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アリエーヌの決意(3)

「マーカスは、もしかして、アイドルが好きなのか?」

 アリエーヌが運んできたグラスを掴むと一気に飲み干すマーカスたん。

「僕ちんは、トップアイドルが好きなんだ。みんなのあこがれの女を自分だけのおもちゃにできる優越感。分かるかな?」

「ワラワには……全然分からないのじゃ……」

「だろうね……だから、僕ちんは、君には興味ないの! トップアイドルじゃないと萌えないのだよ~」

「これでも、ワラワは……キサラ国の第七王女ぞ……アイドルなんかよりも……」

「王女? 何それ? おいしいの? 何なら、君もテレビに出てアイドルしてみたら? ミーナほどではないけど、可愛いからそこそこイケるかもよ」

「ワラワがか……」

「もし、君がトップアイドルになれば、僕ちんが、たっぷり可愛がってあげるよ!」

「トップアイドルになれば、ワラワを許してくれるというのじゃな……」

「もう、めちゃくちゃに可愛がってあげる!」

「そんなに、ワラワを愛してくれるというのか……」

 再び始まったミーナのコンサート。

 マーカスたんは、再びベッドの上で踊り狂っていた。

 婚約者であるアリエーヌが、そばに来ているというのに完全無視でアイドルの踊りに専念している。


 アリエーヌはのテレビの画面のミーナを睨む。

 ――マーカスはワラワよりもこのアイドルのほうがいいというのか……

 両手をギュッと握りしめると、ぱっと入口へと向きを変えた。

 アリエーヌの白きドレスの肩が上がり震えていた。

 じっと、うつむくアリエーヌ顔に長い銀髪が垂れ落ち隠す。

 その隙間からかすかに覗く口角が、何かに耐えるかのように小刻みに震えているのが見えた。

 ――ならば……ワラワも……

 マーカスにサヨナラも言わずに部屋を駆けだしていった。

 その後には、アリエーヌの目からこぼれたであろう小さな水滴が光を散らしながら落ちていった。


 ドグスは、応接室でいらだちを隠せないようだった。

 高級そうなソファーに偉そうに座るドグスの前に、この国で自称超有名な医師たちが、うつむき立っていた。

 その様子は、学校で宿題を忘れて先生に怒られる生徒のよう。

 一方的にドグスの罵声を受けるものの、何一つ言い返すことができなかった。

 というのも、マーカスたんの傷痕を何とか治せないものかと医師たちに相談していたのである。

「金ならいくらでも積むというとるやろうが!」

 ドグスは、目の前のテーブルをバンバン叩きながら大声を上げる。

 医師はおびえながら答える。

「かと言いましても、傷の範囲は体全体に及んでおりまして……」

「だからんなんや!」

「ですので……皮膚移植となりますと、ほぼ体全体となり、その手術の負担はかなりのもの……」

「そこを何とかするのがアンタらやろが! ぼけ!」

「まして、移植するためのドナーが見つかったとしても、そのドナーの全身を移植用に使いますと、その命が危険にさらされることに……」

「なんや、そんな事か! それならドナーの一人や二人、殺したらええがな! あとの処理はウチラが責任もってやってやるさかいに! そいつの家族の前に大金ドンドンと詰んだらしまいや!」

「はぁ……ですが、そのドナー探しが大変でして……」

「どないなことや?」

「マーカス様の血液型が少々、稀なタイプでして……」

「稀ってどれぐらいや!」

「1万人に一人ぐらいの確率でして……」

「なんや、1万人に一人ぐらいの確率かいな! びっくりしたわ!」

「いや、ドグス様、そのような低確率のドナーを今から探すのには時間が、少々かかりまして」

「はあ? 1万人やろ、何ぐずぐず言うてんねん! アンタが言うのは1万人おったら1人はおるってことやろが! それならしよいがな! 何ならウチが3万人集めてやるわ、そしたら一人ぐらいはおるやろ!」

「ドグス様……どうやって……」

「まぁウチに任せときや!」

 ドグスはニタぁと笑う。



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