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寂しさと切なさ(2)

 俺はあまりの寒さから、そのショールを自分の体に巻き付けた。

「あ……ありがとうございます」

 咄嗟に、その女にお礼を言った。

 だが、この女、どこかで見たことがあるような。

 ロングの金髪、長い耳。

 そして、切れ上がるような美しい猫目。

 エルフか……

 身に着けているパーティドレスは両肩から胸元を見せびらかすかのように大きく開いていたが、どことなく大人びて落ち着いている。

 そして、そのタイトなドレスのスカートが、長く伸びる足にまとわりついて腰のくびれをはっきりと強調する。

 その雰囲気は強気の大人の女と言う感じである。


 俺は思い出した。

 この女こそ、【クラブエルフ】のホステス、アキコさんである。

 俺は、一度、店の前でムツキを足蹴にしていたところを見たことがあったから、間違いない。

 ムツキからヒドラのように毒を吐く女と聞いていた。

 しかし、その女が優しい目を向けながら俺にショールをかけてくれたのである。

 俺は咄嗟に、弁明した。

「あの……俺……お金ないですけど……」

「そんなの見たら分かるよ」

 アキコさんは馬鹿にしたような笑みを浮かべながら答えた。

「ならどうして……」

「いや、あんた見てたらおかしくなってさ……この町にも私以上にみじめな奴がいるんだってね……」

 俺がみじめって……

 だが、パンツ一丁で震えている自分の姿を思うと確かにうなずける。

 というか、本当に惨めだった。

 有り金も全部、テコイに巻き上げられた。

 家の鍵も没収された。

 部屋に戻ることもできなければ、食うものもない。

 明日からの生活、本当にどうしたらいいのかと途方に暮れていたのである。

 うん……確かに、俺は、みじめだな……

「大方、ムツキ達に追い出されたんだろ……」

「はははは」

 俺は否定もしなければ肯定もしなかった。

 ここで、ムツキの事を告げ口するのも、なんか悪い気がしたのだ。

 うん?

 ムツキに追い出された?

 アキコさんがムツキを知っているのはうなずける。

 だが、俺がムツキとパーティを組んでいるっていう事をどうして知っているのだろう?

 というか、なんで俺の事を知っているのだろう?

 だが、俺は、そんなことを確認する余裕がないぐらいに震えていたのだ。

 とにかく……寒い……


「あんた、帰ったら着る物ぐらいはあるんだろ」

 震える俺にアキコさんは、確認した。

 まぁ、当然、YESという言葉を期待していたのだろう。

 その言葉を聞けば、早く帰れよなどと言って、言葉を切り上げるつもりだったのに違いない。

 だが、俺の回答は……

「じつは帰る場所もなくて……」

「はぁ? あんた宿無しかい!」

「いや……部屋はあるんですが、鍵がなくて……」

 愛想笑いするしかない俺。

 はぁと大きくため息をつくアキコさん。

「ちょっと待ってな」

 そう言い終わると、アキコさんは、自分の店の入口へと駆けて行った。

 店の入り口に顔を突っ込むと、大声で叫んだ。

「私は、もう上がるからね!」

 客が混み合うにぎやかな店中。その中から、女たちの金切り声が漏れてきた。

「また! アキコさぼりかい! ちょっと! オーナー何とかしてくださいよ! あの女!」

「いつもいつもさぼってばかりじゃないですか~! わたしたちにもお休みくださ~い」

「お前たち、休んでばっかりだろうが! ちっとは働けよ! オーナーの俺のほうが働いてるだろが!」

 アキコは、決まり切った店の反応も聞かずに俺のもとへと返ってきた。

「私についておいで」

 そして、俺の前を歩きだすと手招きした。


 そこはぼろい木造のアパート。

 俺の住まい同様、いやそれ以上にぼろい建物だった。

 ギイギイと音を立てる外階段を昇っていく。

 そして、一番奥のドアにカギを突っ込んだ。

 しかし、ドアは開かない。

 アキコさんは、慣れた様子でドアの角を蹴っ飛ばす。

 まるで、合言葉がピタリと合ったかのようにドアが不気味な音を立てて開いていった。

「入りな」

 暗い部屋の中に入ると同時にアキコさんは手招きした。

 しばらくすると、部屋の中に赤い光が浮かび上がった。

 アキコさんがランプに火をともしたのだ。

「さっさと入りな! 寒いだろ!」

 ドアの外で戸惑っていた俺を急かす。

「お……お邪魔します……」

 俺は恐る恐るドアの敷居をまたいだ。

 というのも、女性の部屋に入るは初めてなのだ。

 まぁ、その様子から分かるように、俺は童貞なのである。

 だが、そんな俺の体が硬直した。

 俺の目の前で、アキコさんが背中にかかる長い金髪をかき上げていたのだ。

 しかも裸で……

 いや、パンツは履いていたよ、パンツは。

 ただね、それ以外は何もつけずに無防備な姿。

 赤いランプに照らし出された白い背中に、金色の長い髪がはらりはらりと落ちていく。

 当然、童貞の俺は固まってしまって動けない。

「ちょっと着替えるから、待ってな」

 そう言うと、アキコさんは脱いだパーティドレスから足を抜き、その服を持ち上げた。

 うつむくアキコさんの脇から、白い肌のふくらみがハッキリと見えた。

 赤いランプの光の中に、ひときわ赤く色づくつぼみは、俺の記憶に鮮明に焼き付いた。


 その瞬間、何か俺の過去に消してはならないと思っていた青春の記憶が書き換えられたような気がした。

 そういえば、なんだったっけ……その記憶。




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