなのだろうか?

 それともミーナのバックダンサーとか?

 しかし、その胸板は、どちらの職業からも程遠いガリガリ君。

 どちらかと言うとモヤシであった。


 このモヤシ男、実はヒイロである。


 ヒイロは、先ほどの女から1,000ゼニーを回収しようとマッケンテンナ家のコンサートに来たのであるが、さすがに上半身裸であったため、血液検査を受ける前に追い返されてしまったのである。

 だが、そんな事ではくじけない。

 ヒイロは、マッケンテンナ家の壁をよじ登り、ステージ裏へと潜入したのであった。

 しかし、マッケンテンナ家の庭は、バカ広い!

 ステージ会場も、野球場一つぐらいはゆうにある。

 さらに多くの観客でにぎわう中、一人の女を探すのは困難と思われた。

 だが、ヒイロには秘策があった。


 ヒイロは、ゴソゴソと自分の背後をあさる。

 ステージ裏に、ヒイロのだみ声が響いた。


「大人のおもちゃ!の、バター犬! じゃなくてただの子犬!」


 ヒイロはテイムしていた子犬を、自分の影から取り出した。

 そして、お守りの臭いをかがせると命じた。


「さぁ! この臭いの人間を探せ!」


 だが、子犬はキョトンとしてヒイロの顔を見つめるのみ。

 膝を折り、子犬の頭をなでるヒイロ。


「お前には無理だったかな……」


 ワン!


「ねぇ、モヤシ君……なにしてるの?」

 ヒイロの背後から女の声がした。


 ワン!


 振り向くヒイロ。

 そこには先ほど倉庫で分かれた女が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ