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ミーナのお仕事(1)

 その応接室の入り口からバタバタとかける足音が聞こえてきた。

 ドグスは背後を振り返る。

 開け広げられたドアから、アリエーヌの走り去る姿が見えた。

 ドグスは、ソファーから立つことなく声をかける。

「アリエーヌ姫様! もう、お帰りか?」

 婚約して以来、ドグスの態度は横柄になっていた。

 もう、自分のマーカスたんの嫁と言わんばかり。

 まぁ、平民のお母ちゃんと言えば、こんな感じなのかもしれないとアリエーヌは新鮮に感じていたのである。

 だが、今のアリエーヌにはそんなドグスの言葉に答える余裕はなかった。

 何も言わずに、マッケンテンナ家の玄関を押し開け出て行ってしまった。

 そんな様子を、ドグスは不思議そうに見送った。

「マーカスたんとなんかあったんやろか? まぁええわ! 姫様もビックイベントに招待すれば、気でも晴れるやろ!」


「あぁぁ! 疲れた! マネージャ! お茶!」

 朝のお新香しんこ占いのコーナーを終えた【イーヤ=ミーナ】が、控室の粗末な椅子に体を投げ出した。

 このお新香占い、テレビを持っているキサラ国の貴族たちの中では、結構人気なコーナーのである。

 しかも、収録場所が大衆食堂【ぼろもうけ】で行われているため、テレビを持っていない庶民たちも、毎朝、こぞってその収録を見学に訪れるのだ。

 そのおかげで食堂【ぼろもうけ】は超満員。

 立ち見でお茶漬けをすする者もいるのである。

 そんな食堂の奥でミーナのハツラツとした声が響く。

「今日のラッキーお新香はぁ! タクワン! タクワンを食べているアナタは超ラッキー!」

 食堂でタクワンをかじっていた男たちが絶叫をあげる。

 そして、ミーナは、わざとらしく泣くふりをするのだ。

 コレが意外に男たちにはウケがいい。

「そして今日のアンラッキーお新香はぁ! なんと梅干し! 梅干しを食べているアナタは残念さ~ん! そんなアナタにミーナからおまじない! 今日一日、元気になぁ~れ♪ チュッ♥」

 パッと笑顔になったミーナが、テレビカメラに向かって投げキッス。

 そんな見えないキスマークを男たちが歓喜の声を上げながら奪い合う!

 これが平日の朝のいつもの光景なのだ。

 まぁ、つらい現実にこき使われる男どもの、その日一日の活力源と言って過言ではない。

 ちなみに、キサラ王国の【コラコマッティア=ヘンダーゾン】も、この番組の隠れファンの一人である。


 収録が終わり控室に戻ったミーナにマネージャが急いでお茶を手渡した。

 そんな時であった。

 ミーナがいる控室のドアが勢いよく開いたのだ。

 そこには、【イーヤ=ミーナ】が所属する芸能事務所【ジュ・センドー】のセンドウ社長が飛び込んできた。

 急いでいたのだろう、せっかく整えていた金色のリーゼントが疲れたように崩れている。

 色鮮やかな赤いアロハシャツも、汗を吸ってところどころ薄黒く宵の空模様へと色を変えていた。

「ミーナちゃん! ミーナちゃん! 超VIPの仕事が来たわよ!」

 膝に手を当てて呼吸を整えるセンドウ。

 ゴツゴツしたエラボネからポトリポトリと汗が垂れ落ちていた。

 その汗のせいでグラサンが滑って落ちていたが、それすら直す余裕はないようだ。

 ミーナはストローで茶を飲みながら、だるそうに後ろを振り返った。

「えー、ミーナ、今、仕事終わったところなんですよー! ちょっと空気読みましょうよ、社長なんだから!」

 息を切らしているセンドウ社長は続けた。

「今夜、マッケンテンナ家でライブをすることになったの!」

「えー! 今夜ですかー! しかも、マッケンテンナ家って、あの変態マーカスがいるところじゃないですかー!」

「何言っているのよ! 報酬2000万ゼニーよ! しかも、設備ウンヌンの準備はマッケンテンナ家がやってくれるの! 2000万ゼニー丸儲けよ! 丸儲け!」

「だって、それ、社長の取り分じゃないですかぁー」

「わかってるわよ! ミーナ、あなたには半分あげるから! どう! いや、絶対に仕事しなさい!」


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