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寂しさと切なさ(3)


「あんた、お腹すいてるんだったら、そこにパンがあるから勝手に食べな」

 アキコさんはそう言い残すと、部屋の奥へと消えていく。

 そして、奥からはシャワーの音が聞こえてきた。


 俺は、部屋の片隅に正座し、言われたパンに手を出した。

 というのも、昨日の晩から何も食べていなかったのである。

 なんせ俺は、昨日一日レッドスライムの回復にかかりきりだったのだ。

 それが終わって、やっと飯にありつける、そう思った矢先。

 酒場でクビ宣言からの追放である。

 しかも、パンツ一丁で……

 したがって、俺は当然、何も食べてない。

「カタっ!」

 パンを噛む歯が、がりっと言う音を立てた。

 ちなみにこのパン、ハード系のパンではない。

 どちらかと言うと見た目は食パンのような、やわらかいパンのはずなのだ。

 だが、幾日もその場に置かれていたせいなのか、干からびてカチカチになっていた。


 そこにシャワーを浴び終わったアキコさんが濡れた髪をふきながら現れた。

 急いで出てきたのだろう。身に着けるネグリジェが、ところどころ水を吸って肌をすかしている。

 どうやら下着はパンツだけのようである。

 少々胸がきついのか、ネグリジェの胸元から脇にかけて緊張する線が幾重にも入っていた。

 そしてそのでっぱりが作る影が、ランプの明かりで妙に生々しい影を揺らしている。


 アキコさんは俺の手から残っているパンを奪い取ると、かじりながら鏡の前に座った。

「あんたもシャワーを浴びておいでよ」

 鏡を見ながら髪を整えるアキコさんは、背中越しに俺に声をかけた。

 口に含んだパンがいっこうに柔らかくならない。

 唾液が全くでないのだ。

 口の中がカラカラに乾いて、声も出なかった。

 だが、すでに思考が止まっている俺は、言われるがままシャワーを浴びに部屋を横切った。

 鏡に映るアキコさんと目が合った。

「着替えは、女物だけど許せよ」

 俺はうなずくしかできなかった。


 シャワーを頭から浴びる俺は、うつむき何もできない。

 心臓の高鳴る音が、やけに大きく聞こえるような気がした。

 どうすればいい、どうすればいい……

 そんな俺を心配するかのように、ドアの向こうから声がする。

「あんた、生きてるかい! もう寝るから早く出な!」


 俺は、仕方なくシャワーを止めると、タオルで体をふいた。

 ドアの外には、女物のバスローブが丁寧にたたんであった。

 俺はそれに手を通す。

 背が高いと思っていたが、案外小さい。

 まるでバスローブが半ズボンのようになっていた。


 恐る恐るアキコさんがいた部屋に顔を出す。

 そこには、すでに布団が無造作に敷かれていた。

 部屋の周りには、先ほどまで部屋を占有していたモノたちが、押しのけられて山をなしている。

 おそらく、急いで引いたのだろう。

 部屋の真ん中に一人用の布団が一つ。

 何日も洗っていないかのように、ところどころ黄色いシミを残していた。

 そして、すでにアキ子さんが横たわっているシーツもまた、激しいしわを刻んでいた。

 だがきっと、俺がくる前にこのシーツを何度も何度も伸ばしたことだろう。

 シーツの四隅はきっちりと布団の下へと折りこまれていた。

 だが、幾度となく男女の情愛によって激しく刻まれたしわは、そうそう簡単には消えなかったようである


「布団一つしかないからな、勘弁しろよ」

「いや、僕は……そこの廊下で結構です……」

「バカじゃないか。そんなところで寝たら風邪ひくよ」

「でも……その……俺、一応、男だし……」

「ははは、あんたマセてるね。私を抱く気なのかい?」

「え……その……」

「なにもしやしないよ……ただ、そこで寝たら風邪ひくだろ……」

 俺は、静かにアキコさんの側に身を横たえた。




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