めい探偵ヒイロ(2)
フルチンのヒイロは自分が倒れていた場所に戻ると、考え込むようにゴミ箱に向かってゆっくりと歩き出した。
まるで、自我を持ったパンツが歩いた跡をたどるかのようにである。
意識を持ったパンツが、勝手に歩く……そして、ゴミ箱にたどり着いたパンツは、そこで絶命した。
なぜ?
ヒイロはもう一度、ゴミ箱の周りを確認した。
――このゴミ箱のまわりになにかきっとあるはずだ。
よくよく見ると、ゴミ箱の周りには、ホコリを散らすかのように大小さまざまな足跡が無数にあった。
しかも、それは、どう見ても人間の足跡である。
ヒイロはしゃがんでその足跡を観察した。
ピキーン!
名探偵ヒイロの目が光る。
この足跡は、どうやら6人のものだ!
そして、この一番大きな足跡が、犯人なのだろう!
ヒイロが倒れていた場所からゴミ箱へとつながり、ゴミ箱の周りを何度も歩く。
そして、ヒイロの背後に、後を追うかのように、この足跡は続いていた。
犯人はこの足跡の奴に違いない!
足跡をたどるヒイロの目は、ついに犯人の足へとたどり着いた。
そう、ヒイロの足へと。
犯人は俺かい! って、なるほど!
迷探偵ヒイロはニコニコと笑いながら両手を打った。
な! わけ! あるかい!
どうやら、この一番大きな足跡はヒイロのもので間違い無いようだ。
では、残りの五つの足跡は誰のものだろう。
倉庫の入り口を確認するヒイロ。
既に倉庫のシャッターは閉まっていた。
では、犯人たちはシャッターを閉めて外に出ていったのであろうか。
確かにその可能性は捨てられない。
迷探偵ヒイロは、床の上に続くその5つの足跡を追いかけた。
地面に這うアリを追いかける子供のように、うんこ座りで追いかける。
ちなみにこの時のヒイロ君、素っ裸ですらね。
歩くたびに地面のすれすれを袋状の振り子がビローンと疲れ果てて揺れているんですから。
もう、傍から見たらアホ丸出しです。
その5つの足跡は、ヒイロのズボンへと続いていた。
そして、そこでピタリと消えた。
予想していた倉庫の入口へとは続いていないのである。
と言うことは、犯人たちは、倉庫の外には出ておらず、このズボンの上にいるはず!
ヒイロはパッと顔を上げた。
そこには、頭上からペンギン、子犬、子猫、子ウサギの冷たい視線がヒイロに降り注がれていた。
しかも、二足歩行で……
さらに、腕まで組んで……
ハハハハ……
笑うしかできないヒイロ。
その四匹の視線は、まるで、何してんのよ! と言わんばかり。
その恐ろしいまでのプレッシャーに押されたヒイロは、とっさに正座すると、なぜか土下座していた。
「すみません! パンツを探しておりまして!」
もう、テコイたちにさんざんこき使われていた時の習慣が、体にしみこんでいたのだろう。
強いプレッシャーに対して自然に自分の身を守るように脊髄反射で謝ることができるまでに防御力がレベルアップしていたのだ。
そんな地面におでこをこすりつけるヒイロの耳にパタパタと言う音が聞こえてきた。
顔を上げるヒイロ。
その目には、白いブリーフパンツをかぶったレッドスライムが嬉しそうに駆けてくる姿が映った。
あぁ、お前だけだよ、パンツを持ってきてくれたのは……
ヒイロは咄嗟にレッドスライムに抱き着こうとした。
勢いよく飛びつくレッドスライム
ヒイロォォォォォォ!
レッドスライムがかぶっていたパンツは、最後の一枚。
そうそれは、テコイのところから追い出された際に履いていた最後のパンツだった。
これ履けッ!
レッドスライムの塊が、俺のアゴに!
ヒットしなかった!
ニヤッと笑う俺。
そうそう、同じ手は食らうか!
そう、俺は、とっさに、両の手でレッドスライムの塊を防いでいたのだ。
これでも俺は、魔王【ドゥームズデイエヴァ 】ことイブと互角に張り合った男なのだ!
しかも、マーカスと名乗っていた時には騎士養成学校中等部主席である!
同じ攻撃など二度も喰らうおバカさんではないわ!
俺の手に弾かれたレッドスライムの体が地面に落ちるとポンと弾んだ。
その瞬間、俺の股間に突き上げるような鈍痛が走った。
そう、跳ねたレッドスライムの塊が、俺の股間を直撃していたのだ。
ウグぐぐ……
不覚……
股間を押さえうずくまる俺の視界は、またもや暗転した……




