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なんでパンツを履いてない?(1)

 ぼーっと潮風を浴びながら、昔のことを思い出していた俺。

 そんな俺の耳に、港の喧騒が入ってきた。


「コラ泥棒が! 今日と言う今日は許さんぞ!」

 男の図太い怒鳴り声である。

 ふと横を見ると、漁が終わった漁船から、魚を水揚げしているところだった。

 豊漁だったのか、コンテナからは魚が入りきらずこぼれ落ちていた。

 そんな水揚げをしているコンテナの横で、オッサンが何やら捕まえて怒鳴っているのだ。

 おおかた、野良猫が魚をつまみ食いしたのだろう。

 港ではよくある光景だ。

 おれは、暇つぶしにその様子を覗きに行った。


「どうしたんですか~」

 俺は、そのオッサンの手元を覗き込む。

 ねじり鉢巻きを巻いたオッサンが、勢い良く振り向き唾を飛ばす。

 汚ねぇ……

「どうしたもこうしたも、コイツが魚を食いやがるんだよ。しかも、高級魚ばかり!」

 オッサンの手には、その犯人とおぼしき影が足を掴まれ逆さづりにされていた。

 懸命に逃れようと体をよじるも、オッサンの力からは逃れられない様子。

 ついに犯行をゲロったのか、口から魚を吐き出し始めた。

 一体、何匹食っていたのであろうか……

「それ見ろ! こんなに食いやがって! もうこれ、売り物にならないだろうが!」

 オッサンは、これこれみようがしに犯人を揺さぶった。

 さらに魚を吐き出す。

 その数、5匹。

 うーん、だがその転がる魚たちが高級魚かどうかは俺には、判断つかなかった。

 どれもこれも見たことが無い魚ばかりなのである。

 俺が見たことがある魚と言えば、人差し指ぐらいの干からびた魚。

 それを頭からカリカリとかじるのである。

 しかも、30分ぐらいかけて……だって、すぐに食べてしまったら、腹減るだろ。

 すでに犯人は、全て吐き出し力尽きたのか口から舌を垂らし動かなくなっていた。


 はて? コイツ……どこかで見たことがあるような?


 そう、目の前につるされているのは、猫ではなく、ペンギンだったのだ。

 この辺りには野生のペンギンが生息しているのかだって?

 キサラ王国は一応、温帯地域。ペンギンの生息域からは遠く離れている。

 ということは、大方、誰かが飼っていたペンギンが逃げ出したのだろう。

 しかもこのペンギン、どことなく見覚えがあるのだ。

 そう、たしか騎士養成学校にいた時に、アリエーヌのタオルを盗んだペンギンにそっくり。

 あの時エサでおびき出し、テイムして、その跡をついて行けばずぶ濡れの子犬が丸まっていたんだよな……アリエーヌのタオルで包まれた……でも……もう冷たくなっていて……アリエーヌのタオルは、返さないといけないから、代わりに俺の制服で包んで、埋葬したんだったけな……

 あの時も魚盗みに来ていたな……ペンギン

 でも、子犬を埋葬した後、気づいたらいなくなってたんだよね……

 そういえば、あの時、借りたのアリエーヌとグラスのタオル、まだ返していなかったっけな。

 アリエーヌの大切なタオル……

 アリエーヌのお父さんからの唯一のプレゼント……

 いつか、ちゃんと返さないといけないな……

 俺を見つめたペンギンは、何かに気づいたかのように力任せに体を振った。

 咄嗟の動きにオッサンの手が離れる。

 その隙に、ペンギンが急いで俺の影の中へと逃げ込んだ。

「よう……兄ちゃん……そのペンギン……お前の使い魔か!」

「えっ……?」

「なら、そいつが食った魚の代金、きっちり払ってもらおうか!」

 俺の財布からなけなしの500ゼニーが消えた。



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