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ごめんなさい(1)

 街に転移されたオバラは、すぐさま走る。

 時間がない。

 明日の夜には、誰かの首が飛ぶ。

 それまでには、牢に戻らないと。

 ぼろ布だけをまとったオバラの影が、キサラ王国港町二丁目の裏道を疾走していた。


 テコイの女で何もしていないように見えてもオバラは、やはり女盗賊である。

 裏の世界の情報網は無数にあった。

 今まで、【強欲の猪突軍団】の中で何もしないテコイの耳として情報をかき集めていたのだ。

 そんなオバラの耳に、その昔港でエルフの女たちを匿っていた倉庫に借りてがついたとのうわさが入る。

 その倉庫の大家はのババアは、頑固者で誰にもその倉庫を貸そうとしなかった。

 それが、いきなり若者に貸したそうなのだ。

 その倉庫で、ペンギンやらスライムやら連れ込んでペットショップを開くらしい。

 スライム……?

 もしかして、ヒイロか?

 それを聞いたオバラの影は、港に向かって走り出していた。


「ヒイロ……ごめんね……アタイ、アンタの事が怖かったんだよ……」

 暗い倉庫の中でオバラの声が小さく震えていた。

 倉庫の入り口から差し込む日の光が、一つに引っ付く二つの影をいまだホコリが積った床の上にはっきりと描き出していた。

 あっけにとられるヒイロにローブ姿のオバラが抱き着いていたのだ。

 だが、その声は小さく震えるばかりか、涙が混じっている。

 ヒイロの胸に顔をうずめるオバラが続ける。

「アンタの、きれいな目で見られると、アタイ自身の事を汚いと思われるような気がしてんだよ……」

 ――アタイは……アンタの目が好きだった

 オバラは思う。

 ……今頃気づいたんだ……アタイはアンタの事が好きだったんだって……

 でも言えない……そんなことは言えない。

 ヒイロに対して散々な仕打ちをしておいて、いまさら好きでしたなどと、そんな都合のいいことは言えない。

 でも、これだけは言いたい……

「本当にごめんなさい……」

 ヒイロの顔を見上げたオバラからローブがはらりと落ちて肩にかかった。

 一瞬その姿にドキッとするヒイロ。

 オバラの左半身はやけどのように一面赤くただれたいるのだ。

「その姿……どうした……」

 ヒイロは、やっとのことで声を絞り出した。

「……大した事ないよ……これは、アンタを裏切った罰さ」

 オバラは、肩にかかるローブを、再び頭にかけなおす。

 まるで、この姿をヒイロに見られたくないかのように、こそこそと隠したのだ。

 ……アンタだろ、今までアタイたちを守ってくれていたのは


 だが、どうしてなのだろうか。

 オバラは震える小さな声で、ヒドラ討伐の事を語りだしたのだ。

 ヒイロに聞かれたわけでもない。

 それを伝えたからと言って、どうなるものでもない。

 ただ、自分たちが受けた罰をヒイロに聞いてほしかっただけなのかもしれない。

 この罰を受ける代わりに、ヒイロに許してもらいたかったのかもしれない。

 それは、オバラ自身にも分からないのだ。

 もしかしたら、ただ、二人の密着する時間が、気恥ずかしすぎて、何をしゃべっていいのか分からなかっただけなのかもしれない。

 まるで、処女の女の子が、初めて男性に抱かれた時のように、必死に何かをしゃべろうとしていただけなのかもしれない。

 あの盗賊のオバラが?

 まさかね……

 一通り話し終えたオバラは、ヒイロに忠告した。

 テコイがヒイロを逆恨みしていること。

 マーカス負傷の責任から逃れるために、ヒイロのせいだとマッケンテンナ家に言いつけたたこと。

 そして、それによってドグスがヒイロを探していること。


 しかし、オバラは笑っていう。

「テコイに見つからないように姿を隠しなよ」

「お前たちは大丈夫なのか?」

「アタイたちの事なんて気にすることなんかないよ! これはもともとアタイたちがまいた種だ。アタイたちの首が切られれば、ドグスの溜飲も少し下がるだろうからね」

 涙をたたえたオバラの目が笑っていた。

 なんだって!

 いま、オバラはさらりと凄いことを言ったような気がした。

 自分たちの首が切られればドグスは満足すると……

 一体どういう意味だ?

 分からぬヒイロは問い直した

「首が切られるってどういうことだ?」

 オバラは、しまったという顔をした。

 とっさに体を離し、顔をそらして何も言わなくなった。

 先ほどまで、饒舌に聞きもしないことまでぺらぺらとしゃべっていたにも関わらずだ。


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