倉庫のコンサート(2)
俺は、パンツとズボンを急いで身に着けると、倉庫のシャッターを開けた。
倉庫を出た俺は周囲を見渡す。
すでに夕暮れ。
時間としては、午後5時ぐらいといったところか。
だが、一体いつの5時なのだろう。
気を失ってばかりの俺には、すでに曜日の感覚は失われていた。
さてさて、どうしたモノか……
途方に暮れる俺にいつぞやのおっさんが声をかけた。
「おっ! 昨日の兄ちゃんじゃないか! ペンギンは元気か? また、高級魚を買っていくかい?」
ねじり鉢巻きを巻いたおっさんが、見るからにボロボロの漁具がたくさん入ったコンテナを担いでいた。
おそらくいらなくなったゴミを捨てに行っている最中なのだろう。
「いや……今、俺、金なくて……」
はずかしそうに頭をかく俺。
と言うのも、本日の晩御飯、いや、まだ、今日一日、俺は、何も食べていないのだ。
本音を言うと、高級魚ではなくて一番安い魚が欲しい。今すぐほしい。
だが、金がない……
マジで金がないのだ……
「そうか! それは残念だな! また、金ができたら買いに来てくれや!」
非情にもオッサンは、そういい残すとゴミ捨て場の方へと歩き始めた。
まぁ、オッサンにしてみれば、俺の財布事情など知ったことではない。
というか、知る訳はないのだ。
オッサンの反応は、普通と言えば普通なのだが、今の俺からみれば、非情なオッサンに見えてしまったのだ。
俺はあわてて声をかける。
「あの……それ、いらないのなら俺にくれませんか……今、本当にお金がなくて……」
オッサンは俺の方へと振り向いた。
「あぁ、いいぜ。どうせ捨てるゴミだからな。だが、いらないからって絶対に海に捨てるなよ! 最後まで責任もって片付けるんだぞ」
「分かってます!」
意外や意外! 非情だと思っていたオッサンは、快く承諾するとコンテナを俺の前にドカッと置いた。
そして、鼻歌を歌いながら2丁目の街の方向へと消えていった。
俺のあとをチョコチョコとついてきた5匹のペットたちが、倉庫の入り口で心配そうに座っていた。
とりあえず俺は、地面の上に置かれたコンテナをあさった。
何か使えるものはないだろうか。
ゴミがいろいろと入っている。
というか、ゴミしかない。
いや、分かっていたことなのだが、ここまでゴミしかないとは思っていなかった。
せめて、こう……弁当の残りとか……パンの残りとか……
ぐぅぅぅ。
俺の腹がなる。
本当に腹が減った。
「うぇ! ナマ臭!」
俺は、途端に顔をそむけた。
いろいろとあさるゴミの中から、生臭い匂いが立ち昇ったのである。
ゴミの表面には、大きなゴミ。
破けた大漁旗や、ガラスが割れた潜水具などなど
その壊れた漁具の下には、釣り人達が放置したと思われる腐ったエサのゴミが、ぐちゃぐちゃに丸められた釣りの仕掛けなどと一緒に放り込まれていたのだった。
おそらく、マナーの悪い釣り人たちが岸壁に残して行ったものなのだろう。
エビやゴカイなどは、腐って溶け落ちた状態で固まっているではないか。
そんな腐ったエサと魚特有のにおいが合わさって腐敗臭と言うか、なんというか、とにかく強烈な匂いをコンテナから漂わせていた。
うんこずわりの俺は、それでも鼻をつまみながら食べれそうなものは無いかとあさってみたが、当然食べられそうなものは無かった。
――まぁ、仕方ないよな……
俺は、よいコラショと重い腰を上げた。




