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Boys, be ambitious!(2)

 俺の慌てぶりを見て、女の口元はさらにいやらしく笑った。

「だよねぇ。もしかして、あのぼんくらでエロだけしか取り柄のないマーカスなんかと入れ替わっていたとかないよねぇ~」


 さらに、俺の頭はパニクった。

 ――なんで、ここでマーカスの名前が出てくんだよ!

 俺は、『騎士養成学校である生徒』としか言っていないのだ。

 マーカスなどとは一言も言っていない。

 だから、正直、すり替わりがばれたとしても、誰とまではバレないと思っていたのだ。

 だが、だがである!

 この女は、瞬間に、その対象がマーカスだと気づいたようでカマをかけてきやがった。


「そんな事、あるわけないじゃないですかぁ~」

「だよねぇ。でも私、あのバカで間抜けのマーカスが、どうしても魔王を倒したとは思えないのよね……」

 ――なんだ、この女!

 やけに鋭い!

 この王国では一応マーカスは魔王を討伐した英雄だ。

 だれ一人として、その功績に疑いを持っていないはずなのだ。

 そう実際に一緒に戦っていたアリエーヌたちでさえも疑ってないのである。

 すなわち、仮に今ここで俺がマーカスとすり替わっていましたと言っても、だれも信用しないのである。

 それが普通なのだ。

 実際に俺がキサラ王国に戻ってきた際に初めてテコイに会った時ですら、そうだった。

 俺がマーカス=マッケンテンナだと名乗っても、テコイは同姓同名の別人だと信じて疑わなかった。

 それがこの国の住人たちの普通の反応なのだ。

 このキサラ王国のだれもが、マーカスのことをただのバカ息子などとは知りもしないのである。

 それをこの女……先ほどから、その英雄マーカスの事を、ぼんくらだのエロだの、バカだの間抜けなど言いたい放題。

 一体……マーカスとどういった関係なんだ?

 もしかして、近親者とかなのか?

 イヤイヤ……マッケンテンナ家のものなら、ドグスを恐れてマーカスのことなど悪く言える訳はない。

 悪く言ったことがムスコンのドグスにバレれば、確実に殺されるのが目に見えている。

 分からない……

 だが、このままではらちが明かない。

 ココは安全策を取ろう。

 バカ息子のマーカス一人では魔王を討伐することはムリだから、協力者がいたという設定ではどうだろうか。

 これなら、真実味があるよね。

 イケそうじゃん!


「きっと、アリエーヌ……姫……さま達と協力なさって魔王を倒したんじゃないですかね……」

「え~! もやし君、魔王討伐のお話を知らないの? マーカスって傷つくアリエーヌ姫達をかばって撤退させたんだよ。それで一人残って魔王を打倒したんだよ。だから、アリエーヌ姫はマーカスにゾッコンなんだよ! まぁ、その話が本当なら私も好きになっちゃうだけどね……あぁ、私も、身を挺して守られてみたいな……ロマンチックだっただろうな……」

「えっ……俺の事をアリエーヌが……」

「なんで……モヤシ君なのよ……」

 ドキン!

 しまったぁぁぁぁぁぁ!

 またまた、いらぬ事を口走ってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 アリエーヌが俺の事が好きだと聞いたから、ついつい本音が出てしまった。

 でも、アリエーヌって、俺の事好きだったのかぁ……

 今の俺自身、顔がめちゃくちゃだらしなくうすら笑いを浮かべているのが、なんとなく実感できた。

 まぁ、それぐらい、嬉しい!


 って、今はそれどころじゃない!

 何とか、この場を切り抜けないと!

「いやだなぁ~。あり得ぬ! あり得ぬって言っただけですよ! アリエーヌ……姫……さまがマーカスにぞっこんなんてあり得ぬ! あり得ぬ!」

「もやし君、何言っているのよ。アリエーヌ姫からマーカスに婚約を申し込んだことなんて、王国の人間ならだれでも知っているぐらいの大ニュースだったのよ! そんなこと知らないの?」

 ――知らんがな!

 俺がこの王国に戻ってきた時にちょうど婚約式してたけど、アリエーヌからマーカスに婚約を申し込んだなんて知らんがな!

 てっきり形式上とか、政略上とか、そんな感じだと思っておりましたよ。

「僕……ちょっと、旅に出ていまして……最近戻ってきたんですよ。えへへへへ」

「そうなんだ……まぁ、だからね、魔王を変態マーカス一人で倒したと思えないのよね……」

 ちっ!

 アリエーヌたちのパーティであるチョコットクルクルクルセイダーズでは、この女を誤魔化せないか。



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